シンパシー 一
「愛嘉理。どうしたんだ?こんな夕暮れに。」
「ちょっと今日は、一人でご飯食べるの寂しくなっちゃって…。材料買って来たんだけど、良かったら付き合って欲しいなって…。」
「俺で良ければ構わないが…。」
「うん、ありがとう。」
「…今日ね、家族の命日なんだ。だから何かナーバスになっちゃって…。付き合わせてごめんね。」
「…いや。でも、分かったよ。」
「え?」
「いつもの友達じゃなく、俺のところに来た訳がな。」
「…ごめん。」
「良いよ、謝んなくて。でも吾生だっていただろ?何でそっちに行かなかったんだ?」
「全部見透かされちゃうもん。今までもそうされてはきたけど、今日くらいは強がって笑ってたかったんだ。だって今日は、妹の誕生日でもあるから。」
「そっか、なら一緒に笑おう。色々な話をしてさ。」
「うん、…ありがとう。」
「ほら、泣くなって。笑いに来たんだろ?」
「…うん、ごめん。」
「良いよ、謝んなくて。あ、これ、もしかしてケーキの材料じゃないか?」
「うん、作ろうと思って。でも…。」
「じゃあ、今からでも作ってくれよ。愛嘉理の妹もきっと喜ぶ。」
「良いの?」
「何でそんなところでいらん遠慮なんかするんだよ。水くさいな。」
「うん。」
「ケーキはね、一番最初に作ったお菓子なんだ。」
「そうだったのか。」
「間違えて砂糖入れ過ぎちゃったり見た目もぐちゃぐちゃな下手くそなケーキだったけど、飛火里は美味しいって言ってくれてね。それが嬉しくて私、色々な料理をするようになったんだ。」
「そっか。」
「よし、できた。お誕生日おめでとう、飛火里。」
「飛火里って言うのか?」
「うん、名前の通りすごく笑顔が眩しい子だったよ。」
「愛嘉理もだよ。その名前、よく似合ってる。」
「ふふ、ありがとう。この名前は私の瞳を綺麗だって思った両親が、愛を知る明るい子になるようにって付けたんだって。」
「良い名前だな。」
「うん、でも私はまだまだだよ。飛火里の分まで、輝けるようになりたいな。」
「愛嘉理ならなれるよ。俺を照らしてくれたように、皆の心を明るくできる。」
「そうだと良いな。」
「涙くん…?」
「愛嘉理、起きたのか?」
「うん、私寝ちゃってたんだね。ありがとう、涙くん。」
「いや、それよりまだ夜中の三時だ。もう少し寝たらどうだ?」
「涙くんは?」
「俺は眠れなくてな。」
「じゃあ、私も。一回起きたら何だか目が覚めちゃって…。」
「…そうか。」
「涙くん。」
「ん?」
「涙くんは、家族に憧れたり恋しくなったりする?」
「俺は親という存在をほぼ知らないからな。恋しくはならないが、でもずっと羨ましくはあったよ。愛嘉理は?」
「私は、きっといまだに恋しいんだと思う。…情けないけど。」
「情けなくないよ。愛嘉理の家族は優しかったのか?」
「うん、でもいつも疲れてた。それが私のせいだって分かるから、私も辛くて…。どうしたら良いんだろうっていつも考えてた。今思うと、愛されたかったんだろうな。」
「当たり前だよ。愛されたくない人なんて、きっとどこにもいない。」
「…そうだね。でも私を置いて家族がいなくなった時、悲しい気持ちとは裏腹に愛されてなかったんだって感じちゃったんだ。…今まで家族を苦しめた分、当然の報いだって思ったよ。」
「…そっか。でも、俺は愛嘉理の親は真面目過ぎてただ疲れ過ぎただけだと思うよ。」
「え?」
「だって、優しかったんだろ?それにその名前だって、愛嘉理を思って考えてくれたって…。」
「う、うん…。」
「…きっと愛嘉理のことを受け止めようと必死だったんだよ。だけど、受け止めきれなかった。ただそれだけだよ。だから、誰も悪くない。家族に対して、そうやって愛嘉理が負い目や引け目を感じる必要なんてないと思うよ。」
「…前にね、繋くんの計らいで飛火里の霊に会ったことがあるんだ。」
「その繋くんって、世渡先輩のことだよな…?」
「うん。その時に飛火里は生きてた時と変わらない、優しい言葉をくれた。あの頃の私に唯一大好きって言ってくれた飛火里がいたから、私は今日まで生きて来れた。その飛火里が、自分を責めないでって…。」
「それが真実だろ?」
「うん。私はあの時、自分を生きるって決めた。でも、その思いを断ち切れなかったのも事実で…。」
「そんな簡単に割り切れる訳ないだろ?俺だって、割り切れなかったから死にたかった訳だしな。きっと向き合って、付き合ってくものなんだよ。」
「そうだね。繋くんも、そう言ってた。自分は結婚相手みたいなものだって。」
「け、結婚相手?」
「尊重し合うことが、長続きの秘訣ってことだよ。」
「中々上手いこと言うんだな、あの人。」
「繋くんの話は面白いよ。」
「そうだな、何か分かる気がするよ。」
「話し込んでたらもう朝だね。今日が休みで良かったよ。」
「そうだな。」
「本当に、何から何まで付き合って貰っちゃってごめんね。」
「気にするな。頼って貰えて俺も嬉しいしな。」
「あ、ありがとう。」




