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06,応報

「佐藤は乗っていたタクシーが赤信号で停止したところ、後ろから追突され、首を鞭打ち。

 その治療で通っていた病院の駐車場で、バックしてきた車にひかれ、足を踏みつけられて複雑骨折。

 その後も住宅地の交差点で左折するワンボックスカーと塀に挟まれて危うく圧死しかける。

 次に恋人の車に乗っていて、エンジントラブルで出火、慌てて逃げ出したところをまたも走ってきた車に接触、全身殴打。これは見た目ほど深刻な怪我にはならなかったようですが、さすがにこれは事故の祟りだと恐れ、佐藤は両親の家に帰り、一家揃って地元の神社でお祓いを受け、被害家族のお墓にお参りし、被害家族の母方の実家に位牌への焼香を申し出たが断られています。その帰り道さっそく追突事故に遭って一家揃って鞭打ちになっています。

 更にその後も車がらみの事故に遭い続け、佐藤は外出する必要がある度戦々恐々としていたようです。

 そして11番目の事故は父親の運転する車に乗っていて、前を走る大型トラックの荷台から崩れた鉄骨が落下、フロントガラスを突き破って運転席に突っ込み、後続車に激突され車は大破。父親が死亡。佐藤も大けがを負って3ヶ月入院しました。

 12番目の事故は退院して家に帰るため母親とタクシーに乗っていて、突然フロントガラスが木っ端みじんに砕け散り、運転手はハンドル操作を誤り対向車線にはみ出し、対向車に接触、転倒し、佐藤は首の骨を折り、一命は取り留めましたが神経を痛め全身麻痺になりました。母親も顔面を損傷、片目を失明しました。運転手は奇跡的に軽傷。フロントガラスの割れた原因は不明です。

 そして最後13番目、佐藤は入院した病院から散歩に出て、車椅子で坂道を転げ落ち、先の道路で車に跳ね飛ばされ、トラックに撥ねられて、全身の骨が砕けて内臓破裂、死亡しました」

 聞いていた芙蓉は青ざめて、

「それはまたなんとも……」

 と感想を漏らした。紅倉も紅茶を飲み終わっている。

「最後の事件で車椅子を押して散歩をさせていた看護士が保護責任を問われ、刑事罰も視野に入れた取り調べを受けました。彼女は院内で同僚からも患者からも評判のいい人で、そのときも坂道で転倒した老婆を助けて家に運んで看護していたそうです。佐藤の乗った車椅子は道一本挟んだ安全な奥にブレーキをロックして止めていたそうで、そのまま自然に後ろの坂道に転げ落ちるのは考えられない状況でした。何者かが佐藤の車椅子を坂道まで押していき、突き落としたと考えられますが、目撃者はおらず、ブレーキロックは乗っている者が手を伸ばして解除できる物で、佐藤は全身麻痺で手は動かせなかったわけですが、奇跡的な回復があり、佐藤が自分でブレーキを解除して自分で坂道へバックし、自分で坂道を転げ落ちた、将来を悲観した自殺の可能性も絶対になくはないと、ま、誰も信じちゃいないでしょうけれど、そういう見方もあり、遺族である母親が刑事告訴を望まず、看護士は起訴されませんでした。

 看護士は不起訴が確定し、申し訳なさと感謝から佐藤の実家にご焼香にうかがいましたが、佐藤の母親は、すっかり鬱状態で反応が鈍く、まるで幽霊のようだったそうです」

 芙蓉はうーーん……とうなり、

「それはまた、自業自得の本人はともかく、怨霊の仕業ならすさまじい復讐劇ですねえ?」

 先生の顔を見て意見を求めた。

「かわいそうにも思うけど、自業自得でしょうね」

 紅倉はツンと冷たい顔で言った。

「親としては息子の殺人犯としての無実は信じたかったところでしょうが、本心では息子の有罪を知っていたんでしょうね」

 平中がうなずいて言った。

「佐藤の弁護には相当高いギャラを払ってこの手の事故が得意の有名弁護士を雇っています。裁判では検察は相当やりこめられてカッカしてました」

 紅倉は手を開いて言った。

「ぎるてぃー」

 平中は紅倉のおふざけに冷たい薄笑いを浮かべて言った。

「これが怨霊の仕業なら……祟りはまだ続きます。

 佐藤が飲酒していなかったと証言した三人ですが、佐藤の死後、まず一人、高架橋の上から道路に飛び降りて、トラックに撥ねられて死にました。

 二人目、夜の街で酩酊状態の所をお巡りさんに保護されましたが、ひどい腹痛を訴え、それが尋常の苦しみ方でなく、急遽病院に搬送されましたが、悲鳴を上げて悶絶した末に死亡。原因を調べるため腹を裂いたところ、腸から長い蛇の死骸が出てきました。

 三人目、一人残った男は、警察に駆け込み、実は自分たち三人は事故を起こした佐藤から電話を受け、アルコールを抜くのを手伝ったと白状した。やはり佐藤は相当飲んでおり、足元もおぼつかない状態だったそうです。しかし自分の携帯で電話したのでは記録が残って拙いだろうとわざわざ公衆電話からかけるというあくどい頭は働いていたんですね。友人たちは佐藤に下剤を飲ませて浣腸までして腹の中を空っぽにし、吐くまで大量に水を飲ませてアルコールを薄めさせたそうです。しかし、警察としても今更そんなこと言われてもねえ、みんな死んじゃっているわけですし、もうなんの証拠も残っていません。ま、一応供述を取って、逮捕してくれと泣き喚く男を突っ返したそうです。帰宅した男は、その夜自室で首を吊って死にました。

 ねえ紅倉先生」

 平中はじっと紅倉のブドウの実の色の目を見つめて尋ねた。

「呪いという物は、この世に存在するんでしょうか?」

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