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「女神伝説」 礼の世界  作者: 海夢
3/5

不確定な恋愛

 最近、どうにも体調が優れない。

 付き添いの若葉にも、近頃変だね、と心配された。

 あの朴念仁な弥仁にもどうした?と聞かれた。

 いつも付きまとっているのに、変によそよそしいからだろう。

 理由は自分でもわかっている。

 <恋>をしたようなのだ。

 相手は弥仁ではない。

 いや、自分の生涯の伴侶は弥仁だろうことは間違いない。

 しかし、目を閉じるとあの冷たい突き刺さるような眼差しが思い浮かぶのだ。

 そう、<恋>の相手は夢の中に出て来た自分の息子なのだ。

 肉親が母親だけの礼は男に対して耐性がない。

 身近にいる存在は幼なじみの弥仁くらいなものだ。

 まあ、<竜の息吹>に耐えられるのも弥仁だけだろうが。

 だからだろう。

 身近な異性にときめいてしまうのは。

 それでなのだろう。

 長男に抱き付いた感触を思い出し、頬を染めてしまうのだ。

 (また、あの夢を見ないかな…)

 夢想家のごとく、日がなそんなことを考えてしまう。

 まだ、性体験を経験していないからだろう。

 ピュアな礼の感性では、自分が弥仁に感じる性的な願望や嫉妬が妙にいやらしく、汚く感じるのだ。

 (あれは、本当の愛よね)

 そんなことをつぶやいてしまう。

 弥仁を巡る美姫や弥美などのやり取りは、自分にはやや重いのだ。

 (やきもち妬くとかバカみたいだし)

 そう、普段の自分を冷静に観察出来るのも、弥仁に必要以上に惹かれていないからだろう。

 (パパも大事だけど、血肉を分けたのは子供だけだし)

 そんな女のエゴを、無意識に思うのだ。



 今日は久し振りに弥仁の家に泊まりに来た。

 付き添いの若葉も先ほど帰り、明日、迎えに来ると礼に挨拶していた。

 四巫女の早百合がいるので、礼の面倒は任せられるのだろう。

 礼ちゃんの気分転換にいいかもね、などと軽口をたたいていた。

 若葉なりに気を使ったのだろう。

 しかし、礼は無関心で夢の佳人を思っていた。

 「礼ちゃん、ゲームでもしよ?」

 早百合が誘う。

 「あっ、うん」

 気のない返事をした。



 「やった勝ったー」

 「あー、もうちょっとなのにー」

 さすがに礼も、好きなゲームには夢中になった。

 早百合も気を使ったのだろうが、礼もだいぶリラックス出来た。

 さんざ遊んでハシャいで、夕飯を食べ、風呂にはいると遊び疲れたのか湯船でウトウトを始めた。



 (あれ?)

 まず、感じたのは違和感。

 そして、理解。

 (弥仁ちゃんの家でも、この夢見るんだ)

 光の中、礼の家のダイニングが現れる。

 (よし、今度は覚えていたぞ)

 少し、母親としての自信と誇りを感じた。

 が…

 テーブルには長女の一人しかいなかった。

 礼は期待した分、胸の奥が痛んだ。

 しかたなく、長女に近寄り抱き付く。

 ふかふかな感触を味わう。

 「しょうがないなあ」

 長女がため息を吐く。

 そんな長女を無視して、礼は尋ねる。

 「男の子はどうしたの?」

 問い詰めたいが我慢した。

 「んーとね」

 長女は言葉を選び選び答える。

 「ママの未来は不確定なの」

 長女は礼の手を握る。

 「私もあの子も産まれるかもしれない、というだけで、産まれない可能性もあるの」

 「それって、どういう…」

 「今はあの子が産まれない世界かな」

 礼はビックリして顔を上げた。

 「嘘、なんで?」

 長女は困ったように礼を見た。

 「うーんと、ママがパパと喧嘩したり、疎遠になったり…。した?」

 「うっ」

 礼は声を詰まらせた。

 思い当たることが山ほどある。

 「そんな、それだけで運命が変わるの?」

 長女は悲しげな顔をした。

「だって私達、パパとママの愛の結晶だもん」


 一瞬で目が覚めた。

礼は裸のまま風呂場から飛び出し弥仁の部屋に行く。

 「弥仁ちゃん!」

 「はい?」

 部屋で早百合を抱っこしながらゲームをやっていた弥仁は驚き、コントローラーを投げ出した。

 礼の視線に気付いてか早百合を隣に座り直させる。

 早百合もドギマギして正座をした。

 礼は言葉に詰まり裸のまま弥仁を睨みつける。

 「……お願いだから」

 そしてそのまま泣き崩れた。

 「…私から取らないで…。なんでもするから」

 弥仁は驚いて早百合と顔を見合わせた。

 「なんだろ?」 早百合も驚いて顔を見合わせている。

 礼は大泣きをしながら弥仁に抱きついてきた。

 「おいおい…」

 と、柔らかな肌に手が触れる。

 幼い頃ならともかく、成長してからは礼の裸など見たことはない。

 自然、弥仁は好奇心と下心で礼の肌を見ようとした。

 それに気付いたのか礼が顔を上げた。

 「卑怯者……」

 が、すぐに下を向きブツブツつぶやき始めた。

 「…ママ、どんなことがあっても我慢するからね…」

 「ママ?」

 弥仁が聞き返す。

 キッ、と礼が見返す。

 「愛してよ。さあ」

 ポロポロ泣きながら睨まれた。

 そこへ騒ぎを聞きつけてきたのだろう、弥仁の母<恵>がやってきた。

 「どうしたの、弥仁。あら礼ちゃん、裸でなにしているの?弥仁、あんた、なにしたの!」

 恵の叱責が飛んだ。

 「俺、何もしてないよ!」

 弥仁も驚いて弁解する。

 礼はグズグズと涙を流しながら座り込んでしまい話にならない。

 ただ、早百合だけが落ち着いて、奇妙なこともあるものだと礼の衣服を用意していた。

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