光の綿毛
私は目が悪い。
いつの頃からか、私の目は人の顔もまわりの風景もうつさなくなってしまった。
もはや、私に見えるのは夜になると現れるタンポポの綿毛のような町の明かりだけだった。
わたしは夜に生きていた。
そんな私にも、この町は治安というものがとても悪いことはよくわかっていた。
毎日そこかしこからすすり泣く声や絶望の悲鳴が聞こえてくるのだから、間違いない。
今だって、きっとどこかで誰かの呼吸がとまっている。
私はというと、今は人一人いない住宅街の隅でただただ風に当たっていた。
外の風は秋と冬の風が入り混じったようで、私の心がシャンとするのがわかる。
わたしはすっかり日が落ちた町をぐるりと見渡した。
ポツポツと光の綿毛が見える。
ああ、やはり生きている感覚がする。
私はポケットからマッチを取り出して、火をつけてみた。
光の綿毛はわたしのまじかに迫り、わたしの気分を高揚させた。
世の中の「希望」というものがそこにあるのだ。
種を飛ばすように軽く息を吹きかけると、綿毛はまるで初めからなかったみたいに姿を消した。
なんどもなんども、光の綿毛を出しては飛ばし出しては飛ばして私の希望をその中に見た。
しかし、吹いたら消えてしまうその希望に、わたしは切なくなった。
それならば、とわたしはマッチをいくつかすり、それを遠くへ投げた。
その光景は、まさに私が見たかった飛んでいく綿毛そのもので私は夢中になっていくつもの綿毛を飛ばした。
気がつくと、私の目の前には私なんかよりずっと大きい光の綿毛ができていた。
全世界の絶望を掻き消すような、そんな大きな光だった。
全世界の人の孤独をすべて包み込むような暖かさだった。
光の綿毛の中から悲鳴や叫びが聞こえた。
きっとすべての絶望を光の綿毛が掻き消してくれたのだ。
わたしはもはや、絶望なんて知らなかった。
翌日、連続放火魔がまた現れたとラジオが言った。
だれかの不幸を希望にかえるため、私は今夜も光を灯す。