それぞれの意志
「涙くん。どうしたの?そんなに息切らして。あ、また傷が増えてる。」
「愛嘉理。」
「ちょっと待って、今絆創膏を…。」
「愛嘉理、良いから。」
「それより、聞かせて欲しいことがあるんだけど…。」
「うん?」
「愛嘉理の気になる奴って…。」
「…そ、そうだよ。でも、叶わないことは知ってる…。」
「やっぱりか…。でも、何でそう思うんだ?」
「だって、相手は神様だもん…。」
「でも、愛嘉理は友達なんだろ?だったら、その先があったっておかしくはないんじゃないか?」
「そんなこと…。それに、あの日分かったはずだよ。」
「?」
「私は吾生のこと、何も知らない。だけど吾生は、私のこと全部知ってるんだよ。きっと、この気持ちだって…。」
「だったら何だよ。知らなかったら好きになっちゃいけないのか?それに、何も知らないなんてそんなことないだろ?」
「え?」
「知ったから、好きになったんだろ?だったら、その気持ちを大切にしろよ!…って、何で俺自分のこと棚に上げてこんなこと言ってんだ?」
「自分のこと…?」
「え、あ、いや…。」
「…!涙くん…?」
「…そうだよ、俺は愛嘉理が好きだ。でも、それが叶わないことは知ってる。」
「え?」
「もし愛嘉理が本当に吾生を好きなら、その時は諦めようと思って今日は来たんだ。」
「え、え?」
「お似合いだと思うよ。」
「え、いや、そんな…。」
「動揺し過ぎ。」
「でも、何で私なんかを好きって…。」
「そ、そりゃあきっと俺の立場だったら誰でも好きになるよ。」
「ど、どういうこと?」
「前も言ったろ?俺にとって愛嘉理は名前の通り、心を照らしてくれる存在だって。愛嘉理が笑ってくれると、俺も元気が出るんだ。だから、もっと自信持てよ。これからも、応援するからさ。」
「あ、ありがとう…。誰かに好きなんて言われたことないから、今すごく嬉しいよ。」
「それは良かった。俺も勇気を出した甲斐があったよ。」
「繋。こんな夜中にどうしたの?」
「いや、少し君と月でも見たいと思ってね。良いかい?」
「良いけど…。でも、夜は霊や妖も活発な傾向にある。君なら大丈夫かもしれないけど、だからって君に対して好意的な存在ばかりじゃないんだから余り出歩かない方が良いよ。況してやこんな場所に来るなんて…。」
「ご心配ありがとう。でも君が言う通り、僕は大丈夫だよ。何より、その為の君なんだろ?」
「それは、そうだけど…。」
「ここは月がよく見えるね。いつもここから月を見上げているのかい?」
「うん。」
「…。」
「愛嘉理ちゃんに、自分のことを話す気はないのかい?」
「言わなくても、分かるんだろ?」
「それなら君だって、愛嘉理ちゃんの気持ちは知ってるんだろ?」
「…。」
「愛嘉理は優しい。僕のことを話せば、きっと傍にいてくれようとする。でも、それじゃダメなんだ。」
「どうして?」
「愛嘉理は人間だ。僕の傍にいたら、人間の世界から離れていくことになる。折角友達も出来て、まだこれから明るい未来が待ってるんだ。僕がそれを壊す訳にはいかないよ。」
「じゃあ、君はいずれ別れが来ることを覚悟してると言うんだね?」
「…そうだよ。」
「でも、理由はそれだけかい?」
「…。君が僕の心を読むのは勝手だけど、僕はこれ以上を言うつもりはないよ。」
「そうかい。でもね、吾生くん。」
「…?」
「君のその理性は、僕には余り意味がないように思えてならないよ。」
「どうして?」
「君は後戻り出来なくなるのが怖いのかもしれないけど、そんなのはもうとっくに出来なくなっているからね。」
「…どういうこと?」
「思いの力は無限、誰も抗えはしない。僕はそう思うよ。」
「…?」
「愛嘉理ちゃんは、君に会う為に生まれて来たんだよ。愛嘉理ちゃんが生まれた時から、君達に後戻り出来る道なんてもう残されてない。」
「な、何言って…?」
「嘘だと思うなら、あの月に聞いてみると良い。やったことがなくても、君なら出来るはずだ。」
「…本当に、愛嘉理が…?」
「これで分かっただろ?愛嘉理ちゃんは、君の願いに応えて生まれて来たんだってことが。」
「…!」
「初めて愛嘉理ちゃんを感じた時、嬉しかったんだろ?孤独じゃなくなった気がして。だから、放っておけなかった。」
「でも、君の中で愛嘉理ちゃんの存在がそれ以上になっていったのは…。」
「もう良い、もう言わないで…。」
「君はその真実を知っても尚、神で在り続けると言うのかい?」
「…そうだよ、それが僕の使命だ。」
「それでも、運命はその使命を凌駕するよ。…きっとね。」
「…。」
「じゃあね、吾生くん。」




