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84,村が隠したい物

「安藤さんが生きていたんです。広岡さん、……彼が『手のぬくもり会』の男性カウンセラー信木だったんですが、この村に入る前に『ガス穴』に入って倒れている安藤さんを助け出していたんです」

「広岡さんが信木カウンセラー……。ふうん、そうだったの」

「はい。彼はマイナスの霊能力者で、ガス穴にも平気で入れたんだそうです」

「そう。で、彼はわたしにさっさとこの村を去ってほしがっているの?」

「そうです」

「美貴ちゃん、嘘つき」

「…………」

「何か企んでいるんでしょう、信木さん?」

「どうでもいいです。先生がいなくなれば企みも失敗です。平中さんと相原さんはわたしが助け出してきますから、みんなでいっしょに逃げましょう。安藤さんは、名古屋の個人病院だそうですが調べれば見つけられるでしょう。ね? それでいいでしょう? もう、ここを離れましょう?」

「駄目よ。ケイさんを助けなきゃ。……残念だけど、彼らは逃げ切れなかったでしょうね。ケイさんの体はあっちに奪われてしまったでしょう」

 芙蓉はケイとミズキを見捨てたことに後ろめたさを感じた。しかし。

「自業自得でしょう? 彼らはわたしたちの敵で、あっちの仲間ですよ? 話が逆じゃないですか?」

 芙蓉は自分の後ろめたさを誤魔化しているだけだろうかと自問したが、そうではない、先生を守るためだ。芙蓉の心を察して紅倉が言った。

「そうね。美貴ちゃんがあの二人まで引き受けていたら、きっと、美貴ちゃんたちまでやられていたでしょうね」

「そうです」

 と答えて、果たして本当にそうだっただろうか、とまた芙蓉は自問した。いっしょに戦えば、助けてやれたのではないか………

「麻里って子は」

 紅倉のボソッとした言葉に芙蓉はハッと注意を紅倉に戻した。

「ほんとに憎ったらしい悪魔っ子で、ひっどいサディストだったわ。わたしを殺し損ねて物凄く腹を立てているでしょうね」

 ざまあみろというように紅倉は芙蓉に抱かれた背中を揺すって笑った。体が温まって震えは止まっていた。

「でも…………。

 きっとひどく残酷な仕返しを考えているでしょうね。絶対わたしを殺したがっているでしょうから、そのための罠を用意しているはずだわ。

 ケイさんは殺していないわ。体を奪っただけ。わたしの体にケイさんの魂が吸収されているのは知っているから、体を取りに来い、と言う訳ね」

 芙蓉はケイへの敵意を捨てていない。

「ケイさんの魂を外に出して、勝手に体に帰らせるわけにはいかないんですか?」

 うーん……、と紅倉は考えた。

「糊みたいな感じなのね、ケイさんの霊体は。べったりわたしにくっついちゃってて、本人の体に触れないと離れてくれないみたい」

 芙蓉は本当かしら?と怪しんだ。

「もらっちゃったらいいじゃないですか? 先生が支配していて、何も支障ないんでしょ?」

「うん。気持ちいいくらい」

「ああそうですか」

 芙蓉の嫉妬を笑って、紅倉は沈んだ声で言った。

「まだ神のケイさんへの支配は続いているのね。今外へ魂を放ったら、神に食われて、ケイさんはケイさんに戻れなくなるでしょう、あの赤い巫女たちのように」

「ああ……」

 芙蓉も暗い声で相づちを打った。あれは、悲惨だ、と芙蓉も思った。

「ケイさんの魂を一度浄化する必要があるわね、本人に戻してから」

「先生の中で出来ないんですか?」

「出来ないわね、わたしの魂、どろどろに汚れているから」

「まあ。そんなことないでしょ?」

 芙蓉は、大好きですよ、と抱き直してやったが、紅倉はかすかに笑っただけで答えなかった。代わりに思い出したように言った。

「そっか…、安藤さんを連れだしたのは広岡さん……信木カウンセラーだったのか……。わたしはあの麻里だと思ったんだけど、違ったわけね……。ふうん………………」

 何か気になる風な紅倉に

「なんです?」

 と芙蓉は尋ねた。

「うん……」

 紅倉は自分自身まだ考えがはっきりしないようながら話した。

「安藤さんは何故この村から外へ出されなかったのかしら?」

 芙蓉はなんだ今さらと思った。

「それは安藤さんがこの村に来てしまったからでしょう? この村の存在を隠すために外に出すわけにはいかなかった」

「でもこの村、ちゃんと道が通って、外の世界から隔離されているわけじゃないわよ?」

「ああ…、そう…ですねえ……」

 広岡氏は偽のお客だったが、ペンション前の道が外の一良町に通じているのは確かなようで、ここにはちゃんと電気も通り、携帯電話も使える。頼りないが駐在だっている。この村の存在その物は別に隠されているわけではないのだ。紅倉は言う。

「わたしが村長で、どうしても村の存在を秘密にしたいなら、確実に安藤さんを、普通の殺し方をして、ここから離れた全然別の場所で、遺体を発見させるようにするわね。お財布を抜き取って物取り目的の殺人に見せかけて」

「なるほど」

「でもそうしなかった。村に安藤さんをとどめたおかげで、わたしみたいな厄介者が来てしまった」

 では、何故なんだろう?

「わたしね、信木さんが安藤さんを連れだしたっていうのは驚きなのね。あんな所、普通の人が近づけるわけないって高をくくっていたから」

 それは芙蓉も同じだ。

「信木は自分は村でもトップレベルのマイナス方向の霊能力者だって威張ってました」

 紅倉はうなずいて言う。いつもの調子が戻ってきたようで芙蓉はちょっと嬉しい。

「そうなんだ。案内してきてもらったときの木場田さんの様子から見ても他の村人はやっぱりあそこには近づけないようね。それじゃあもしかして、安藤さんは本当に自分からあの穴に入っていって、中毒を起こして、出てこられなくなったのかもしれない」

「それはどうでしょう? 入り口に煙でいぶした跡がありましたよ?」

「それが自分たちが安藤さんをここに追い込んだんだって見せかけるために後で偽装した物なら?」

「わたしは先生を誘い込んで殺すための罠じゃないかって最初から疑ってましたけど?」

「彼らはわたしの霊視能力をずいぶん高く買ってくれていたみたいだから、わたしが近づけば中に安藤さんがいるかどうか見えると考えていたんじゃないかしら? 残念ながらわたしの能力はそこまで高くありませんでしたけど」

 と紅倉は芙蓉の腕の中で肩をすくめ、芙蓉はまたまた本当かしら?と疑った。

「同じ神に通じる穴でもあそこは巫女の毒が強すぎてあちらでも見通せなかったみたいね。彼らはあそこに安藤さんが倒れていると信じて疑ってなかったと思う」

「そうですね」

 芙蓉も信木が何故安藤を救出したことを村長にも話さなかったのか疑問に思った。紅倉の読み通り村長が本当に知らなかったとなれば信木の行動は確実に怪しい。

「信木さんの動機はともかく、村長たちは安藤さんがあの穴に強い興味を持っていたということをわたしたちに知られたくなかったんじゃないかしら?」

「穴の中に、何かありましたか?」

「神を奉った古い社があったけれど、そこはもう何十年も使われていなかったわ」

「じゃあ、何が?」

 芙蓉は紅倉の勘ぐりすぎだと思ったが、紅倉の背中は体温が上がり、興奮状態にあった。

「安藤さんは、神の穴への入り口としてあそこに入り込んだんじゃないかしら? どうしても確認したい物があって、霊感のない者の悲しさで無理に先へ進んで、気づいたときには動けなくなってどうしようもなくなったんでしょうね。

 安藤さんは、何を、そんなに見たかったのかしらね?」

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