平穏の揺らぎ 二
「吾生?あれ、今日はいないのかな…。」
「…吾生?も、もしかして寝てる…?」
「ん…。」
「ふふ、くすぐったい…!」
「あれ、もうやめちゃうの…?」
「へ?お、起きてたの?」
「うん。」
「だったらそう言ってよ。」
「ごめんね。すごく気持ち良かったから、ついうとうとしてたんだ。今日は天気も良いしね。」
「そうだね、確かに今日は昼寝日和かも。」
「でしょ?だから愛嘉理、さっきの続きして?」
「そ、それは…。」
「ほら、これなら大丈夫でしょ?」
「ず、ずるい…!」
「ふふ。」
「吾生の身体は、モフモフだね。何かこの手触り、癖になっちゃうかも。」
「ありがとう。愛嘉理の手も優しくて柔らかくて温かいから、大好き。」
「…!そ、それよりずっと思ってたんだけど、ここは桜が綺麗だね。」
「うん、夜は月明かりでもっと綺麗に見えるよ。」
「そうなんだ、どんな感じなの?」
「んー…。口で説明するより、実際に見た方が早いよ。」
「それはそうだろうけど、でも夜中に一人で出歩けないし…。」
「じゃあ、僕が迎えに行くよ。」
「え?」
「一緒に見よう?」
「で、でも…。」
「大丈夫、身体を置いてくれば問題ないでしょ?」
「え、それは大問題なんじゃ…?死んじゃうよ?」
「ふふ、だったらこんなこと提案しないよ。」
「そ、そんなことできるの…?」
「うん、任せてよ。」
「つくづくすごいね、吾生って。」
「そう?」
「うん。」
「じゃあ今夜、迎えに行くね。」
「うん、楽しみにしてる。」
「…かり、愛嘉理。」
「…ん?あ、吾生…?」
「迎えに来たよ。…はい。」
「…?」
「あ、身体は起こさなくて良いから。僕の手、取って?」
「…こう?」
「そう。」
「…!?」
「どう?」
「どうって…、何か変な感じ。身体が空気か何かにでもなった気分だよ。それに意識はここにあるのに、身体がそこにあるのもすごく違和感…。」
「そっか、死ぬと最初はそんな感じだよ。」
「え?ちょっと、だったらやっぱり私死んじゃうんじゃ…?」
「ふふ、だから大丈夫だって。」
「ほ、本当に…?」
「うん。今の愛嘉理は僕の霊術で身体と魂が縄で繋がってる感じなんだけど、それさえ切れなければ死んだりはしないよ。」
「でも、切れたら死んじゃうって…。」
「結構丈夫だから切る方が逆に難しいし、それに何より僕が付いてるから。」
「…分かった。」
「君は僕が守るよ。じゃあ行こうか、お姫様?」
「う、うん。」
「うわぁ…!何か、猫にでもなった気分だよ。」
「僕は狗だけどね。」
「ふふ、確かにそうだね。」
「それにしても、愛嘉理は本当に心配性なんだね。僕さすがに傷付くよ。」
「ご、ごめん…。」
「冗談だよ。でも、もっと僕のこと信じてよ。」
「うん。」
「じゃあ、その証にまた撫でて?」
「…吾生って、本当に狗なんだね。」
「言っておくけど、僕は誰にでもして欲しい訳じゃないよ。愛嘉理だから、して欲しいんだ。」
「ふふ、そっか。」
「着いたよ。」
「わぁ…!吾生の言う通りだね…!」
「でしょ?」
「うん、すっごく綺麗…!」
「…ありがとね、吾生。」
「…。」
「どうした、繋?難しい顔をして。」
「いや、何でもないよ…。それにしても、見事な景色だね。」
「うむ、そうであろう?夜桜も良いかも知れぬが、月明かりの下の清流を彩る一面の土筆や蒲公英もまた味があるというものだ。」
「そうだね。」
「初めて出逢った時から私は思っていたぞ、繋。お前さんは中々、話の分かる奴だとな。」
「ありがとう。」
「月は欠け時は満ちる、か…。」




