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75,芙蓉の脱出行

 成美は怖い目を平中に向けると、

「あなたも、逃がさない」

 と、半纏の袖の中に隠し持っていたスタンガンを取り出し、バチッバチッと青い火花を散らさせながら突っ込んできた。

「危ない!」

 相原先生が横から成美の腕を突き飛ばし、平中は危うく電気ショックを逃れた。机の上を滑ったスタンガンが「バチチチッ」と衝撃を放った。

「先生えー……」

 成美は怖い顔で相原先生を睨んだ。相原先生はスタンガンを恐ろしそうな目で見ながら、平中との間に入って教え子の説得を試みた。

「成美ちゃん? ね、そんな危ない物使うのは止して? 人を傷つけるのはいけないことよ? もう5年生なんだから、分かるわよね?」

 成美は先生の背後にかばわれる平中を敵意のこもった目で睨みながら、スタンガンを机の上に置いた。相原先生はほっとしたが、成美はジロリと先生を睨んで言った。

「どうして村を出ていくのよ?」

「それは……」

 傷ついた心で非難の視線を突き刺してくる生徒に相原はたじろいだ。教育者としてそれではいけない、この子をこの村の異常な思想から解放してあげなければならない、と相原は一歩成美に近づいた。が。

「先生は村を裏切って、木場田さんも裏切るんだ?」

 と言われてハッとした。成美は女の子の鋭さで指摘した。

「先生、青年団の木場田さんとおつき合いしているんでしょう? 知ってるんだから。校舎の裏でこっそりキスしてたよね? ひどいわね、先生、恋人を裏切って村を出て行くんだ? 最低ね?」

「それは………」

 相原は明らかに動揺し、「青年団の木場田」の名前に平中はピーンと来た。木場田が相原先生と恋人なら、ペンションで紅倉が言っていた紅倉をこの村に呼び寄せた相手とは、彼ではないか? 今度は平中が相原先生をどかせて成美に向かい合った。

「違うわ。先生は木場田さんを裏切るんじゃない、木場田さんは先生のためにこの村の異常さを正そうとしているのよ。人を愛するようになれば、どんな相手だって人を傷つけるようなことをしたくなくなるわ。あなただって、大人になって本気の恋をすれば、きっと分かるわ」

 平中は成美が「恋」を禁じられた神の巫女であることを知らない。

 成美の顔がカアッと怒りを露わにした。

「うるさあいっ!!」

 甲高く叫ぶと、平中はびっくりした顔をして吹っ飛び、3メートル後ろの壁に背中を打ち付け、跳ね返されて床に倒れ込んだ。肺を思い切り圧迫されて、「ゲホッ、ゲホッ、」と苦しそうに咳をした。後頭部も強打し、鼻血が出ていた。鼻の奥がツーンときな臭く痛む。平中は顔をしかめながら信じられないように成美を見た。超能力だ。怒りの念力で平中を突き飛ばしたのだ。

「よそ者は黙ってて」

 ギロリと、相原を睨んだ。相原は目を丸く見開いて、半開きの口をあわあわと震わせている。

「……や……、やめて……、成美ちゃん……、怖いことしないで…………」

 相原は震えながら哀願し、怖い顔を向けた成美は、

「先生は村から出ちゃ駄目」

 手を伸ばした。

「や、やめて……、嫌……、怖いの………」

 相原の中に学級崩壊を起こし自分の言うことを聞かずにわーわーぎゃーぎゃーと騒ぎ回る子どもたちの声が反響し、子どもへの恐怖がまざまざと甦ってきた。成美は先生の手を握ろうとしたのだ。恐怖に怯えきった目を向けられ、嫌、嫌、と手を拒否されて、成美は暗い怒りに燃えた。

「あんたなんかもう先生じゃない!」

 ぐわっと膨れ上がる強い力が相原の顔面を捉え、歪めた。

 ガラッと玄関の戸が開けられる音がして、廊下を芙蓉が走ってきた。

 戸口に現れた芙蓉に、成美は相原に向けていた力を芙蓉に向けて一気に放った。

「ハッ」

 芙蓉はとっさに成美の力を自分のオーラで絡めて得意な合気道の要領で円を描いて放り上げた。すると

「あっ!」

 自分の力に引きずられて成美が上に飛ばされ、天井に背中を打って、床に落下した。

「ぐうっ・・」

 成美は潰されるうめき声を上げて、ぱったり、意識を失った。

 芙蓉は自分のしたことに驚きつつ駆け寄り、成美の様子を探った。

「ああ良かった、息はしているわね」

 と、能力者である成美のことは切り捨て、

「平中さん!」

 胸を押さえて苦しそうにしゃがみ込んでいる平中に駆け寄った。胸と背中に手を当て、平中のバイオリズムを自分のオーラに同調させると、平中の呼吸が落ち着き、痛みが引いたようだ。

「ああ、芙蓉さん。あの子も呪いの力を…」

「そうみたいね」

 芙蓉の視線に倒れている成美を見て驚いた。芙蓉は「さ、」と平中を立たせた。

「村を脱出するわよ。ペンションの駐車場に急ぐわよ」

 あ…、とすがるような視線を向けられ、

「来るの? 急いで」

 相原も意を決して駆け出した。床に倒れる成美を振りきって。

 芙蓉たちが外へ出ると、ジョンがう〜〜〜と怖い唸り声を上げ、手に手にクワやスキや鎌を持った年輩の男たちが待ちかまえていた。皆恐ろしく殺気立った顔で睨んでいる。

「急いでるのよ。心臓発作でぽっくり逝っても恨まないでね」

 芙蓉はさっき成美を投げ飛ばした呼吸を思い出し、男たちの怒りのオーラを捉えると、

「ハアッ」

 と右手を突きだし、一気に向こうへ突き飛ばした。

 男たちは一瞬で白目を剥き、ばたばたと倒れた。

 平中は驚き、相原は成美と同じ力に恐怖の表情を浮かべたが、芙蓉は

「わたしは正義の味方。行くわよ!」

 二人に考える間を与えず駆け出した。道に凶器を持った村人が現れると、

「行け!」

 ジョンに命じ、猛然と規格外の巨体を躍動させて飛びかかったジョンは一撃で老人を突き倒した。

「どけえいっ!」

 凶器を振りかざして襲ってくる村人に芙蓉が怒りを込めて手を振ると、横様に面白いように吹っ飛び、畑に転がった。幸い成美のような能力者はこちらには振り分けられていないようだ。

「走って! 走って!」

 自分よりはるかに運動能力の劣る二人を容赦なくせき立て、やがて、ペンションに上る坂道にたどり着いた。

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