美少女×金髪×ツインテール
私はツインテールというものが大ッ嫌いだッ! by 二上ふたば
《私立フェイリア学院高校》
そこが、この春から私が通うことになってしまった高校だ。
おとぎ話にでも出てきそうな可愛らしい外観が印象的で、女子生徒からの人気がとても高い。
確かに申し分ないほど可愛い。
中学のときに根っからのワルだったであろう男子生徒が、ばつの悪そうな表情をしている。
なんとも可哀そうだ。
と、他人の心配をしている場合ではない。
まずは、私自身のことだ。
なぜ先ほど『通うことになってしまった』と言ったのかは、この高校独特の決まりが関係している。
《女子生徒ハ、ツインテール以外ノ髪型ヲ禁ズ》(校則第九条)
これがそうだ。
なんでツインテール以外は禁止なんだ。
これは恐らく、どっかの誰かさんの趣味だろう。
まったく、とんだ趣味である。
冒頭に言った言葉のとおり、私はツインテールが大嫌いだ。
なんというか、子供っぽいというか、ダサいというか……。
そりゃあ、人それぞれ好みは別れるかもしれないが、とにかく私は嫌いなのである。
「ふたばさん!」
「え? うわッ!」
急に名前を呼ばれたので、私は思わず後ずさりした。
「も~~! 急に呼ばれたらビックリするっての、あかねちゃん!」
私の名前を呼んだのは、中学からの同級生・赤城あかねだ。
この町の大企業・赤城ホールディングスの社長令嬢だ。
中学の時はサラッサラのロングヘアーだったのだが、今はツインテールだ。
ツインテールに変えなければいけないのは入学式から一ヶ月後までと期間はたっぷりあるというのに、もう変えているのか……。
「すみません、ビックリさせようと思いまして……」
「はいはい、ビックリしましたよ」
「そういえば、ふたばさんってまだツインテールに変えないのですか?」
「いや……まだ一か月あるし……」
あかねは、なんでも人より先に行動するのがモットーだ、と言っている。
社長である父親にも臆することなく意見を言っている。
それもあってか、赤城ホールディングスは常に先進的な企業となっている。
この高校も赤城ホールディングスの傘下に入っている。
先ほどの校則も、《常に先進的精神》に則ったものであることは間違いないだろう。
「ツインテールというものはいいですね。なんというか、新鮮です」
「それはよかったね」
そのツインテールが嫌いだという人もいるということも覚えておいてください。
私はその言葉を、ぐっと自分の胸の内におさめた。
次の日。
待ちに待っていなかった入学式。
校内には新入生だけでなく、保護者・学校関係者などが大勢いた。
私が登校してまず驚いたのは、大半の女子生徒がツインテールにしていることだった。
おいおい、どこのカルト教だよ……。
ツインテール率があまりにも高いので、ツインテールにしていない人のほうが逆に目立ってしまっている。
私は、この高校の恐さを思い知ってしまった。
「新入生代表、ユリア=ヤスクノフさん」
「ハイ!」
司会の紹介で、一人の女子生徒が壇上に上がる。
留学生だろうか?
少し薄めのブロンド(もちろんツインテール)がよく似合っている。
ユリア=ヤスクノフと呼ばれた彼女は一礼をする。
「新入生ヲ代表イタシマシテ挨拶申シ上ゲマス」
片言だがそれなりにうまい日本語だ。
日本に何度か来ているのだろうか。
それとも、日本語学校にでも通っているのだろうか。
「私ハ日本ガ大好キデス。日本ノ伝統、文化、芸術、寿司、ミンナ大好キデス。私ハ日本ニ来テヨカッタ思ッテマス。コノ高校生活ヲ通シテ、モットモット日本ノ奥深イトコロヲ知レタライイト思ッテマス。今日ハマコトニ、アリガトウゴザイマシタ」
ユリアが再び一礼をした。
会場から拍手が起こる。
それにしても綺麗な子だなぁ。
私は思わず見とれてしまっていた。
あまり外国人と接点がない私にとって、金髪美少女はとても新鮮なものだった。
「綺麗な方ですね」
隣に座っていたあかねが話しかけてくる。
あかねも十分綺麗なほうだと思うが、さすがに金髪美少女外国人には勝てなかったようだ。
「そうだね、日本語もうまいし」
「はい」
「どこの国の子なんだろ?」
「そうですね、ちょっと待って下さい……」
あかねは入学式のパンフレットを開いた。
パンフレットには式次第だけでなく、学校関係者や来賓などの式に関わっている人の詳細が記されている。
新入生代表も例外ではなかった。
「どうやらロシアの方らしいですね」
「ロシアかぁ~~……」
「日本には何度か来たことがあるのでしょうか?」
私も気になっていたことだ。
「あとで話しかけてみようか?」
「打ち解けてくれるでしょうか?」
「分かんないけど、なんでも人より先に行動する、でしょ?」
「ですね!」
そんなことを言っているうちに、入学式はあっという間に終わってしまった。
「ユリアさん♪」
私は、自分の席の斜め左前に座る新入生代表の名前を呼んでみる。
「ハイ?」
ユリアがさっと振り返ると、ツインテールが空を切る。
そのちょっとした風で、机に置いておいた新入生用のプリントが軽くふわりと浮いた。
「私、二上ふたば。で、こっちは赤城あかね」
「よろしくお願いします」
ユリアは少しきょとんとしていたが、すぐに頭を深々と下げる。
「ユリアデス。フタバサン、アカネサン、フツツカ者デスガヨロシクオ願イイタシマス」
「よろしく。で、ぶしつけで申し訳ないんだけどさ、ユリアさんって日本に来たことってあるの?」
「ハイ、何度カ」
「やっぱり! 日本語じょうずだなぁって思ってたんだぁ!」
「アリガトウゴザイマス」
「これから、よろしくね♪」
「ヨロシクオ願イイタシマス」
ユリアは再びお辞儀をした。
「みなさんの担任を担当します、大塚美恵子です。これから一年間よろしくお願いします」
生徒から拍手が起こる。
大塚先生はとてもスタイルがよく美人な先生だ。
日本人なのかと疑ってしまいたくなるほどだ。
大塚先生は教卓からクラス名簿を取り出すと、生徒一人一人の名前を読み上げる。
「相川昌也、青島道彦、赤城あかね、井ノ原まさる……」
読み上げを終えると、生徒(特に男子生徒)からの質問タイムがはじまった。
「先生は付き合ってるんですか?」
「歳はいくつですか?」
だいたいこればかりだ。
というか、これしかない。
しまいには「僕と付き合って下さい」と言うもんだから、男子というのはいつの時代もバカな生き物なのだ。
先生はこれらの質問に対して、
「ごめんなさい、付き合ってます」
「トップシークレットです」
など、華麗にかわすのであった。
そして、男子どもは撃沈してしまうのである。
やっぱり男子はバカなのだ。
「ふたばさん、一緒に帰りましょうか?」
あかねはもう帰り支度を済ませていた。
まったく、相変わらずの早さだ。
今日は入学式だけで、午後からは休みだった。
本格的に授業がスタートするのは一週間後だ。
それまでは、健康診断やら教科書購入やらが控えている。
「あ、うん! ちょっと待ってて!」
私は、机の中に入れておいた必要書類などをバッグに入れる。
その中には例の校則のことについて書かれたものもあったのだが、私は目を通さないようにした。
どうせ、たいしたことは書いていないのだろう。
そう思ったからだ。
「お待たせ! じゃ、行こうか?」
「はい!」
私とあかねは、今日のことをいろいろ話しながら帰路についた。
作者は、ツインテールが嫌いではありません。
むしろ好きです。
黒髪ロングヘア―に次いで好きです。
が、アニメや漫画以外で実際にツインテールを目撃したことはありませんね。
まさにレアな存在です。