平穏の揺らぎ 一
「あ、愛嘉理。」
「おはよう。」
「ついに私達、別々になっちゃったね。」
「本当だ、寂しいね。」
「でもまあ、愛嘉理には鬼目くんがいるし。」
「ほら、愛嘉理と同じクラスだよ。」
「これは相当喜んでると見た。」
「鬼目くんがね。」
「うん。」
「愛嘉理、これを期にそろそろ気付いてあげたら?」
「気付くって、何に?」
「愛嘉理は相変わらずだなぁ。」
「流石に鬼目くんが可哀想に思えてくるよ。」
「え?私、何かそんなに酷いことしてる?」
「うん。」
「じゃあ、今度謝らないと。」
「待て待て待て待て。」
「え?」
「早まるな、愛嘉理。」
「謝ったら鬼目くん、死ぬよ。」
「死…え?」
「いや、マジで。ね、触?」
「うん、これはマジでマジだよ。」
「そんなに?」
「うん。」
「あ、愛嘉理。今年は同じクラスだな。」
「愛嘉理をよろしくね、鬼目くん。」
「私達は別のクラスになっちゃったから。」
「そうか、それは残念だな。」
「とか言って、本当はホッとしてたんじゃないの?」
「そ、そんなことは…!」
「鬼目くんって、本当素直だよね。」
「そんなことは…ない…。」
「え、何て?」
「…。」
「まあそれはともかく、鬼目くん。」
「何だ?」
「ちょっとこっち。」
「あ、じゃあ私先に教室に行ってるね。」
「うん、ごめんね。」
「で、何だ?」
「あの子の鈍さは本物だから、かなり積極的にいかないと勝ち目ないよ。」
「もういっそ告白しちゃうとか?」
「それはまだ時期尚早じゃない?」
「いや、良いんだ。俺は愛嘉理に言うつもりはないし。」
「え、そうなの?」
「何で?」
「愛嘉理はまだ自分で気付いてないみたいだけど、気になる存在がいるみたいだしな。」
「そうなの?」
「誰だろ?もしかして世渡先輩かな?」
「違うよ。でも、俺なんかじゃ及びもしない存在って意味では強ち間違いでもないかもな。あの人はあの人で、すごいのは肌で感じるし。」
「でも、私達から見たら鬼目くんも相当すごい人だよ。」
「そうそう、イケメンで勉強も運動もできてイケメンで…。」
「いや、どんだけイケメンだよ。二回も出てきましたけど。」
「…。」
「まあでも本当に世渡先輩と同じくらい、憧れてる女の子は多いんじゃない?」
「俺は別に、望んでない。」
「つれないね。」
「皆が聞いたら、さぞガッカリするだろうね。」
「…とにかく、そういう次元の話じゃないんだ。何て言うか、二人はもっと深いところで繋がってる気がする。俺なんかじゃとても割り込めない。だから良いんだ。」
「そっか、でも何だか勿体ないね。」
「そうだよ、折角こんなにイケメンなのに。」
「えー、そこ?お似合いなのにとかじゃないの?」
「いや、それもそうだけど…。でも折角の美貌、生かさない手はなくない?」
「触の思考回路って、一体どうなってんの…?」
「ノーイケメン・ノーライフ!」
「触って、もしかしてそこしか見てないの?」
「えー、そんなことないけど…。」
「…。」
「何なら私が付き合ってあげたいくらいだけど、鬼目くんは愛嘉理一筋な感じだよね。」
「そうそう、余計なお世話。ね、鬼目くん。」
「…。」
「そういうことなら、私達が首を突っ込むことじゃないね。」
「まあ、本当はそういうことじゃなくてもなんだけどね…。」
「いや、ありがとう。こんなことをこんなふうに話せる日が来るとは思ってなかった。楽しかったよ。」
「そんな大袈裟な…。」
「本当だよ、ありがとうな。君名、不知火。」
「私達の名前、知ってたんだ。」
「二クラスしかないんだし、皆の顔と名前くらいは覚えるだろ。」
「流石、優等生は言うことが違う!」
「触と比べたら、皆優等生だけどね…。」
「酷っ!」
「じゃあ、私達はこの辺で。」
「ああ、またな。」




