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89,三者会談

 鬼木の婆が死んだと聞かされたとき、村長は、

「そうか、婆が、まかりおったか」

 と、ぼうぼうとした眉を沈め、ひどく寂しそうな顔をした。

 大地震の後、裏の婆の家が潰れたと聞き、エレベーターを作動させた。電気が通じず動かなかった。しかし穴は塞がっておらず、こちらから人をやって婆たちの様子を見てこさせようとした。

 実際は、村長の予感をはるかに越えた悪いことが起こっていた。

 村長が気を急いてエレベーターにかかずらわっている間に婆の家の下から黒木たちがケイの体を連れて這いだし、村長にその知らせが来たとき、芙蓉、ミズキといっしょに姿を消してしまっていた。

 婆が悪霊に殺されたと聞き、


  見誤ったか・・・・


 と深く悔やんだ。

 状況はよく分からない。しかし、ケイを動かして紅倉に余計な手出しをしたのが全てを狂わす原因になったと思う。

 半鐘が鳴らされた。

 地震で火事が起こったかと村長は思った。村の消防は青年団の仕事だ。しかしそれはあらかじめ村人たちに報せてあった夜祭りの準備に掛かる……戦闘を伴う非常事態令発動の合図だったと思い至った。呆けたかと自分の頭を疑ったが、自分はそんな命令は出していない。誰が勝手にと思っていたら助役が青い顔でやってきて、「たいへんなことになりましたなあ」とのんきに言いやがった。黒木たちの討伐が命じられたと言う。誰が?と思っていたら、当人がやってきた。青年団長木場田が、

「全て、任せていただきます」

 と怖い顔で言った。村長と青年団長の睨み合いに助役はあたふたしていた。

「団長。いやさ木場田。何を企んどる?」

「村を新しく作り替えます。老いては子に従えと言いますね? 従っていただきます」

 村長と助役は軟禁状態となり、やがて黒木たちを全員討ち取ったと知らせが来た。かわいそうなことをしてしまったなと村長は思った。

 やがて、木場田の反乱の後ろ盾となっていた者が現れた。麻里だ。

「婆さまが死にました。ヨシおばさまも。メイコさんや成美ちゃんでは、神を制御するのに力不足ですわね?」

 木場田と麻里が並び、企みが明らかとなった。


「村を、売る気か?」





 再び木場田が、信木と公安「日本太郎」と共にやってきた。

「お婆さまは気の毒でしたね」

 信木にお悔やみを言われて村長は少しほっとした。若者どもの欲求と、信木の人望と、どっちが上回るか?

「さて」

 村長を上座に、助役と校長を並べ、

 向かい合って木場田と信木が並び、

 出入り口の一番下座に公安を座らせた。

 保安官信木がこの場を仕切る。

「麻里ちゃんはどこですか?」

「麻里は離れに赤ん坊を見に行っておる。自分の妹にしたいんじゃと」

「そうですか。ま、邪魔をしてくれなければそれでけっこう。

 なあ村長。

 まずは若い者の言い分を聞こうじゃないか?」



「この村の異常さが、あんたら年寄りには分からないのか?

 何故俺たちは生まれながらに人生を決められる?

 何故自分の自由な生き方を選択できない?

 外の世界では、みんな当たり前にやっていることじゃないか?

 何故俺たちだけが、決められた、こんな呪われた生き方をしなければならない?

 俺たちは特別な要求をするんじゃない、日本国民として、当たり前の自由と権利を返して欲しいだけだ!」


 日本太郎がおかしそうにニヤニヤした。村長はぶ然として。


「おまえはこの村に生まれた意味が分かっておらん。

 確かに不自由だろう。不満もあろう。だが。

 それはわしらこの村に生まれた者の先祖代々受け継いだ、義務じゃ。

 わしらの生き方には、人の世に必要とされる理由があるのじゃ」


「その義務を引き受けるのが、何故我々でなければならない?

 不公平だ。

 義務を引き受けるなら引き受けるで、応分の見返りを得るのが当然だろう?」


「報酬ならきちんと受け取っておるだろうが?」


「一生を村に縛り付けられて、なんの喜びがある!?

 俺たちが欲しいのは、俺たち自身の生きる喜びだ!」


「己を神に捧げ、必要とされる義務をまっとうしようという潔い生き方ができんか?」


「そんなもの、したくもない!

 俺は、

 自分や、自分の愛する者のために、自分の人生を使いたいんだ!

 この村には、その、俺の一番望むものが、ない!

 俺は、この村での俺の生き方を、愛する人に誇れない!…」


「女か」


「それのどこが悪い?

 何故俺たちは、不幸を糧にしてしか出会えない? 結ばれない?

 何故、その人の不幸が前提でなければならない?

 この村には………………

 幸せな愛が…………………無い…………………………………。」


「堪えろ。我々村の人間にとって、愛とは、救ってやるものだ。

 我々が望んで得るものではない」


「それが異常なんだよおっ!?

 俺たちの命には……、普通に男と女が愛し合う……、愛が、こもってないじゃないか?

 それが俺は、愛する人に恥ずかしい。

 俺は自分の純粋な愛を、自分の子どもに受け継ぎたい。

 村に、神に、子どもの人生や愛を、絶対に、握らせたくないんだ!・・・・・・・・・」


「愛か………。わしらの世代には恥ずかしゅうてよう口にはできんわ。

 そうだの…、

 それを口にするなら、

 もっと大きな愛を見んか?

 自分の仕事が恥ずかしいだと? 自分の命が恥ずかしいだと?

 この、うつけが。

 わしらは誰よりも立派な仕事をし、立派な命の使い方をしておるではないか?

 わしらは必要とされるからこうして生きておるのじゃ!

 それを誇りに思わんと、恥ずかしいとは、この、神に対する罰当たりもんめ!!」


「けっきょくそれだ! 神だ!

 大事な大事な神様にご奉仕して、俺たち人間など、ただの道具じゃないかっ!?

 俺は………………

 人間であるために……、

 神にだって反抗するぞっ」


「貴一っ!!

 きさま、言うてよいことと悪いことがあるぞっ!!」


「俺にも神の天罰を下すかあっ!?

 何が義務だ! 何が誇りだ! 都合のいい美辞麗句を並べ立てて、けっきょく、

 そうやって逃げられない力で支配してるだけじゃないか!?

 俺たちは………


   奴隷


 だ!」


「……団長……………」



 村長と団長は顔を真っ赤にして睨み合い、どうやら年寄りの伝統的な価値観と、人権意識の目覚めた若者の広く普遍的な価値観は相容れないようだ。


「信木さん」


 木場田は村長相手ではらちがあかないと信木に意見を求めた。


「あなたはどうです? 外から見ていて、この村が異常だと思いませんか?」


 信木はゆっくりうなずき、村長を見て話し出した。

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