運命のきせき 四
「愛嘉理。」
「…。」
「おーい、愛嘉理!」
「え、な、何!?」
「問五の答えは?」
「あ、えっと、あの…。」
「全く…。今日は珍しくずっと上の空だな。」
「ごめんなさい…。」
「いや、別に。」
「…。」
「それで、勉強が手に付かない理由を教えて貰おうか?」
「いや、大したことじゃないから…。」
「良いから。」
「実は、その…。狗神くんについ感情的になっちゃって…。」
「狗神くんってクラスメイトだって言ってた子だろ?」
「うん。狗神くんと仲良くするのを快く思わない人もいるからって、私…。」
「そうか、それで愛嘉理は?」
「え?」
「愛嘉理は狗神くんのこと、どう思ってるんだ?」
「狗神くんはこんな私にもいつも笑って話し掛けてくれて、それが本当は嬉しいのにあんな酷い態度…。」
「仲直りしたいのか?」
「うん。」
「だったら、今度会った時謝れば良い。」
「でも、もう口利いてくれないかも…。」
「狗神くんは、そんなに心の狭い奴なのか?だったら俺が、女の子の心からの謝罪くらいちゃんと聞いてやれってぶっ飛ばしてやるから心配すんな。」
「ふっ、ふふふ。ありがとう。でもそうだよね。狗神くんなら、ちゃんと聞いてくれると思う。」
「だろ?」
「うん。現くんにも言われたばっかりなのに、いざ考え出すとどんどん暗くなっちゃうのは悪い癖だね。」
「そうだぞ、何も気に病むことなんてない。」
「うん。」
「分かったら勉強に戻るぞ。最近君名も不知火もどんどん出来るようになってるから、うかうかしてると愛嘉理も置いてかれるぞ。」
「そうなんだ。じゃあ、頑張らなきゃ。」
「あ、あか…じゃなくて、人見…さん…?」
「狗神くん。」
「ちょっと良い?」
「?」
「あの、この間はごめんね。あか…人見…さんの気持ち、ちゃんと考えられてなかったかなって。」
「ふっ、くふふふ。」
「え、何か僕変なこと言った?」
「ううん、別に。それにもう気にしてないよ、そんなこと。私こそ、あの時はつい感情的になっちゃってごめんね。」
「いや…。」
「それより、何か呼び方がすごい無理してるなって気になっちゃって。」
「え…そ、そうかなぁ…?下の名前で呼ばれると困るって言うから、直してみたんだけど…。」
「良いよ、そこまで無理しなくても。」
「ほ、本当?」
「うん。」
「ありがとう、愛嘉理!」
「…ん、じゃあ私は戻るね。」
「吾生って、分かりやすいな。」
「そ、そう?」
「何か良いことあったって、駄々漏れだぞ?な、吟。」
「うん、愛嘉理と仲直り出来て良かったね。」
「やっぱり俺の言った通りだったであろう?」
「そうだね、ありがとう。」
「もう喧嘩するんじゃないぞ?」
「気を付けるよ。」
「あ、狗神くん。おはよう。」
「おはよう、愛嘉理。早いね。」
「狗神くんもね。最近、図書室に来ないね。」
「え、うん。」
「昼寝に飽きたとか?」
「いや、そうじゃないけど…。」
「…?」
「愛嘉理に迷惑掛けてるかなって思って…。」
「?何で?」
「僕が近くにいると、良く思わない人がいるって言ってたし…。」
「確かに、それはそうだけど…。」
「だから、行かない方が良いかなって。」
「でも図書室は皆の場所だし、別に使いたかったら使っても良いんだよ?」
「愛嘉理は迷惑じゃないの?」
「まあ、昼寝に使われるのは若干…?でもそうじゃなければ、別に全然構わないよ。」
「本当?じゃあ、また行っても良い?」
「勿論。」
「やったぁ!…そう言えば、愛嘉理。」
「ん?」
「前から訊ねてみたかったんだけど、愛嘉理は自分の瞳のこと好き?」
「うん、好きだよ。親も綺麗だからって、この名前を付けてくれたんだって。それが嬉しくて。」
「そっか。」
「でもどうしたの、急に?」
「ううん、何となく気になってただけだよ。でもそれがきっと、愛嘉理の本当の気持ちなんだね。」
「本当の…?」
「うん。」
「あれ、愛嘉理寝てる…。疲れちゃったのかな…?毎日皆の為に、お疲れ様。」
「…愛嘉理、もう下校時刻だよ。」
「…。」
「愛嘉理?」
「…大好きだよ。」
「!うわっ!何だ、夢か…。吃驚した…。」
「あ、やっと起きた。」
「あれ、狗神くん。来てたんだ。」
「うん、お許し貰ったからね。それより、もう下校時刻だよ。」
「え、あ、もうこんな時間。ありがとう、起こしてくれて。」
「どういたしまして。」
「…ん、どうしたの?あとは私の仕事だし、もう帰って良いよ。それとも、まだ何か用?」
「用って訳でもないんだけど…。」
「?」
「いや、やっぱり何でもない。じゃあね!」
「?うん、じゃあね。」
「狗神くーん。」
「ん?」
「狗神くん、やっと追い付いた…!」
「どうしたの?そんなに走って。」
「はい、これ。忘れ物。」
「あ。」
「明日渡そうかとも思ったんだけど、きっと大切な物だろうから…。」
「わざわざありがとう。」
「どういたしまして。」
「良かったら、これ君にあげるよ。」
「いや、でも大切な物なんじゃ…?」
「うん、だから君にあげる。持ってて欲しいんだ、愛嘉理に。」
「?…ありがとう。」
「そのお守り、効力絶大だよ。」
「そうなの?」
「そうだよ、まあ何となくだけど。」
「ふふ、そうなんだ。」
「うん、もっと笑った方が良いよ。愛嘉理は自分で気付いてないだけで、可愛いんだから。」
「え?」
「それね、僕の分身みたいな物なんだ。だから、大切にしてね。」
「…?う、うん。分かった、大切にするよ。」
「うん。」
「でも、だったら本当に良いの?何だかよく分からないけど、分身みたいな物だったらすごく大切なんでしょ?」
「大切だけど、分身を自分で持ってたらあんまり意味がないと思わない?」
「でも、だったら私じゃなくてもっと信頼できる人に託した方が良いと思うよ。」
「愛嘉理には今はまだ分かって貰えないだろうけど、僕にとってはその人が愛嘉理なんだよ。」
「ありがたい話だけど、とても信じられないね。」
「うん、でもいつかきっと分かる日が来るよ。じゃあね、愛嘉理。」
「…。」
「吾生、暫く振りだな。」
「澄風。どうしたの?こんな夜更けに。」
「いや、何となくお前さんがここにいる気がしてな。」
「そっか。実は、僕も会いたいと思ってたんだ。」
「それは良かった。愛嘉理とは上手くやっているのか?」
「どうだろう?分からないことばかりだよ。」
「偉く弱気だな。」
「この間愛嘉理を怒らせちゃってね、落ち込んでたら美風に叱られちゃった。だからこその人間だし、自分で選んだ道だろって。」
「はは、美風らしいな。」
「うん、でもお陰で目が覚めたよ。」
「そうか。…む?」
「ん?」
「吾生、お守りはどうした?」
「愛嘉理にあげたよ。」
「良いのか?あれはお前さんの魂の欠片のような物だろう?」
「うん、だからこそ愛嘉理に持ってて欲しいんだ。今はまだ記憶がないけど、いつかあれが導いてくれるはずさ。」
「しかしあれがないと、お前さんにとっても不都合が生じてしまうであろう?」
「大丈夫、大したことないよ。」
「…何か少しでも困ったことや異変があれば、ちゃんと言うのだぞ?」
「うん、ありがとう。」
「ではな。」
「うん、またね。」
「珍しいな、こんな場所に客人とは。」
「もしかして貴方は…。」
「おお、私を知っているのか?しかしお前さんにとっては初対面なのだから、一応自己紹介はしておこう。私は龍川 澄風だ。」
「やっぱり愛嘉理の話で聞いたあの…。いつも活躍はTVで拝見してます。俺は…。」
「鬼目 涙と言ったか。今は愛嘉理の家庭教師であろう?」
「え、あ、はい。」
「愛嘉理から話は聞いているぞ。有能な家庭教師だとな。」
「いや、俺なんてまだまだです。」
「して、こんなところに何の用だ?」
「いえ、たまに気分転換に来るんですけど今日もそれで…。」
「そうか、ここを選ぶとは中々の感覚の持ち主と見た。愛嘉理から聞いたのか?」
「いえ…。あの、愛嘉理とお知り合いなんですか?」
「無論だ。愛嘉理が幼い頃から知っている。それより、折角の機会だから聞いておこう。」
「何ですか?」
「お前さんの教え子に、君名 紡と不知火 触という人物がいるな?」
「いますけど…。」
「彼女らは息災か?」
「君名も不知火も元気ですよ。その二人もお知り合いですか?」
「いや、向こうは私のことを知らぬであろうな。ただ少し気になっただけだ。」
「…?」
「そうか、息災か。それは良かった。」
「おお、済まぬ。そう言えば、もう一つ気になったことを聞いても良いか?」
「何ですか?」
「何故、愛嘉理だけ下の名前で呼ぶのだ?」
「言われてみれば確かに…。何でですかね?」
「私が聞いているのだが。」
「すみません。ただ、何となくしっくり来るんですよね。呼びやすいというか…。俺、滅多に人のことを下の名前で呼んだりしないんですけど…。」
「愛嘉理のことが好きなのか?」
「…そうかもしれませんね。何か放っておけないんです。」
「それで本人に内緒で愛嘉理の身辺警護を買っている訳か。」
「何故それを…?」
「私には何でもお見通しだ。愛嘉理に聞かずともな。お前さん、鬼の先祖返りであろう?」
「そこまで…。龍川さん、貴方は一体何者なんですか?」
「私は見守る者であり、待ち人だ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「…?」
「まあ、とにかくだ。余り無茶はするでないぞ。愛嘉理が心配するからな。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。今は霊的な存在の類いも少なくなってきて、そんなに脅威はありませんから。」
「そうか。しかし何故そこまでする?お前さんを見ていると、思いを伝える気はないように思えるのだが。」
「その通りですよ。愛嘉理には別に思い人がいますから。」
「諦めるのか?」
「何でですかね?」
「…?」
「いえ、前にもこんなことがあった気がして…。その二人の間には、俺なんかが割り込めないくらいの固い絆があるんじゃないかってそう思うんです。」
「…。」
「でも、良いんです。俺は好きでいられるだけで幸せですから。」
「一途だな、相変わらず…。」
「相変わらず?」
「いや、何でもない。気分転換の邪魔をして悪かったな。私はこの辺で失礼しよう。達者でな。」
「はい、さようなら。」




