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プロローグ

素人です。頑張って続けて行きたいと思います。

 人気のない工業団地のメインストリート。二つの人影が二人三脚するかの様に狭い歩道を走っていた。

 メインストリートを中心街へ向けて走る中型のトラックのヘッドライトに照らされた彼らの姿はこの場所にはあまり相応しいものではなかった。土曜の深夜のこの場所には特に。

 上から下まで真っ黒なスーツの男とその男に腕を掴まれ、なんとか走っている茶色のハンチング帽の男。

 二人の男はもうおよそ走るとは言えない速度で工業地帯の中程にある倉庫が隣接する一角に入った。

 やがてスーツの男は立ち止まり、辺りを警戒しているのか何かを探しているのか周辺に頭を巡らす。

 ハンチング帽の男はその場に両膝両手を付き頭をうな垂れ、肩で息をしている。

 スーツの男はその場に片膝をつきハンチング帽の男の腋に腕を通し一言声をかける。

「さあ。」

「……もう走れないよ」

 ハンチング帽は息をする間になんとか答える。

「だったら立ち上がって歩くんだ」

 スーツも鼻息は荒いがしっかりした言葉でハンチング帽に答える。

 その言葉に答える様にハンチング帽はうな垂れていた頭を起こしスーツに目を向けようとしたが、ハンチング帽が目の高さまでずり下がり視界がない。

 スーツがハンチング帽を直してやり立ち上がるのを手伝う。

「やっぱり、お前はこっちでもそうなんだね」

 スーツは「なんのことだ?」と、ハンチング帽を目で尋ねる。

「いいんだ、いこう」

 スーツは軽く頷き、再びハンチング帽の腕を掴んで歩き出した。

 

 

 二人はトラックが二台程が接車し荷物の搬入搬出作業ができる倉庫の前までやってきた。

 接車作業する左隅には小荷物を手押し台車等で搬入するのだろう幅二メートルほどある緩いスロープがあり、その先には倉庫への出入り口を兼ねた観音開きの鉄製の扉が設けてある。

「ここだ」

 スーツはハンチング帽に言うともなく呟くと、その扉に向かってハンチング帽を伴って足早にスロープを上り出した。

 その鉄製観音扉には、片側に一つづつ取っ手はあれど鍵穴らしき物が見当たらなかったが、スーツが右側の取ってを握ると、エアーが抜ける様な音と共にがちゃりと扉が開錠された。

 そのまま扉を押し開くとハンチング帽に「入れ」と首を振って促した。

 ハンチング帽は素直にそれに従い中に入り、それにスーツも続く。

 扉が閉まると暗闇に包まれた。かと思うと、入ってきた扉の脇にちょうど携帯端末大の光が現われた。

 光に何事か映し出されているのか、スーツが指先で操作している。

 数秒後、発電機だろうか小さく低い機械音が唸り出したと同時に倉庫内に明かりが灯った。

 内部はおよそ倉庫とは言いがたく、荷物と言える荷物が山積みになっている訳でもなかった。

 外から見えた搬入口も内部はコンクリートで塗り固められ左右の壁も同様に堅牢な作りになっていおり、二人が入ってきた扉の反対側にはガラス張りの仕切りがあり、内部には端末類が所狭しと並んでいる。さらに倉庫中央には黒の同型のSUVが二台が駐車されている。

「こっちだ」

 言いながらスーツは奥のガラスで仕切られた部屋に足早に歩いていく。

 特に驚いた表情もせずにその場で倉庫内に頭を巡らせていたハンチング帽が後に続く。

 その部屋はコの字型にぎっしり何かしらの端末が備え付けられており、人がすれ違う余裕など到底ない作りになっていた、一~二人が作業する場所なのだろう。

 スーツはハンチング帽に奥に入るように促した。

 ハンチング帽はコの字の一番奥へ進み、出口を塞ぐ様にしてこちらを向くスーツに振り返って対峙した。

「座って」

 ハンチング帽は真後ろにあったキャスター付きの椅子に黙って座る。

 それを合図にスーツが言う。

「襲ってきた連中は何者だ」

 ハンチング帽はスーツの問いに答える代わりに茶色のハンチング帽ゆっくり脱いでスーツの視線を受け止めた。

 頭髪はすっかり後退しいるが立派な口ひげを貯えた浅黒い肌が言った。

「……どう話したものか、おれもついさっきこちらに来たばかりでね」

「Drカンパニー……だったな。何を言っている? わたしは…」

「あーすまんすまん」

 スーツの訝しがる表情を見て取ったDrカンパニーは苦笑いもそこそこにスーツの言葉を遮った。

「お互いもう時間がないもんな。ジャック、お前さん、今こう思っているだろう? じ…」

「ジャックとは?」

 今度はスーツが遮る。

「ああ……そうだったな。では、お前の名前はなんというのだ? なんと呼べばいい? おれはドクターなんとかと呼んでくれて構わないが?」

「それには答えられない」

「結構。それならジャックでも構わないな? 」

 一瞬押し黙るスーツだったが「それで構わない」と答える様にうなずく。

「よしよし、話を進めようか。ジャック」

 Drカンパニーはジャックとの会話をまるで楽しんでるかの様に話を進めた。

「まず、襲ってきた連中が何者か、これには答えられない。……正確には答えたとしても今のお前には理解できない。それよりもお前がまず知りたい事はそんな事じゃなく、あの場所に残してきた仲間の安否だろ? 」

 ジャックは、表情さえ変えなかったがDrカンパニーを射抜くかの様な視線を向けて答える。

 その視線を受けるDrカンパニーは満足そうにうなずく。

「お前のお仲間は一人残らず無事だよ。……もちろん周辺にいた大勢の無関係な人々もね」

「それを信用しろと?」

 やはり表情を変えないジャックが続ける。

「無事なら私に連絡を寄越すはずだ。…質問を変えさせてもらう。…あんたは何者だ? 」

 ジャックは、つかつかとDrカンパニーに詰め寄り彼の鼻先まで迫った。その時。

 丁度、Drカンパニー左手にあった端末の一部が音もなく点滅しだした。

 この時ばかりは驚きの表情を露にしたジャックはその点滅する光点を凝視した。

「お望みの連絡かな?」

 Drカンパニーがくすくすした表情で言うと、ジャックは弾かれた様に端末の側に投げ置かれていたヘッドセットを掴んで耳に当てた。

「はい…     はい…    はい。了解しました」

 何者かの通信を終えヘッドセットを握り締めたまま傍らの椅子に座り込んだジャックは安堵のため息を漏らした。

「どうやらあの小僧はうまくやったようだ。次はジャック、お前の番だよ」

 そう言ったDrカンパニーに向き直りジャックは言う。

「ああ、その通りだ。ここで待機し、仲間と合流後、あんたを目的地まで送り届ける」

「……ああ、そうだ、それをお前はやり遂げたよ。……いや、そうじゃないか、これからやり遂げるんだな」

 何か窺い知ることがあるのかDrカンパニーは悲しむとも喜ぶとも言えない表情でジャックに言った。

「ああ、その為にはあんたの知ってる事を話してもらう必要がある。車を簡単に弾き飛ばすような連中にまた襲われたら今度こそどうなるか分からないからな」

 Drカンパニーは考え事でもしているのか、視線をジャックから外した。そして言った。

「…ジャック、どうやら時間切れのようだ」

 Drカンパニーの言葉を合図に倉庫内を照らす照明が消え、そこは二人が入って来たと同じ暗闇に包まれた。

 暗闇には取り乱したジャックの吐息だけが頼りなく聞こえるだけだった。

「何をしたっ!」

「落ち着け。何もしてない。……ただ、迎えが来たんだ」

「迎え!? 馬鹿な! 早すぎる。貴様何を!」

 ジャックがDrカンパニーに掴み掛かろうとしているのか衣服の擦れる音とがたがたと椅子が机か何かにぶつかる音が交錯する。

 とその時、倉庫の中央に握りこぶし大の白くて丸い何かが音もなく現れた。

 その白い何かは確かに白かったが、周りを照らすこともなく音をたてることもなくそこにあった。

 まるで、真っ黒に塗りつぶした画用紙にぽつりと白色を一滴落としたかの様に。

 そして、すぐさま変化が起きた。

 白球体はその大きさを増し始めた。

「これは何なんだ……」

 その様を目撃したのだろう、ジャックが狼狽の色を隠せない言葉を発した。

「お前には何か見えるのか?」

「あんたには見えないのか? 白いのが大きく……! 」

 倉庫があったその空間は急速に白色のそれに侵食されつつあった。

「ジャック、質問に答えるよ。 俺は、お前の親友だよ。大丈夫さ向こうで会おう」

 Drカンパニーのその言葉がジャックの耳に届いたのかいないのか、彼の返事はなかった。

 

 

 

 

 

 

「ジャックさん、無事に向かったみたいですね」

「みたいだな。おれはここまででいいんだな」

「はい」

「いや、まさか俺がこうして見送ってっていたとはな。思わぬ再会だったよ。礼を言わなきゃな」

「いえ、頼める方が他にいませんでしたし、見つかってよかったです」

「まあ、これでも忙しい身なんでね。お前とも少し話せたし、よかったよ。で、俺はもう時間なんだろ?」

「ええ……。残念ですが」

「じゃあ、やってくれ。特に親しみも無いがあいつがいた世界だ。頼んだぞ」

「はい。任せてください。……では」

「おう」

 どこから聞こえてくるのか、少年らしい声との会話を終えてDrカンパニーは膝の上に置いておいたハンチング帽をしっかりと被りなおした。 

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