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ツインテール美少女戦士ふたば  作者: ツイン照男
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過去×涙×不穏な空気

ここで、私が私立フェイリア学院高校に入ることになったきっかけを話しておこう。






それは、入学式より四か月前。



私は、朝から受験勉強に励んでいた。

苦手な数学、理科を中心に、受験によく出る問題を解く、というやり方だ。



「ふたばもコーヒー飲むか?」



今話しかけてきたのは父だった。

父は一年前に仕事を定年退職、それからは趣味の園芸にのめり込んでいた。



「熱いから気をつけてな」

「うん、ありがとう。って、熱ッ!!」

「ほら~~、だから言ったじゃないか」



父がハハハと笑う。

私は、そんな父のことが大好きだ。

自慢の父である。



当の私は私立高校を狙っていた。

それも超がつくほどの有名校に通いたいという無鉄砲さ。

今考えると笑えてくる。

私はコーヒーを一口すする。



苦い。

しかし、この苦さが心地よい。

なんだか、一足先に大人になったみたいだ。

コーヒーのよさを分かった気になっただけで大人とは。

やはり、今考えると笑えてくる。

世間の子供はよく『お寿司をさび入りで食べられたら大人』と言うが、私の中での『それ』は『コーヒーの苦さを克服すること』なのだ。






父に「話がある」と言われたのは、それから一ヶ月後のことだった。



私は少しだけ恐かった。

なぜなら、父が今までに見せたことのない表情を見せたからだ。

一体なにを言われるのだろう。

不安のほうが強かった。



「ふたば、志望校を変えなさい」



父の言葉はあまりにも意外なものだった。



志望校を変える?

なんで?

急に言われても。

どうして?

さまざまな思いが頭の中を駆け巡る。



「えと……ど、どうして……?」



私は思わず父の真意を聞いた。



「今のままじゃ志望校には受からないだろう。滑り止めも怪しい。そこで思いついた。ふたばに友達がいただろ?お嬢さんの……」

「あかり……ちゃん?」

「そう! そのあかりちゃんの父親が高校の理事長を引き受けることになったんだ。それで、よかったらそこに入れてもらえば……」

「コネ……ってこと?」

「……ふたば?」



信じられなかった。

いや、信じたくなかった。

あの父がそんなことを言うなんて。

聞き間違いであってほしい。

私はそう願った。



「どうしたんだ、ふたば?」

「ウソ……だよね? コネで入ろうなんて……」

「なに言ってるんだ。父さんはウソをつく男じゃないぞ」

「!?」



聞き間違いではなかった。

信じられなかったが、信じるしか選択肢はなかった。

コネで入ろうなんて馬鹿げている。

ふいに、私の中に怒りが込み上げてきた。



「本当にどうしたんだ、ふたば?」

「見損なったよ、お父さん!!」

「……ふた……ば?」



「コネで入らなきゃならないなら、私はもう受験なんてしない!!」



言ってしまった。

だが、もう引き返すことはできないと思った。



「お父さんなんて大ッ嫌いッ!!!!」



私の中にあった理想の父は、いとも容易く消滅してしまった。




結局、志望校には受からず、滑り止めも見事に落ちてしまった。

父の言うとおりになってしまった。

とはいえ、働き口があるわけでもなく、私はしぶしぶ父の薦める高校《フェイリア学院高校》に通うことになったのだった。




父の言うことももっともだ。

でも、どうしても許せなかった。

父とはあの日以来、口を利いていない。

しばらくはそんな日が続くと思った。






「ふたばさんはフェイリア学院はお好きですか?」

「え!?」



あかねが突然話しかけてきたことに私は驚いた。



「なに、突然!?」

「ですから、ふたばさんはフェイリア学園はお好きですか?」

「うん……好き、だよ……」

「ウソ、ですね」

「え?」

「ふたばさんは、本当はフェイリア学院に入りたくはなかったのではないですか?」

「!?」



どうして?

あかね、どうしてそんなこと?



「三か月前、ふたばさんはこう言いましたよね? 『お父さんがお父さんじゃなくなった』って」

「……うん……」

「そのときは、なんのことをおっしゃっているのか分かりませんでした。しかし、そのあと父から聞いたんです。ふたばさんのお父さまが、ふたばさんのために頼みこんでいた、と」

「え? お父さんが?」

「はい。しかし、それではコネで入学したということになってしまう。ふたばさんのことですから、それは許せなかったんでしょう?」

「……」

「本当はフェイリア学院に入りたくはなかったのではないですか?」



なにも言えなかった。

当たってるから、何も言えなかった。

心の中が透けて見えているかのような感じだった。



「そ、それは……」

「大丈夫です。心の中に詰まってるモノは、きれいさっぱり洗い流しましょ」

「わ、私……私は……。本当は……別の高校に入りたかった!! でも、どうしても無理だったから! 私……」

「はい♪ これでスッキリできましたでしょ、ふたばさん?」

「え……?」

「私は、なにかを心の中に閉じ込めているふたばさんよりも、気持ちをまっすぐぶつけてくれるふたばさんのほうが大好きです♪」

「あかね……ちゃん」



涙が止まらなかった。

こうやって、私の素直な気持ちを受け止めてくれる人が必ずいてくれる。

自分は一人じゃない、一人で抱えていてもいいことなんてありはしない。



私は、これまで抱えてきた自分の気持ちをすっきり洗い流すように、泣いた。











「よかったですわ……ふたばさんがいつものふたばさんに戻ってくれて」



ふたばと別れたあかねは、今まさに自宅に到着するところだった。






「ほほぉ……これ……いいエレ……ントを持って……るぞ……」



と、誰かの声がした。

それは少しこもったような声で、若干聞き取りづらい部分もあった。



「ど、どちら様ですか?」



あかねは声のしたほうを見てみるが、そこには誰もいない。

日も沈み、辺りも薄暗くなってきたので、ますます分かりにくい。



「我は、スプ……ッツァーの幹……の一人、シュナ……ザー! 貴様……エ……メント、いただく!」

「あの……まったく、なにを言っているのか分からないのですが?」

「食らえ!!」



謎の声の主がそう叫ぶと、眩い閃光があかねを包んだ。

と同時に、あかねの胸元から紅蓮に輝く光の玉のようなものが飛び出してきた。



「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!」



あかねはそのまま地面に倒れこんでしまう。



「ぐふふ……貴様……エレメン……はい……だいたァ!! ハーーハッハッハ!!」



声の主は光の玉を手にすると、そのままどこかへ消えてしまった。











「ちくしょう! 止められなかったなんて!」



道路脇の木陰から今の様子を垣間見ていたもう一人の声の主が悔しがる。



「このままほうっておいたら、この世界でも災厄を招いちまう! その前になんとか、『選ばれし戦士』を見つけねえと!」






思いがけず流れた不穏な空気は、この町に着実に忍びよっていた。

早くも動きがあった回です。

あかねを襲った謎の声の主の正体とは!?

そして、木陰から垣間見ていた声の主の正体とは!?

これからの展開もお楽しみに!!

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