運命のきせき 一
「狗神くん。」
「…。」
「狗神くん!もう予鈴鳴ってるよ!」
「…ん?あ、本当だ。」
「私も次の授業の用意しなくちゃだし、もうここ閉めちゃうよ。」
「うん、ごめんね。起こしてくれてありがとう。」
「全く、昼寝の為に図書室を毎日使う人なんて狗神くんくらいだよ。」
「だってここ、日当たりが最高だから。」
「はいはい、分かったからもう行かないと。」
「お姉ちゃん?」
「どうしたの、飛火里?」
「いや、お姉ちゃんがぼーっとしてるから…。お父さんとお母さんも、体調悪いのかなって気にしてたよ。」
「そ、そうだった?」
「うん。ずっと思ってたけど、たまにぼーっとしてる時って何考えてるの?やっぱり、狗神さんのこと?」
「え、ち、違うよ。何で私が狗神くんのこと…。」
「怪しい…。」
「私はただ図書委員として、どうやったら狗神くんが正しく図書室をつかってくれるかなって…。」
「やっぱり考えてたんだ。もうずっと一緒な学校なのに、友達にもなれないのは何でなの?」
「それぞれの立場があるから…。」
「でも、お姉ちゃんは友達になりたいんじゃないの?」
「思ってないよ、そんなこと。」
「でも、向こうは思ってるかもしれないよ?」
「思ってないよ、そんなこと。」
「本当かな?」
「だから思ってないって、そんなことは!…あ、ごめん。」
「良いよ。でもお姉ちゃん、もう少し自信持っても良いと思うけどな。」
「…ありがとう。飛火里は最近どう?」
「私はいつも通り楽しいよ。生きてるだけで幸せな私に、悩みなんかないですから。」
「それは良かった。」
「うん、だからお姉ちゃんにも楽しく生きて欲しいんだ。」
「飛火里…。」
「狗神くん、もう下校時刻だよ。」
「ん、もう…?」
「ほら、もうここ閉めるから帰る準備して。」
「待って。」
「…な、何?」
「いつになったら愛嘉理は僕のことを吾生って呼んでくれるの?」
「…じゃあ逆に訊くけど、何で対して親しくもないただのクラスメイトの私を下の名前で呼ぶの?」
「嫌…?」
「い、嫌って言うか…。」
「…?」
「自覚がないのか知らないけど、狗神くんは結構人気があるんだよ。」
「そうなの?」
「そうだよ。だから、そういう些細なことでも快く思わない人達もいるんだよ。」
「どうして?」
「どうしても!だから、狗神くんのことを下の名前で呼ぶなんて私には出来ないよ。」
「そんなぁ…。」
「ほら、分かったら帰る準備して!」
「むー…。」
「…で、何でいつも私に付いてくるの?」
「帰り道が偶々一緒なんだよ。」
「でも私図書室の鍵返してて遅いはずなのに、今こうして並んで歩いてるのは流石におかしいでしょ?」
「そう?」
「狗神くんはさ、本が好きな訳でもないのに何で毎日図書室に来るの?」
「?僕、本は好きだよ。」
「だったら何で図書室に来て本読まないの?」
「図書室にある本なら、もう全部読んだから。」
「え…?」
「良かったら、語って聞かせようか?」
「いや、良いよ。でも、だったら尚更何で図書室に来てるの?もしや本当に昼寝の為…?」
「じゃあ、そういうことにしといて。」
「…。」
「ところで、愛嘉理はどんな本が好きなの?」
「…料理本。」
「料理するの?」
「うん、唯一得意なことかな。」
「へえ、どんなの作るの?」
「何でも作るよ。レシピ研究が趣味だからね。」
「そうなんだ。愛嘉理の料理、食べたいな。」
「機会があればね。」
「ねえ、じゃあさ。今度作る時に呼んでよ。僕試食するから。」
「呼ばないよ。」
「えー、何で?」
「狗神くんさ、私みたいな地味なのに構う必要ないよ。」
「もしかして、迷惑…?」
「別に、そういう意味じゃ…。」
「じゃあ、何で?」
「さっきも言ったでしょ?私はそういうことをして良い立場じゃないから…。」
「そんなの関係ないと思うけどなぁ。」
「関係あるんだよ!じゃあね!」
「愛嘉理…。」




