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あおとあかのきせき 下書き  作者: 世渡 繋
第二章
44/69

伝えたい思い 二

「そっか、良かった。成仏できたんですね。」

「うん、君のお陰だよ…。ありがとう…。」

「それは違います。貴方が協力してくれたからだし、何より結局は皆が自分自身で解決したようなものですから。」

「そっか…。」

「でも、ごめんなさい。」

「…?」

「あの時貴方の存在を、触ちゃんに伝えられなくて…。」

「別に良いよ…。幽霊はまだ信じられても、妖はそうじゃないだろうから。悪戯に混乱を招かないようにする為だったんでしょ…?」

「…でも…。」

「君が狗神様と友達でいる理由が、何となく分かった気がするよ…。」

「え?」

「て、あ…。」

「やあ、僕の話で盛り上がってたの?」

「吾生!」

「今日は君に謝りに来たんだ。」

「俺に…?」

「うん、何の力にもなれなくてごめんね。」

「いや、君の友達が助けてくれたから大丈夫だよ…。」

「そっか。それで、お詫びと言ってはなんだけど…。」

「…?」

「君も大切な人に思いを伝えたくはない?」

「え…?」

「好きなんでしょ、彼女のこと。」

「な、何で…!」

「彼女の笑顔が見たくて、ここにいるんだもんね?」

「じゃあ、その襟巻きをくれた人って…。」

「うん、本人はもう忘れてるだろうけどね…。」

「…。母を亡くした触が座敷童子を知った日に、その存在を願って描いた絵が彼なんだ。正確には、頭の中で思い描いた想像って言った方が良いかな。」

「おかっぱ頭の子供じゃないのは、それが理由…。」

「そうだったんですね…。」

「触は、座敷童子が住むと家が幸福になると言われてることしか知らなかったからね。」

「この襟巻きは、外が寒くて風邪を引くといけないからって触がくれたんだ…。」

「ふふ、触ちゃんらしいな。でも、その日からずっと触ちゃんに寄り添って見守ってきたんですね。」

「…でも、叶わないのは知ってる…。自分の立場は分かってるつもりだよ…。」

「だけど、伝えたい思いがあるならそうするべきだと僕は思うんだ。たとえそれが、どんな結果に終わろうとも。」

「何故、そんな神様らしくないことを言うの…?」

「僕も同じだからさ…。君の気持ちが、僕にはよく分かるから…。」

「まさか…!」

「ガッカリした?僕は、そういう意味でも神失格さ。でも内緒だよ、僕には赦されないから。」

「…?」

「でも、それは俺だって…。」

「君は伝える手段がないだけだよ。そして、その手段は僕が何とかする。」

「どういうこと…?」

「これから君を、彼女の夢に送る。そうすれば、君は彼女の夢で逢えるから。ただし、今夜だけだけどね。」

「…本当にそんなことができるの…?」

「うん。夢だから朝になれば彼女は忘れてしまうだろうけど、それでも永遠に思いが伝わらないよりは良いはずさ。」

「でも、だったらどうして彼女達にそうしなかったの…?」

「本人が望まなかったからさ。それをしたらきっとお互いに、心の奥底でいつまでも離れられないままになってしまうだろうからって。」

「そっか…。」

「うん、君はどうする?」

「俺は…。」

「迷うくらいなら行くべきだと思うけどな、僕は。君と彼女では、立場も状況も違うんだし。」

「でも…。」

「だってそうは言いつつ、本当は行きたいんでしょ?」

「私も行った方が良いと思います!触ちゃんのお母さんだって、きっと思いを伝えられたから成仏できたんですよ。」

「…!ありがとう…!」

「じゃあ、行くよ。」

「いや、少し待って…。」

「?」

「まだ名乗ってなかったよね…。俺は(そい)だよ…。」

「添さん…、良い名前ですね。よく似合ってると思います。」

「うん、僕もそう思うよ。」

「ありがとう…。」

「そう言えば、私もまだ名前教えてませんでしたよね。私は人見…。」

「愛嘉理…。」

「え?」

「皆そう呼んでた…。」

「そうでしたね。」

「じゃあ、またね…。」

「はい、お元気で。」


「愛嘉理、紡、おはよう。」

「おはよう、触ちゃん。」

「おはよう、今日は朝から上機嫌だね。どうしたの?」

「あ、分かる?実は今日すごく良い夢を見てね。」

「へえ、どんな?」

「それがよく思い出せないんだけど、とにかく良い夢だったことだけは覚えてるんだよね。」

「何だそれ。」

「本当それ。でも、すごく幸せだから何でも良いやって。」

「おめでたいね。」

「まあね。」

「褒めてないよ。」

「良かったね。」

「うん、ありがとう。そう言えばお父さん、愛嘉理に謝ってたよ。」

「え?」

「どういう意味かは分からないけど、愛嘉理の肉じゃが食べてやっぱり…って言いながら泣いてたな。」

「…?そっか。」


「やあ、添。」

「狗神様…。」

「思いは伝えられたみたいだね。」

「お陰様で…。」

「何だかとても清々しいと言うか、晴々しい顔をしてるね。」

「触が俺を忘れても、俺が触を覚えてれば良い…。触を思う限り、俺は存在する…。気持ちを伝えて、そう思えたから…。」

「そっか、それは良かったね。」

「触の為に存在する喜びに気付けたんだ…。」

「大切な誰かの為に存在する喜び…。」

「うん、狗神様には感謝してもしきれない…。本当にありがとう…。」

「少しでも君の役に立てたなら、僕も嬉しいよ。それじゃあ、もう行くね。」


「ねえ、吾生。」

「ん?」

「前に自分で言ってたけど、吾生にもできないことってあるの?」

「…あるよ。愛嘉理も知るように村の外のことには干渉できないし、死んだ命を生き返らせることもできない。」

「…うん。」

「それに何より、結局今回僕は彼の力にはなれなかった訳だしね。」

「…そんなことないよ。」

「ありがとう。でも僕には出来ることの方が少なくて、それがとても悔しくて悲しいんだ。」

「…そっか。」

「触れられない存在の面影が心を蝕んでいて、だから彼女達はそれぞれに苦しんでた。だけどそれは自分で解決するしかないことで、僕はそれをどうにかする術を持ってなかったんだ…。」

「…。」

「…愛嘉理はすごいね。」

「どうしたの、急に?」

「僕にはないものをたくさん持ってて、僕にはできないこともたくさんできる愛嘉理はすごいなって。」

「そ、そんなことないよ。私なんてまだまだで…。」

「愛嘉理が認めてないだけだよ。」

「それを言うなら、吾生だって同じだよ。私の知らないこともたくさん知ってるし、私のできないこともたくさんできるんだから。」

「ありがとう。」

「そ、それに…。」

「ん?」

「何でもない!それより、触ちゃんのお父さんは村長を続けるみたいだね。」

「うん。彼が村の自然を残したい理由は、単純に自分の為でもあるからね。」

「…?」

「幼い頃に澄風河で燐火を目にして以来、魅せられてるのさ。意外でしょ?」

「うん…!そういう存在は、信じてないのかと思ってた…。」

「実際に彼が見たのは蛍火だったんだけど、何匹も寄り集まってできた光をそれと勘違いしたみたいだね。周りに白い目で見られるのが怖くて家族には言えなかったみたいだけど、でもそれ以来本当にそういう者は存在してるんじゃないかって密かに思って期待してるんだ。」

「じゃあ、触ちゃんのお父さんが言ってたらしいやっぱりって…。」

「そうだね、嬉しかったと思うよ。」

「そっか。でもそれにしても蛍火を燐火だと勘違いしたなら、触ちゃんのお父さんは何で家族の為という理由以外で自然を守りたかったのかな?」

「必要以上に人の手が加えられると、信仰が薄れて霊的な存在は去ってくんじゃないかって考えてるみたいだよ。あと、自然豊かな場所を好むはずだって。まあ、それは綺麗な水の近くでしか生きられない蛍も一緒だけどね。」

「触ちゃんのお父さんの考えは正しいの?」

「うん。添もそうだけど、僕達は人間の信仰が生んだ存在だからね。信仰と霊力の強さは比例するんだけど、それはつまり誰からも忘れられて信仰されなくなったら存在することができなくなるってことなんだ。」

「そんな…。」

「実際に僕達は人里と山で発揮できる力の強さも違うけど、それは山自体に信仰があるからだよ。海も同じ。でもそれを奪われたら、霊や妖の殆どは消えてしまうだろうね。」

「吾生は…?」

「僕は消えないよ。そういう存在だからね…。」

「…?」

「大丈夫だよ。添も澄風も、僕達はまだまだ消えないから。」

「本当?」

「うん、名のある者は特にね。そうだ、愛嘉理にはまだ教えてなかったよね。付いてきて。」

「これ。」

「てん…えっと…?」

「ふふ、天御霊吾生尊(あめのみたまのあおのみこと)。これが、僕の本当の名前だよ。」

「すごいね、神様って感じ。」

「愛嘉理には、覚えてて貰えたら嬉しいな。」

「うん。難しいけど、頑張るよ。」

「ありがとう。」

「そう言えば、添さんの名は触ちゃんが付けたのかな。」

「お母さんだよ。」

「お母さん?」

「そう、触のね。生まれたばかりの名のない妖だった彼に、あの名を与えたのさ。」

「そっか。じゃあ、添さんはもう不知火家の一員なんだね。」

「そうだね。名を与えた触のお母さんと居場所を守る触のお父さん、そして存在を生み出し留め続ける触。その触の幸せを願い続けてるんだから、とても素敵な家族だよ。」

「うん。でも名があるのとないのとでは、そんなに違うものなの?」

「名は枠だよ。」

「枠?」

「存在を定義するものってこと。名があることで、ぼやけた輪郭がはっきりするんだ。自分を自覚しやすくなるというか。」

「じゃあ、名がないと存在を留められないんじゃない?」

「そんなことはないよ。ただ、自分を見失いやすくはあるかな。だから、名は大切なものなんだ。」

「そっか。」

「もう一つ、言っておくとね。」

「うん。」

「添はああ言ったけど、触は彼のことを忘れてなんかいないよ。」

「え?」

「だってもし本当にそうなら、それこそ添の存在は消えてるはずさ。でもそうなってないってことは、触が表面では忘れても心の奥底で覚えてる証だよ。」

「そっか、そうだね。」

「うん、添がいつか自分でそれに気付く時が来ると良いな。」

「だから、あえて言わなかったの?」

「まあね。誰かに指摘されて気付いても良いけど、彼なら心配ないかなって。」

「そうだね、私もそう思うな。」

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