伝えたい思い 一
「触ちゃん。」
「ん?」
「ずっと気になってることがあって…。あの、訊いても良い?」
「うん。」
「いつも帰る時、元気ないなって…。」
「そ、そう?」
「うん。もし何か悩みとかあるなら、私で良かったら聞くよ。」
「…。じゃあさ、良かったら今度うちに泊まらない?」
「え?誘ってくれるのは嬉しいけど、でも、その、それはお父さんやお母さんに悪くないかな…?ほら私、余り良く思われてないだろうし…。」
「大丈夫だよ、どうせ誰もいないから。」
「そ、そうなの?」
「お邪魔します。」
「…!」
「あれ、愛嘉理に言ってなかったの?」
「うん。」
「そうだっけ?まあ、見ての通りだよ。お父さんも仕事でいない時ばっかりだから、いつも一人なんだ。」
「…。」
「そんなに暗い顔しないでよ。もう慣れてるし、それに今日は愛嘉理と紡が来てくれたから一人じゃないし。」
「そうだよ、愛嘉理。せっかくなんだから、今日は楽しもうよ。」
「流石紡、良いこと言うね!まあ、自分の家だと思ってゆっくりしてね。それで色々なこと話そうよ。女子会ってことで。」
「賛成!」
「あ、貴方は…。」
「やっぱり、気付いてたんだ…。」
「はい。」
「見ての通り、俺はこの家に住んでる座敷童子だよ…。」
「座敷童子って、おかっぱ頭の子供じゃなかったんだ…。」
「期待に応えようとした時もあったんだけど、徒労に終わったよ…。」
「そうだったんですね…。何かすみません。」
「別に…。」
「あ、あの。」
「何…?」
「その、貴方は襲ったり逃げたりしないんですか?」
「しないよ、そんなこと…。」
「よ、良かった…。」
「確かに君は、すごい霊気だね…。強くて血気盛んな奴は襲うだろうし、弱くて臆病な奴は逃げて行きそう…。」
「はい、いつもそんな感じですよ…。でも添さんは、そのどちらでもないんですね。」
「ここは俺の居場所だから…。」
「そ、そうですよね。」
「あそこにいるのは多分、触ちゃんのお母さんですよね?」
「うん…。」
「こんなことを貴方に訊ねるのは、おかしいかもしれないんですけど…。」
「何…?」
「触ちゃんのことなんですけど、帰り際いつも元気がないから心配で…。今日はその理由を話して貰えたらと思って来たんですけど、私からは何だか聞きづらくて…。でもそれには、もしかしてお母さんが関係してるんじゃないですか?」
「うん…。」
「そっか…。何か私にできることはないかなぁ…?」
「多分、ないよ…。」
「でも、触ちゃんは大切な友達なんです。そんな簡単に諦めきれません。」
「それは俺も同じ…。」
「え?」
「俺じゃ何もできなくて狗神様に相談したりもしたけど、ダメだったんだ…。」
「吾生に…?」
「狗神様を知ってるの…?」
「はい、吾生は私の友達です。」
「へえ、君すごいんだね…。あの狗神様と友達なんて…。」
「私は全然です。いつも助けられてばっかりで…。」
「そう、でもその狗神様でもどうにもできなかったんだ…。残念だけど今は、この家の皆が強く生きられるようになるまで待つしかないよ…。そうすればきっと、あの子の母親も成仏できるはずだから…。」
「…。」
「こんにちは。」
「こんにちは…。」
「最初に見た時から思ってたんですけど、その襟巻き素敵ですね。よく似合ってます。」
「ありがとう…。」
「誰かに貰ったんですか?」
「うん…。」
「大切な人なんですね。」
「え…?」
「貴方を見てたら、よく分かります。」
「…。」
「あ、そうだ。今日は、触ちゃんの元気がない理由を詳しく教えて貰おうと思って来たんです。もし良かったら、話して頂けませんか?」
「…知ったところで、出来ることがない事実に変わりはないと思うよ…。」
「それでも、諦めるよりは良いですから。」
「…分かった…。」
「あの子は孤独なんだ…。俺が人間だったら、慰めることができたのかな…。」
「…。」
「君は強いんだね…。こんな話を聞いた後でも、まだ諦めてないなんて…。」
「だって貴方と違って、私はまだ何もしてませんから。諦めるのは、出来ることを全部やってからにしたいんです。」
「…そっか、協力するよ…。」
「え?」
「今の俺に出来ることは、きっとそれだけだから…。」
「ありがとうございます!」
「それに諦めたくても諦めきれないんだ、君と一緒で…。」
「…はい!」
「それで、これからどうするの…?」
「うーん…。あ、触ちゃんのお母さんと話したことってありますか?」
「あるよ…。話したいなら、連れて来るけど…?」
「お願いします!」
「は、初めまして。」
「初めまして。私に何か聞きたいことがあるって聞いたけど、何かしら?」
「触ちゃんのお父さんが、村長になった理由です。何かご存じありませんか?」
「…それは多分、私の為ね。」
「どういうことですか?」
「元々あの人は、この村の開発計画の反対派の中心人物だったの。」
「開発計画?」
「今は国をあげて、どこもかしこも開発計画が進んでるでしょ?」
「はい。」
「この村も当然、それを持ち掛けられたわ。でも私達は今のこの村が好きで、私達以外にもそういう人達には受け入れられなかった。それであの人は反対派を纏め上げて、この村を守ろうとしたの。私が死んだ後村長になったのも、多分そういう理由からだと思うわ。」
「そうなんですか…。それについて、触ちゃんのお母さんはどう思ってるんですか?」
「あの人のやりたいことが本当にそれなら、私は否定しない。だけど私に捕らわれているだけなら、そうじゃなく本当にやりたいことを見付けるべきだわ。」
「そうですよね…。触ちゃんとも、何だか上手くいってないみたいですし…。」
「それは、あの人が不器用なだけ。本当は気にしてるのに、どう接して良いか分からないのよ。娘がいるにも関わらず家を空けてばかりなのに、たまの家族サービスが出張先のお土産を渡すので精一杯なんて全くダメな父親よね。」
「は、はあ…。」
「一人でご飯食べるつらさを、きっとあの人は知らないのね。私がいたら、二人が大好きだった肉じゃがを作ってあげるのに。」
「…。それなら、作りましょう!」
「え?」
「教えてください、私が作りますから!」
「ほ、本当に…?」
「はい!」
「触ちゃん、台所と材料を使わせて貰っても良いかな?」
「え、良いけど…。」
「ありがとう!」
「どうしたの、急に?今日はもうすぐお父さん帰って来るよ?」
「うん、その方が良いから大丈夫。」
「?」
「できた!」
「…肉じゃが?」
「うん。」
「懐かしいなぁ。昔よくお母さんが作ってくれたっけ。一番好きなおかずだったんだ。」
「…そっか。」
「ただいま。…き、君は…!」
「お邪魔してます。」
「私の友達だよ、お父さん。」
「と、友達…?そんなバカな…!」
「これから晩御飯なんだけど、一緒に食べる?」
「いや、私は後で良い…。」
「ふーん。じゃあ、私達だけで食べようよ。」
「う、うん。」
「何かごめんね。」
「良いよ、慣れてるから。それより、食べてみて。」
「うん、頂きます。」
「美味しい!愛嘉理って料理上手なん…って、え?どうしたの、触?」
「こ、これ…愛嘉理…どうして…?」
「教えて貰ったんだ、触ちゃんのお母さんに。」
「嘘、だって昨日言ったじゃん。私にはもう…。」
「いるよ、ここに。信じて貰えないかもしれないけど。」
「じゃあ、あの噂は本当だったの…?視えるとか言う…。」
「やっぱり、気味悪い?」
「そんなことないよ。だってこれ、お母さんの味だもん。」
「…本当なの、触?」
「うん。私、信じるよ。ありがとね、愛嘉理。」
「そっか。私もずっと噂だと思って信じてなかったけど、愛嘉理にはそんなにすごい力があったんだね。」
「うん、すごい才能を持ってて羨ましいよ。何か、神様に愛されてるって感じ。」
「あ、何かそれ分かるかも。愛嘉理って、どことなく神秘的な雰囲気漂ってるしね。」
「そうそう!だけど本当は誰よりも人間味に溢れてて、嘘が吐けなくてすぐに顔に出るんだよね。」
「あ、早速照れてるし!可愛いなぁ、もう。」
「…こ、これお母さんから触ちゃんとお父さんにって…。」
「手紙…?」
「うん。紡ちゃん、私達そろそろ帰らないと。」
「あ、本当だ。」
「え、もう帰っちゃうの?」
「うん、長居するとお父さんに悪いし…。」
「あんなの放っておけば良いんだよ。」
「じゃあ、また明日。」
「ばいばい。」
「うん、またね。」




