敬天愛人
また、あの夢を見た。
光の中に、慣れたのだろう、礼はすぐに自分の娘の姿を見つけた。
前に見たようにダイニングのテーブルについている。
「あっ」
近寄るとおもむろに抱きつく。
「もうやめて、ママ」
むずかゆいらしく。少女はいやいやをする。
「だって、気持ちいいんだもん」
礼は猫なで声でそう耳元でささやき、続ける。
「もう」
少女はあきらめたように礼に身を任せる。
礼はそのやわらかさを堪能すると、視線を感じて目線を上げる。
そこに少年がいた
「あら?」
目線が合う。
少年はテーブルの一角、さも自分の居場所然として踏ん反りかえっている。
「なに?」
そう、不満げに睨む。
「私の子供!」
感嘆の声を上げる礼。
「あ、うん」
少女が答える。
「わー、弥仁ちゃんの子供!」
礼は少女から離れると少年に飛びついた。
「うるせえ」
少年はうっとおしがって礼を引き離そうとする。
自分とそう変わらない年頃だろう、顔つきはややきつめだが弥仁よりは自分に似ているか?
そう思い、よくよくみると容姿のほか、背格好も弥仁より自分に似ているかもしれない。
「あー、」
なんだか残念な気持ちになる礼。
「やっぱり、ママのせいかな…」
そう、すべての原因は自分にある。
それはわかるから…・
「ごめんね」
背格好や、容姿がそっくりな自分の息子に礼は抱き締めて詫びる。
「いいから、うるさい」
そう、息子が逃げる。
「ん、もう」
礼は残念そうに息子を見つめた。
心なしか、息子も苦笑いながらも礼のことを嫌っているのではなく恥ずかしがっているようにも見える。
(そんなこともわかるのも、親子なんだ)
そう自答して悦に入る礼。
「もう、恥ずかしがっちゃって」
嬉しくなり再び抱きしめようとする。が、さすがに息子は逃げた。
「いい歳して、はしゃぐなよ」
そう、ばつが悪そうに言う息子を見て、胸の奥がキュンとするのを感じた。
(あー、これって、愛情なのかな。弥仁ちゃんにも感じたことないや)
礼は胸の奥の高鳴りに自身の愛情を再確認していた。
目が覚めた。
急速に夢の中の意識が薄れていくのがわかる。
現実の重さが礼を押し包んでいく。
礼は必死になって記憶しておこうとする。
美人でスタイルのよい長女と、自分に似て可愛い長男と。
必死になって、忘れないように頑張った。