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69,暴君

 お婆は宙に浮かびうひゃうひゃ笑っている不良青年の幽霊を睨んで激しい怒りを燃やしながらつぶやいた。

「これも紅倉の仕掛けかえ……。おのれどこまで疫病神な女じゃ……………」

 うひゃうひゃ腹を抱えていた幽鬼は、血を被ってヒイヒイ悲鳴を上げているメイコを愉快そうに眺め、木場田と、黒木を眺め、うん?と気づいた。

「おうおうおう、てめえはあ、忘れもしないぜそのクソ面はよお。よくも俺様をぶっ殺すような目に遭わせてくれやがったよなあ?」

 歯茎を剥き出して睨み、パッと、

「ギャハハハハハ」

 と大笑いし、

「死ねえっ!!」

 顔を突きだして叫ぶと、

「うおっ」

 黒木の体が強い力に掴まり、吹っ飛ばされて壁に激突し、

「うるあああっ」

 幽鬼が腕を振ると黒木は天井に投げ飛ばされ、頭を強打して危うく首が折れかかり、

「てええいやっ」

 腕を振り下ろすと顔面から落下し、鈍い激突音をさせた。弾むようにばったり倒れ、

「うう…………」

 仰向けに転がると、鼻が潰れて顔面血だらけだった。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 幽鬼は大笑いした。

「いい面だぜえ。てめえ、楽には死なせねえぞ? あのババアみてえに顔面オロシにして、虫みてえに手足をぶっちぎって殺してやるから最後まで死ぬんじゃねえぞおっ!?」

 思念の力で黒木の足を高く持ち上げると顔面を床に着けさせ、

「お習字の時間だぜえいっ」

 思念で足を引っ張って黒木の顔面を床に引き回した。木場田とお婆は思わず避け、メイコは悲鳴を上げて隅に逃げて縮まった。黒木は右に左に首を振り、手で床から持ち上げようとしたが、

「おらおらおらあっ、書はアートだぜいっ!!」

 幽鬼の思念にぐるぐる引き回され、転がるヨシの血だまりで朱の顔料を補充し、板の間を赤い曲線で二重三重四重に染めていった。突っ張ろうと頑張っていた黒木の腕がだらんとなり、幽鬼はようやく引き回すのをやめた。

「見せてみろや?」

 手を上げて黒木を立ち上がらせ、残酷な笑いを浮かべた。黒木の顔面は皮も肉も破れ、ぼたぼたと大量の血をしたたらせた。

「ギャハハハハ。おお〜〜い、生きてるかあ〜〜?」

 ヒクリと黒木の腕が痙攣し、真っ赤に濡れた中で目玉が力無く幽鬼を見た。幽鬼はニンマリ笑った。

「けっこう、けっこう。じゃあまず左腕から引っこ抜いてやるかな?」

 黒木の左手がピイーンと横に伸び、うんと伸び、ミシミシ、ブチブチ…、と、筋肉の繊維が引きちぎれていく密な音がした。

「ぐぐぐ…うわあああ………」

 黒木は堪らずうめき声を上げ、逃れるように首を振り、溢れる血を飛ばした。

 ブチッ、と大きな音が響き、

「うおわああっ・・・・・」

 黒木は悲鳴を上げ、がっくり首を垂れ、気絶した。

「チッ、なんだつまらん。まあ、寝てろや」

 幽鬼が興味を失うと、黒木はガタンと音を立てて落下したが、意識を失ったまま反応しなかった。

「おいおい、なんだよおめえら?」

 幽鬼は部屋を見渡し言った。

「お友だちがイジメにあってんのに見て見ぬふりかあ? 先生情けないぞお〜〜?」

 幽鬼に視線を向けられ、木場田は霊力のパワーの差に為すすべなく端に寄って突っ立っていたが、思わず、

「お、俺は何もしていない!……」

 と口走り、我ながら男らしくない言い訳に屈辱を感じ、幽鬼はニヤニヤした。

 幽鬼は他の生徒を見て、うん?と眉をひそめた。

「ババアがいたはずだが。いつの間に逃げやがった?」

 隅にメイコが半狂乱になって震え、ヨシの死体が血溜まりに転がっているが、やはりお婆の姿は部屋にない。

「…………いや?」

 幽鬼は首をひねり、

「ババア、出てこいやあっ!!!」

 激しく怒りの気を爆発させると、

「うぎゃっ」

 悲鳴を上げて、お婆が突然部屋の隅に姿を現しひっくり返った。

「いたな? てめえは妖怪だろう? 忍法隠れ身の術ってかあ?」

 ひっくり返ったお婆は両手の平がめくり上がり血を流していた。手印を結び幽鬼から身を隠す呪術を行っていたが、それを破られたらしい。

 幽鬼は残酷に笑いながらぬうとお婆に近づいてきた。お婆の額からだらだら脂汗が流れる。

「てめえも思い出したぞお?」

 幽鬼の顔から笑いが消え、ひたすら残虐な憎悪が剥き出しになった。

「俺の体に何してくれやがった? 百万年もひでえ悪夢を見させられた気分だぜえ。すっかり頭がドラッグ漬けのパンクロッカでぶっとんじまってるがよお、脳天ぶっ壊されてなきゃあ幽霊の俺様もちりぢりになっちまってたところだ、今は、感謝するぜ」

 殺すことを決めていて残虐に笑った。

「俺を『神様』として使ってくれてたみてえだな? へへへへ、なんなら協力してやってもよかったのによお? ・・・・いいー気持ちだぜえーー? すんげえ力が流れ込んで、ちびりそうにブルブルエクスタシーを感じちまった。死んで初めて生きてる気がするぜえ。神様になるってのは、すっげえグレートエクスペリエンスじゃねえか?」

 お婆も死を覚悟して言った。

「しれ者め。貴様のような下衆が神になんかなれようか。貴様なんぞ、わら人形のわらに過ぎんわ」

「じゃあてめえもわらくずにしてやるよ」

 幽鬼の目がギラリと悪魔の目となり、お婆は、

「ぐぎゃああああああああああああああっ」

 凄まじい悲鳴を上げると、細いしわだらけの体の中で、筋肉がバラバラにほどけ、皮膚が突っ張り、人の形を無くして、爆発して部屋中に血をまき散らした。

「ババアでもけっこう詰まってるもんだな」

 お婆への興味を無くし、

「さて、」

 メイコが目を三角にしてヒイーーーッと引きつり、木場田は震える体を必死に足を踏ん張って抑えていた。

「てめえも仲間か?」

 入り口で黒木を助ける隙を窺っていた末木がギョッと立ち尽くした。幽鬼がニタアッと笑った。

「てめえはゆっくり解剖してやる」

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