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81,外部保安官

「『手のぬくもり会』のカウンセラーが、なんで村でわざわざ偽名なんて使ってるんです?」

 海老原は疑わしそうに訊き、

「まあ、落ち着いて。銃を下ろしたまえ」

 と、信木カウンセラーを名乗る広岡氏は構えたピストルを海老原氏の背中から芙蓉に向けた。

「芙蓉さん。あなたとも改めて話がしたいですな」

 芙蓉は広岡の正体を判断しかねている。信木の名前を知っているからには「手のぬくもり会」に詳しい人間なのだろうが。

 広岡は皆が納得するように話し出した。

「わたしはね、いわば『手のぬくもり会』の保安官も兼ねているのですよ。村で偽名を使うのは今回のような場合のための備えですよ。何かトラブルが持ち込まれたときに自由に動き回って処理できるようにね。そしてわたしは村長に何かあった場合の村長権限の代行者でもある。村長は紅倉さんの入村に関して強い憂慮を持っていた。残念ながらそれは現実になってしまったようだ。今わたしが心配しているのは、現在誰が村のイニシアティブを取っているかということです。今出されている資材調達班の追討命令は、乱暴で、用意周到な村長の出したものとは思えない。青年団長木場田君の独断ではないかな? 神の異変といい、村長の意思が見えないところといい、どうやらわたしの出番のようだ」

 これだけ村の内部事情を詳しく述べられて、海老原は信用してライフル銃を下ろした。広岡氏、いや、信木保安官はうなずき、苦笑した。

「わたしの愛車までパンクさせてくれるとはねえ?」

「すみません」

「いや、いいよ。いきなりズドンと散弾銃を食らわされなかっただけましだ。命令を出した者はどさくさ紛れにわたしも殺されてしまえばいいと思っていたんじゃないかな?」

 信木保安官に尋ねられるように首をかしげられ海老原は、

「紅倉の関係者を決して村から出すな、手段は選ばない、と青年団から連絡されまして……」

 と申し訳なさそうに答えた。信木はふうむと考え、

「木場田青年団長の……クーデターかな?」

 とつぶやいた。穏やかな顔をしながらジロリと、

「ま、動機の見当は付くがね」

 相原先生を見て、相原は自分の恋がこんな恐ろしい事件を引き起こしたのかとまた青ざめた。

「それなら切り札はこちらが握っているということだね。木場田君はまさかあなたが村を逃げ出そうとするとは思っていなかっただろう」

 相原はまたも恋人を裏切ったことを責められ、辛そうに落ち込んだ。

「というわけだ」

 と、今度は芙蓉に。

「それではここペンションもみじを中立地帯として、事態の収拾を図ろうではないですか?」

 芙蓉はピストルを向けられたまま敵意を納めずに言った。

「あなた本当に信木カウンセラー本人? 信木カウンセラーを捕らえて情報を聞きだした公安部員、っていうことはない?」

 海老原はギョッとして信木を見つめ直した。信木はやれやれと油断なく芙蓉に目を向けたまま首を振った。

「疑い深いですねえ。わたしが村人と懇意なのは広場で見たでしょう?」

「前々から村を内偵していたっていう可能性もあるわ。あなた、村の出身なんでしょ? 顔が村の人と違うわ」

 なるほど、と信木はうなずいた。

「ごもっともですね。わたし自身驚いていますよ。だがこれがわたし本来の顔だ。もしわたしが若い頃からずっと村にとどまっていれば、やはり村のみんなと同じような顔つきになっていたでしょうねえ。あなたなら分かるでしょう?それだけこの村の『呪い』の力は強いということです」

「先生やわたしと中立の立場を取りたいのね?」

「その通り。村の秩序の回復がわたしの仕事だ」

 信木は困ったようにため息をつき、言った。

「わたしも村の中に何人かスパイを持っていてね、その情報によると、鬼木のお婆と長女のヨシさんが死んだそうだ」

 表情で確認を求められ、芙蓉は

「そうですってね」

 と黒木からの情報を確認した。信木はまったく困ったことだと頭を振った。

「その点でも村は今非常に危険で不安定な状態だ。メイコ君は無事なようだが、彼女はまだ経験不足で神の制御は難しいだろう。麻里が神の力を思うまま独占したら……、あれは危険な娘だ。ほぼ確実に村の役割から逸脱した行為を、神を使って行うだろう。……芙蓉さん。

 この際です、我々は紅倉美姫さんの力をお借りしたい」

 信木は芙蓉に向けていたピストルを下ろした。

「ずいぶん勝手な言い分ね?」

「それは承知してます。そちらにも良い条件を提示するつもりですよ。

 平中さん」

 視線を向けられ、相原の肩を支えていた平中は敵意のこもった目で見つめ返した。信木は柔らかな表情で受け止め、言った。

「安藤さんをお返ししましょう。今、懇意にしている個人病院に入院しています」

 あっ・・、と平中も芙蓉も目を見開いた。信木は二人の驚きに満足そうに微笑み、言った。

「これも説明しなくてはいけないでしょう。

 村長から紅倉さんが来ると事態を説明され、わたしは村に来る前に密かに『ガス穴』に入り、倒れている安藤さんを見つけ、病院へ運んだ。3日前のことです。10日間も飲まず食わずでしたから衰弱が激しいですが、命は助かりそうです。心苦しいですが、快復までにそうとう時間は要すると思いますが」

「どこの病院です!?」

 平中がいても立ってもいられないように訊き、信木は

「名古屋です。ま、それ以上は今はまだ教えられませんが、大丈夫です、立派な病院ですから、治療は万全をつくしてくれます」

 とすべては明かさず、平中はまだ食い下がりたかったが、先に芙蓉が鋭く訊いた。

「あなた、あの穴に入ったの? 普通の人間があそこに入られるとは思えないけれど?」

「普通の人間なら、ね」

 信木は上からの目線でほくそ笑み、言った。

「わたしはマイナス方向の霊能力者です。村でもトップレベルのね。そのベクトルで言えば、わたしはあなたよりはるかに優れていますよ?」

 穴の中で七転八倒した芙蓉は悔しそうに睨んだ。どうりで霊能者の芙蓉がこれだけ敵意をぶつけているのに平気な顔をしているはずだ。

「それじゃあ、本当に安藤さんは無事なのね?」

「まあ、無事…、とは言い切れない状態ですがね」

 芙蓉はうなずき、一応信木に対する敵意を納めた。

「そっちの条件は分かったわ。じゃあ、わたしが先生を助けに行くのはかまわないわね?」

「どうぞ」

 と信木はピストルを持っていない方の手で斜面の周回道を差した。そちらへ行きかけた芙蓉は、指輪のリンクから紅倉が大量の水に押し流されているのを見て、訊いた。

「ガス穴の奥に地下水の流れがあるわね? 出口はどこ?」

「そこを紅倉さんが?」

 信木は驚いた顔で訊いた。

「そっちの下水道はもう何十年と使っていないはずですが。そうですね…、ガス穴の入り口から更に下って……、道が隠れていて分かりづらいんだが……」

「もうけっこう」

 行けば分かる、と芙蓉は駆けだした。その背中に信木が

「ああ、是非紅倉さんにこちらへの御協力をお願いしますよ?」

 と呼びかけた。芙蓉は駆けながら考えた。

 安藤が既に村からいないのなら何故信木はさっさとそれを教えて先生に出ていってもらおうとしなかったのか? 安藤の容態があまりにひどく、かえって怒りを買うと恐れたのだろうか? だが芙蓉の感触では村長も木場田も安藤が既に穴から連れ出されているとは知らなかったようだ。ダルマ狸の村長の腹は読みきれないが、おそらくは安藤は穴にいると思っていたはずだ。

 信木は、木場田にはともかく、何故村長にも安藤を連れだしたことを教えなかったのだろう?

 信木は木場田の動きを「クーデター」と評したが、案外それを信木も企てていたのではないか?

 これから信木はどう動くのか?

『クーデターを利用したクーデターか……』

 信用するのは危険だなと芙蓉は判断した。

 ジョンがタタッタタッと土を蹴立てて走ってきて芙蓉に並んだ。

「あんたもこっちに来てくれるの? ありがたいわ」

 紅倉の動きが止まっている。位置はだいたい分かるが、あちらからの情報が入ってこないので正確な位置は分からない。犬のジョンが捜してくれればまっすぐ駆けつけることが出来るだろう。

「頼りにするわよ?」

 芙蓉は犬に負けじと全力で駆け、電波山の隣の峠道を目指した。



「頑張ってくださいよ」

 信木は芙蓉とジョンに応援の手を振った。手を下ろすと、人当たりの良さの失せた陰湿な表情で、

「死なれては元も子もないからね」

 とつぶやき、ふむと考えた。

「紅倉が村長、芙蓉が助役…という人事もありなんだがねえ……」

 可笑しそうに笑い、さて、と平中たちを向いた。

「さて」

 平中と相原は身を寄せ合うように固まった。信木は笑顔を作って言った。

「中に入ってお茶でもいただこうじゃありませんか? ここは中立地帯ですから、どうぞリラックスなさってください。ねえ?」

 と顔を向けると、海老原が

「あ、はい。どうぞ」

 と、今さらながら、慌てて猟銃を後ろに隠すようにして玄関へ差し招いた。歩き出した信木に平中が言った。

「安藤の病院を教えてください! もう、わたしたちはいいじゃないですか?」

 相原も連れていく気でかばうようにして言う平中に信木はニッコリ笑顔を向けた。

「駄目ですよ。ここは中立地帯ですが、あなた方はわたしの捕虜です。中立地帯から逃げ出そうとしたら、こいつを使わなくちゃならん」

 と、黒光りするピストルを見せつけた。

「戦争をしている敵同士にも友情が芽生えることもある。我々は、出来るだけ友好的に行こうじゃありませんか?」

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