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望める感情

作者: 珀柳

あくびが一つ出た。

昼夜逆転の夏休みを過ごしていたものだから無理もなかった。

私は夏休みが明けたのは少し嘆かわしかった。

もちろん、こうやってみんなと再会できるのも、こうやって楽しく喋れるのも好きだ。

ただ、やっぱり長かった休みが明けるのは少し切ない。

昨日の夕日がそれをなんとも言えぬ切なさで語ってくれた。

さて、私が今から話すのは今から2ヶ月前のこと。

この2ヶ月で私の運命は大きく変わった。運命、とかって言うと大げさで笑われちゃいそうだけどこれだけは否定はできないと思う・・・。

私、藤崎朋美は中学2年生の女の子。

これといって取り柄もないし、勉強は普通、スポーツも普通。

ほんとに普通過ぎるダメダメさん。

そんな私は夏休みが明けたこの日のHR前の時間帯に友人と話していた。

「朋美。久しぶり。」

「うん、久しぶりだね。」

から始まり、話はとどまることを知らず、発展ばかりしていった。そんな中現れたのは国府田喬夫だった。

「おはよ、朋美。」

「あ、おはよ。喬夫。」

「今日のHRで演劇の配役をするんだって。」

演劇、といえば9月の上旬に学校祭でする出し物のことだ。

この件に関してはもう夏休み前には決まっていた。

「そっかぁ。楽しみだね、誰が主役するんだろ。」

私は好奇心で顔からは笑みがこぼれた。

「ヒロインは朋美がやりなよ。」

「えぇ、無理だよぉ。」

私は嬉しかいのか、困ったのか苦笑をしながら言い返した。

私の友人との会話も、もはや喬夫との会話になりかけていた。

だが、そこで割って入ってきたのは、先ほどまで話をしていた秋庭真理だった。

「で、喬夫君が主役するんだよね。」

「な、何で俺が・・・!」

「何言ってんの!現実だって二人ともお似合いじゃない!だから二人は恋人同士だって決まってるの!」

めちゃくちゃな理論だ。

「何言ってんの!別に私たちはそんなんじゃ・・・。」

「も〜、いまさら隠さなくたっていいでしょ。」

私はまったく何も感じ取っていなかった。

私と喬夫は幼なじみでただ同じ孤児院の屋根の下で暮らしているだけ。

ただおかしいとおもったのは真理が何を言いたかったのかがなんとなく解らなかった。

でもさりげに否定する自分がいたのは不思議だった。

その後真理が周りに大きな声で私たちのことを呼びかけたせいか、有志では決まらなかった配役も、投票ではすんなりと決まった。

もちろん、私がヒロインで喬夫が主人公に。これにはさすがに呆れさせられた。

数日も立たないうちに練習は始まった。

何の問題もなく劇の練習は進められていき、やがて2ヵ月が経とうとしていた。

・・・そして学校祭一週間前にはラストシーンの練習まで来ていた。ただ・・・。

「ストップ!ストップ!!」

ただ、練習はこれ以上進もうとしなかった。

「え?何?」

私は演技をやめてホールを見下ろす。

もちろん下にいるのはメガホンにサングラスといった気の入った監督気取りをしているクラスメイト(男子)だった。

その格好は不評ではあるが本人は気が付いてないらしい。

まぁ、そんな監督に演技を何度も止められつつ時間だけは過ぎていった。

結局その日進展することは何もなかった。

もちろん演技できないことをなんども悔やんだが考えることをやめた。

「喬夫、帰ろ。」

「あ、ああ。その前に寄ってかないか。」

私たちはたまに屋上に寄っていく事があった。

今日も喬夫はそんな気分なんだろうか。

喬夫は無性に町の景色を見下ろしたくなるときがあるという。

確かに夕日に照らされる町の景色はすばらしいとしか言い様がないくらいだ。そんな景色は私も好きだ。

「で、どう思うんだ?朋美は。」

もちろん話してるのは演劇のことだ。

「わかんないよ。ただ私には演技できないのかな、としか。」

今日は風が強かった。私はそれを知っていて大きな声で話した。

「そうか。」

「ね、ねぇ喬夫。今日は風が強いから帰ろうよ。」

そういった矢先だ。

私は横風にあおられた。

柵越しにいた私は掴まるところを探した。

もちろん柵越しだからつかむところがあるのだが、腰までしか柵がないせいか、結果は予想されたとおりだと思う。

・・・私は作の向こう側から錆びた柵を掴みぶら下がっている常態だ。

もちろん屋上(地上18m)なので落ちたら命はない。

「た、喬夫ぉ!!助けてっ!」

「待ってろ。今助ける!!」

だが、喬夫は腕を掴むのでも棒を私に差し伸べるのでもなかった。

私の体が勝手に宙を舞ったのだ。やがて私は先ほどと同じように柵越しに立っていた。

「良かった。助かった。」

「え・・・・。」

私は唖然として立っていた。今の出来事を必死に理解しようとして。

「ちょっと待って。今の喬夫がやったわけじゃないよね?」

「・・・え?何言ってんの?」

私は喬夫が言い返してくれてほっとした。

まさか、身近にいる男の子が魔法みたいなものを使うなんておかしすぎると思った。

だが、次に喬夫から帰ってきた言葉はこうだ。

「俺以外に誰がするって言うのさ。」

「何・・・!?どういうこと!?」

喬夫もまた

「どういうことだ。」

という顔で私を見つめた。

「・・・だって俺、精霊だもん。」

「はぁ?」

私はそう吐きそうになった。

精霊?そんなものが存在するわけがない。

私はその時一心にそう思った。

だが、先ほどの出来事を思い返すとそうは思えなくなった。

「精霊って、なに?」

「朋美?」

私の質問に喬夫は首をかしげた。

「まさか、しらないのか。」

とでも言う顔で私は見られていた。

「朋美。お前も精霊だろ。」

「え・・・。」

真に受けてしまった。

まぁ先ほどの出来事もあるし、それは仕方がなかった。私はしばらくしてわ我に返った。

「そんなわけないじゃない!何言ってるの!?」

「じゃぁ、指を出してよ。」

私はいわれた通りにした。そして喬夫が指を鳴らすと私の指先に火が出た。

「ひゃっ、火!?」

「それが証拠さ。」

私は感じ取った。異変を。

「熱く・・・ない?」

驚く。それしかできなかった。私はこの信じられない現実を受け止めるしかないというのだろうか。私はそう思っていた。

「ちょっと待ってよ!説明して!!」

私と喬夫は孤児だった。

なぜか私たちだけ同い年で、しかも同じ日に孤児院に入れられたのだという。

詳細については院長も話すことはなかった。

ただ、喬夫は院長があることをぼやいているのを聞いたのだという。

「精霊とは、辛い運命を背負ってしまったな。喬夫も、朋美も。」

と。もちろんはじめは喬夫も信じたくなかったらしい。だが、日が経つにつれ自分の意思で物が動くことに気が付いていた。俗に言う超能力というものだろうか。それが使える自分に確信を感じてしまったのだという。

「ってことは・・・。」

もちろん自分も日が経つにつれ何かの異変に気が付くことになる・・・。

それを私は恐れた。

演技ができなかったことは全てこれにつながっていた。

・・・精霊である以上余計な感情はなかった。

いくら台詞を覚えても、上達するわけがなかった。ラストシーンの告白だなんて・・・。

それから帰った。

私たちは二人で。

それから気が付く異変はまったく違うものだった。

院内ですれ違うときも。

テレビのある部屋に一緒にいても。

もちろん今日帰ってるときも、喬夫の顔が見れない・・・!不思議だった。

でも苦しかった。

解らない。これが何なのか解らない。ただ無性に気になって仕方がない。私は子機の受話器を取って布団に包まりながら真理に電話をかけた。これが何なのか知りたかった。

「・・・。」

全部話し終えると真理は黙り込んだ。

「ねぇ、なんなの?これは?」

「恋だね。」

「恋!?」

ちょっとまったを掛けたいくらいに私は驚いた。

本当に待ってほしい。

つい先ほど精霊は恋愛感情をもたないということを話していたのに、これでは話のつじつまが合わない。

私は子機の電源を切る。

頭がおかしくなったんだ。

そう思って私は一心に眠ろうとした。

・・・でも、眠れなかった。

四六時中喬夫のことが頭をよぎって眠れなかった。

結局その日は徹夜。

こんな調子だから一人で学校に行った。ただひとつ、利点となったのは・・・。

「なぁ・・・。」

「ああ・・・。」

私のことを見る人たちが顔を見合わせているのが分かる。

「藤崎の演技が上達している。」

ただ問題だったのは。

その次の喬夫が演じる応答シーン。

自分も好きだということを伝えるはずなのだが、なかなか成功しない。

結局今日もラストシーンが完成しないまま練習は終わった。

今日は私のほうから喬夫を屋上へ誘った。

「やっぱり綺麗だなぁ。町の景色は。なぁ朋美。」

「うん。」

もちろん目どころか、顔さえあわせられない。

もうずっとこんな調子だ。

私は自分で沈黙を誘ってしまった。喬夫と話をするつもりでここへ来たのに。

「朋美?」

「あ、あのね喬夫。精霊も恋をするんだね。・・・私分かっちゃったんだ。恋が何か。昨日一晩中考えてたら分かったの。昨日ここで喬夫に助けてもらったでしょ?そのときはよく訳が分からなかったけど、あとから喬夫のことかっこいいなって思っちゃって、それからずっと顔あわせられなかった。帰るときも、孤児院の中ですれ違うときも。真理に聞いたらね、私が喬夫に恋をしてるんだって教えてくれた。でね、昨日は眠れなかったの。だから考えてた。こうやってわくわくしたりどきどきしたり、これが恋なんだなって。私はずっと喬夫といて気が付かなかったけどやっと気が付いたんだ。私は喬夫のこと好き。」

「・・・朋美。」

「昨日はありがとう。すごく怖かったんだほんとは・・・。」

私は喬夫の体をつかまえた。両腕でしっかりと、大きな喬夫の体を。

「ありがとう。本当に。」

「朋美・・・。俺も多分そうかもしれない。きっといつか朋美のようにその感情に触れることになるかもしれない。」

「うん。」

その後私たちが不思議な力と引き換えに恋愛感情を抱くことができるようになった。

そしてまた、のちの演劇が大成功に終わることは言うまでもなかった。

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