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あおとあかのきせき 下書き  作者: 世渡 繋
第一章
33/69

繋の卒業

「貴方は…。世渡先輩、ですよね?。」

桜舞う中、一人佇む繋に涙は声を掛けた。繋は振り返ると、爽やかに笑った。

「お、君も知ってくれてるんだ。鬼目 涙くん。どうやら僕は相当な有名人みたいだね。」

「え、何で俺のこと…?」

「この学校に通う皆の名前は覚えているよ。それに君は有名じゃないか。」

目を丸くして驚く涙に、繋は爽やかに言った。

「皆の名前を把握してるなんてすごいですね。…あと、そのボタンも。」

素直な尊敬を表した後に、少し苦笑いを混ぜながら最後の一言を付け足した。

胸のポケットに卒業生の証である花が差してあるブレザーの上着には、毟られたようにボタンがない。それどころか、中のシャツのボタンまで奪われてしまったようだ。

「ああ、これかい?参るよね。三月の終わりとは言え、まだ前を全開にするには寒いから。」

「中のシャツのボタンまでって、相当ですね。」

同様に苦笑いをしながら全開の上着とシャツをひらひらさせる繋に、涙は少し感心すらしているような眼差しを向ける。

「君も覚悟することだね。」と言う繋に、涙は体育祭後の騒ぎを思い出し少し嫌な汗をかく。

「俺は大丈夫です、多分…。」

「はは。」

愉快そうに笑う繋に、涙は話題を変えようと咳払いを一つした。

「それより、こんなところで何してるんですか?卒業生は今あっちで記念撮影ですよ。」

涙は、学校で一番大きな桜の木の下にできた人集りを指した。

「僕は良いんだ。必要ないから。」と首を横に振る繋に、涙はそんなはずはないと思った。学校の有名人であり、シャツのボタンまで残さず奪われる繋と最後に写真を撮りたいと思う人は多いはずだ。

しかし「そんなことは…。」と言い掛ける涙を遮るように、繋は「それにしても丁度良かった。」と笑った。

「何がですか?」

「君が再び学校に来るようになってから、一度きちんと話さなければと思ってたんだ。君はいつも忙しそうだったから、中々タイミングを見付けられなくて今にまで至ってしまったけどね。」

「俺に何か用があったんですか?」

「うん。」

素直に疑問を呈す涙に、繋は頷いた。

「用って言うか、ネタばらしかな?」

「?」

「これで分かるかい?」

少し悪戯な笑みを浮かべると、繋はパチンと指を鳴らす。その瞬間、繋から異質で圧倒的な霊気が発せられていることを涙は感じた。

これ程の霊力の持ち主に、今まで気付かなかったはずがない。どういった原理かは分からないが、繋は霊気を紛らわせることかできるようだと涙は悟った。そして同時に、ずっと謎だった学校で愛嘉理の存在に気付かなかった理由にも納得がいった。

「そうか、貴方の仕業だったのか…。」

「そうだよ。」と笑う繋に、涙は「何故…?」と問うた。

「君と愛嘉理ちゃんの出逢いは学校じゃない方が良い。君が学校にいづらくなることを、愛嘉理ちゃんが望むはずはないからね。」

「じゃあ、俺の為に…?」

涙は少し目を見開いた。

「君の為であり、僕の大切な友人である愛嘉理ちゃんの為さ。」

「そうか、でもどうやってそんな芸当を…?」

「僕は自分の霊気くらいなら操れるからね。愛嘉理ちゃんの霊気を打ち消すくらいに、自分の霊気を強く大きくしたんだ。かと言って僕に襲い掛かられても困るから、僕が霊気の出所だと気付かれないように工夫してね。」

「成る程。しかしそれなら尚更だ。その異質な霊気と言い、一体貴方は何者なんですか?」

涙は問わずにいられなかった。

この人物はどう見ても只者ではない。ならば一体何者なのか。

「僕は愛嘉理ちゃんの友人であり、ただの傍観者さ。それ以外の何者でもないよ。」

涙の問いに、繋は爽やかにそう答える。

しかし、涙は繋の答えに満足していない様子だ。そんな涙を躱すように、繋は笑った。

「まあ、これでネタばらしは済んだんだ。また会うこともあるかもしれないけど、その時まで元気でね。」

「はい。その、ありがとうございました。」

「礼ならもう愛嘉理ちゃんに言ったんだろ?それで充分さ。」

頭を下げる涙に繋はそう言ったが、涙は「でも…。」と一歩前に出る。

「良いから良いから。そういうのは性に合わないんだ。実際に僕は大したことは何もしてないんだし。」

「そんなことは…。」と言い掛ける涙に、繋は「それより…。」と心配そうな顔を見せる。

「君は愛嘉理ちゃんを守ると決めたんだね。しかも、その為にだいぶ無理をしてるようだ。」

繋は、袖が捲られ露わになっている涙の傷だらけの腕を見た。

「こ、このくらい何とも…。」と腕を隠そうとする涙に、繋は首を横に振る。

「誤魔化さなくて良いよ。僕には全部分かるから。君の忙しい理由はそれだろう?」

すべてを見透かした瞳で確認するように問う繋に涙は隠し通すことを諦め、「その、まあ…。はい。」と頷く。

「止めたところでそのつもりなんてないことも分かってるから、そんな野暮なことはしないよ。何故だかこの村の人達は頑固者が多いよね。」

繋は参ったように笑うと、真面目な顔をした。

「君は強い。だけど、余り愛嘉理ちゃんに心配を掛けないようにね。」

「ありがとうございます。でも大丈夫です。俺はそう簡単に死にませんから。」

「それなら良いんだ。」

嘘のない真っ直ぐな瞳で述べる涙に、繋は頷いた。

そして、「君は…。」と言い掛けて繋は口を止める。言葉の続きを待つ涙に、繋は「いや、何でもない。」と首を振る。

「君と話せて良かった。じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。」

「はい、こちらこそありがとうございました。」

別れの挨拶を述べ颯爽と去って行く繋を、涙は尊敬を込めて深々と頭を下げ見送った。

その姿を横目で見ると、繋は悲しげな溜息を吐く。

「君は全てを分かっていながら、貫く覚悟を決めているんだね。」

繋は誰にも聞こえないような小さい声で、そう呟いた。


「やあ、愛嘉理ちゃん。君ならここへ来てくれると思っていたよ。」

教室から校庭を眺めていた繋は、愛嘉理が教室の扉を開けると嬉しそうに笑い掛けた。

「やっぱり、分かってたんだ。」

少し照れ臭そうにそう言うと、愛嘉理は「卒業おめでとう、繋くん。」と笑った。

「ありがとう、愛嘉理ちゃん。」

「…しかし、大人気だね。」

全開になった繋の胸を指差して、愛嘉理はおかしさを滲ませて言った。

「ああ、さっき涙くんにも言われたよ。」

繋が苦笑いすると、愛嘉理は「涙くんに会ったんだ?」と驚いた。

「偶然だけどね。でも一度話したいとずっと思ってたから、丁度良かったよ。」

「それは良かったね。」

「うん、お陰で良い話ができた。」

「そっか。」

満足そうな繋に笑い返す愛嘉理は、突然「…あ!」と声を上げた。

「見付かってしまったみたいだね。」

校庭で記念撮影をしている人々は、それに参加せず教室から自分達を見ている繋の存在に気付き指差している。

「どうする?」

「逃げよう。もうあげられるものは何もないから。ほら、こっち!」

「え、私も?」

戸惑う愛嘉理の腕を掴み、繋は足早に教室を出る。愛嘉理には、その顔はどこかこの状況を楽しんでいるような気がしてならない。

「ここなら大丈夫じゃない?」

屋上に出ると、愛嘉理は追っ手がいないか胸をドキドキさせながら訊ねた。繋は真面目に心配する愛嘉理に笑いながら頷き、掴んでいた腕を解放する。

「僕からすればただのボタンでも、彼女達には意味のあるものみたいだね。自分が物を盗まれるなんて、怪盗としてあるまじき話だ。」

繋は溜息を吐きながら、腕で汗を拭った。

「怪盗?」

「ああ、独り言だよ。気にしないで。」

「…うん。」

その微笑みに、愛嘉理はこれ以上の追及を諦めた。

繋の一見分かりにくい言い回しはいつものことだ。これもその類のものかもしれない。そう思うことにした。

「あ。ちなみにこれ、君も欲しいかい?」

繋はわざとらしくボタンのあった場所を指差して、愛嘉理に訊ねた。

「分かってるくせに。」と笑う愛嘉理に、繋も「はは、中々可愛いげのないことを言ってくれるじゃないか。」と笑った。

「きっとこれでお別れな訳じゃないって、そんな気がするんだ。それに、繋くんからはもっと大切なものをたくさん貰ったから。本当に、ありがとうございました。」

愛嘉理は頭を下げた。その言葉には一点の曇りもない。

繋には言葉では表しきれない程に感謝している。そして何故か本当にまた逢えると、そんな気がした。

そんな愛嘉理の真っ直ぐな言葉に、繋は「僕もだよ、ありがとう。」と心を込めて応えた。

「…あ、あの、ところで…。」

愛嘉理は頭を上げると、今度は少し好奇心を帯びた眼差しで繋を見た。

「ん?」

「ずっと聞きたかったんだけど。」

「卒業後の進路かい?」

「そう、どうするのかなって。この村を出て、大学とかに行くの?」

その問いに、繋は首を横に振る。

「いや、僕は進学しない。旅をするよ。」

「旅?」

「ああ、厳密に言えば今もその最中だけど。」

相変わらず掴みどころのない繋の解答に、愛嘉理は毎度の如く悩まされる。

「それって、よくある人生という名のってやつ?」

「いや、そういう比喩的なものではないよ。でも僕はもう人生の半分以上を旅の中で過ごしているから、その言葉も当てはまらなくはないのかな。」

結局、繋の謎は解けないまま見送ることになりそうだ。

繋には吾生ですら敵わない。自分が敵うはずもないと諦めた愛嘉理は、困惑した表情で笑った。

「よく分からないけど、繋くんはこの村の人ではなくてこれからまた違う場所に行くんだね?」

「そうだよ。でも必要があれば、またこの村に来ることもあるだろう。」

「そっか。じゃあ、やっぱりまた逢えるね。」

「そうだね。その時まで元気で。」

繋は眩しく笑い、手を差し出した。

「ありがとう、繋くんも。」

また逢える。それだけ分かっていれば充分だ。そう信じて愛嘉理も今度は晴れやかな笑みを返し、その手を取った。

「ああ、ありがとう。さあ、彼女達もそろそろ諦めてくれたみたいだ。」

「…それは良かった。」

安堵する愛嘉理に、繋は「そろそろ帰ろうか。」と提案する。

「うん、またね。」

「またいつか。」

別れ際二人はそう再会を誓い、それぞれの道へと進んだ。

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