表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/126

68,爆裂する復讐神

 黒木と木場田は神のコントロールルームである「室」に入った。

 女たちは暴力的な侵入者を怯えて引きつった顔で迎えた。

 お婆はつるはしを握って肩でハアハア荒い息をする黒木を見、木場田をジロリと睨んで言った。

「青年団長。これはいったいどういう所存じゃあ!?」

 黒木が前に出て言った。

「さっきの地震はなんだ? ケイは無事か!?」

 お婆はジロリと黒木を睨み、ぶ然と

「やられたわ、紅倉にな。あの馬鹿めが、紅倉もろとも自爆するつもりが、それもかなわんと取り込まれおったわ」

 言い、思い切り不機嫌に笑った。

「その紅倉も虫の息だで、じきに麻里に始末されるわ」

 黒木は殺気立った。

「やめさせろ! ……せめてケイの魂を取り戻すまでは……」

 お婆は妖怪みたいにカラカラ笑った。

「もうええわい! ケイの心根はよう分かった。あの女、もう村にはいらんわい!」

「きさまあ!」

 黒木はいきり立ち、小さなお婆の襟元を掴んで軽く持ち上げた。お婆は苦しそうにじたばたしてわめいた。

「ええい放せ! ええんじゃ!ケイはもう戦えん!紅倉に遭うて心が折れよった!このまま安らかになるんがあいつの望みじゃ!それが、分からんかあっ!!」

「・・・・・」

 黒木は怖い顔でお婆を睨み付けながら、襟を絞める手から力が抜けた。

「やめろ」

 木場田が黒木の腕を掴んで睨み、黒木はお婆を放した。

「けっ、くそたれの悪ガキが、年寄りになんちゅう狼藉しよる」

 お婆は床に尻を着いて喉をさすり黒木をなじった。黒木は心が弱くなるのを自分で叱りつけるようにお婆を睨み下ろした。

「ケイは仲間だ。見殺しにはせん」

 不敵に笑うお婆に、木場田が言った。

「麻里を止めてください」

 お婆は意地悪に笑った。

「嫌じゃ」

「今後村の運営は我々青年団が行う。村長、及び村長派の年寄りたちには、隠居してもらう。鬼木の婆さま、あなたにもだ」

「よう思い切りよったのお、小僧っこが。いっぱしにクーデターかい? わしなしで、神がよう扱えるんかえのお?」

「そうだな」

 木場田は暗い目でじっとお婆を見つめ、その視線を、次女のメイコに移した。メイコはひいっと震え上がった。

「あなたは、


  『へその緒』


 の保管場所を知っているか?」

 お婆がムンと目を剥き、黒木がギョッと木場田を見た。木場田は、

「どうだ?」

 とメイコに返答を強く迫った。メイコはブルブル首を振り、

「わたしは知らん。教えられとらん……」

 と、つい、すがるような視線を長女のヨシに向けた。視線を追って木場田もヨシを見た。

「あなたは教えられているようだな?」

 養女のヨシはお婆が太ったような大柄な女で、実の娘のようによく似ていた。娘とはいえもう六十をだいぶ越えている。ヨシは、

「うぬら村の反逆者に、教えると思うてか」

 と、頑固な面構えで言った。そのあからさまに反抗的な態度に木場田はどうするかしばし迷った。黒木が木場田に訊いた。

「おい。ここに来たのはそれが目的か?」

 多少非難を含んだ黒木の問いに木場田はまるで悪びれず答えた。

「そうだ。あれを握られていては身動きできん。おまえらこそ、そんなことも考えないで行動してたのか?」

 逆に呆れた非難の目で見て、ああそうか、と険しさをゆるめた。

「仲間第一か。それがおまえさんらの目的だったな」

 再びヨシを向き、説得を試みた。

「俺たちは村の反逆者じゃない。村のみんなの幸せを考えているんだ。自分の幸せを犠牲にして村に奉仕する今のやり方を変えたいだけだ。頼む、俺たち若者に未来をくれ!」

「黙れえいっ!!」

 お婆が泡を飛ばしてわめいた。

「わしらは村と同体じゃあ! 村を生かさんで、人は生きられんわっ!!」

 木場田も長年の鬱屈を込めてカアッと怒りの声をぶつけた。

「俺はっ、そんな人生がもう嫌なんだっ!! 村の運命に支配されるのは、もう、真っ平なんだよおっ!!」

 木場田とお婆は互いの主張を譲らず、ぎりぎりと視線を闘わせた。

 二人の緊張を固唾をのんで見守っていたヨシは、ふと、気配に、

 水晶玉を見た。



 不良青年の凄まじい凶悪な顔がわあっと丸く広がった。



 ヨシは思わず片膝立って、

「婆さま!、」

 と殺気立った声を上げ、お婆もハッと振り返ると、


 凶相が悪魔じみて広がった水晶玉にビシッと割れが走り、

 ヒッと息をのむヨシと視線を合わせ、

 バアンッ!、と激しく爆発した。

 水晶の破片は大砲のようにヨシの顔面を襲い、肉をえぐって頭を吹き飛ばし、ヨシの体はびっくりしたように両手を漂わせ、一瞬の間の後、ドオッとひっくり返った。




「うぎゃあああああああああああっっっ」


 ヨシの血を顔面にかぶったメイコが凄まじい悲鳴を上げた。

「お、おのれ・・」

 お婆がパンッと合掌して身構え、

 水晶が吹っ飛んだ台の筒から白い煙が吹き上がり、宙に悪鬼と化した不良青年の幽霊が現れた。


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。愉快痛快、恐悦至極たあこのこったぜえい。

 うひゃひゃひゃ、吹っ飛ばしてやったぜ、うひゃひゃひゃひゃ、くう〜〜〜、気っ持ちいいい〜〜〜〜!

 うひゃひゃひゃひゃひゃ……………

 まるで……」


 ギョロリと狂った顔に目玉を剥いて、言った。


「神様になったみてえに、いい気持ちだぜ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ