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66,激情の吐露

 また時間をさかのぼる。

 黒木がドアの破壊を試みている最中に大きな地震が起こった。

 震動は震源地から先へ広がるごと大きくなり、黒木はつるはしを振り上げたところで突き上げられ、横に揺れ、振り回された。つるはしで自分を傷つけないよう慌てて壁に押し付け、揺れに耐えた。ところが、ミシッとその壁が割れ、たわみ、柱がバリバリッと縦に裂け、パンッと音を破裂させて砕けた。

 結界の張られた扉が「バンッ」とこちらに押し出されるようにして、「バキンッ」と金属の音をさせてちょうつがいが吹っ飛び、こちらに「バターン」と倒れてきた。



「キィヤアアアアアアアーーーーーー・・・・・・」



 囂々という風が吹き出し、その中に獣の叫びのような風と風とがきしむ音が恐ろしく聞こえた。

 バリバリバリッと家全体が破壊される恐ろしい音が鳴り響いた。

 突如、風が止み、一瞬の静けさの後、ズズズズズズズ…と重い地鳴りが足下を震わせ、家全体を震わせ、バリンガシャンと物の破壊される音がわっと上がった。破壊の音は外から内へ迫ってきてグワングワンと耳を圧した。再び風が、扉が倒れて開いた黒い穴へ向かって吹きだした。体が引っ張られ、フウッと足が浮いた。

 木場田が黒木の肩を乱暴に掴んで穴へ飛び込め!とわめいた。グワングワンと周りの音が物凄く声は聞こえない。

 二人が穴に飛び込むと、ゴオッと吹き込んできた突風に体を転がされ、すぐ後から「グシャグシャグシャン!」と凄まじく物がぶつかってくる音が重なった。黒木は思わず「わあっ」と大声を上げ、あっと思うと足場がなくなり、ゴロゴロと階段を転げ落ちた。


「おい、おい!、大丈夫か?」

 木場田に懐中電灯で照らされ、黒木は目を瞬かせながらブルッと首を振った。

「お、おう、大丈夫だ」

 黒木は自分で確かめるように壁に手をついて立ち上がった。肩やももが痛むが、しっかりつるはしも握って、平気だ。

「危ないところだったみたいだな。なんだったんだあれは?」

「うん……」

 木場田が深刻そうにうめいた。

「神の気が弱まっている。ひどく刺々しいのに、力そのものはずいぶん弱い」

「まさか、神が紅倉に殺されたなんてことはないだろうな?」

「いや、それはない。神が死んだら、もっとはっきり分かるはずだ。しかしただ事ではないな。とんでもないことが起こったものだ」

「チャンスじゃないのか?」

「そうだな。行こう」

 二人は階段を転げ落ち踊り場にいたが、階段は向きを変え、更に下っている。ここの壁は木の柱と梁に木の板が張られ、建物の中という感じで、土の中を掘って作った穴というのは中からは感じられない。

「神の気が落ちてもあんたらの神力は使えるのか?」

「使えるが……、だいぶ弱まった気がする。まだ肉は腹の中にあってまだ十分エネルギーはあるはずなんだが」

「麻里はどうかな?」

「麻里か……。あいつは自分自身が化け物だからあまり関係ないんじゃないかな?」

「お婆に話を付ける前に麻里が出てきたら、やっかいだな」

「そうだな。話を聞く奴じゃない。問答無用で、俺たちをなぶり殺しにするだろう」

「末木、斎木が上手くケイにたどり着けるといいんだがな」

 通路のある階に下りた。階段はまだ続いているが。

 立ち止まり気を探った木場田は

「お婆たちはこの階だ。麻里はいないらしいぞ?」

 とほっとしたように言った。

「ケイもいるか?」

「………分からん。おそらく霊体が離れているんだろう。気はつかまらん。とにかくお婆に話を付けなければ」

 通路を進もうとすると先でガラガラと音を立てて天井から重い戸が下りてきた。

「急げ!」

 二人は走ったが残念ながら間に合わず、ドーンという音の後にべたっと張り付いた。

「くそっ、頑丈そうだな」

 高級なテーブルに使うような厚い樫の一枚板のようだ。

「なんとかならんか?」

「待て」

 木場田は懐中電灯を床に置き、突きだした右手を開き、左手で手首を押さえ、

「むん!・・・」

 と力を込めたが、ぎりぎり奥歯を噛み締め、脂汗を流し、はあっ……、と力が抜けた。

「駄目だ、壁の中で鋼のアンカーがロックしている。俺程度の力では歯が立たん」

「ならこいつだ」

 黒木は木場田を下がらせ、再びつるはしを振るって板の中央に力任せに打ち込んだ。固く分厚い板に、先は食い込むが全体はどっしりしてびくともしない。

「どれだけ厚さがあるのやら、っと!」

 黒木は両肩の筋肉を怒らせて思い切りつるはしを打ち込み続けた。木片が飛び散り顔に当たるが、向こうへ突き抜ける手応えはない。

 木場田が気を発するポーズを取った。

「そのまま続けろ。アシストする」

 黒木が打ち込むとさっきより深く食い込んだ気がする。気合いを込めながら木場田が気力を保つために話しかけてきた。

「俺にとっては長年の野望を実現するチャンスだが、君らは、ケイのために命を懸けるか?」

 黒木もふうふう熱い息をつきながら振り上げる調子に合わせて答えた。

「ああ。俺たちチームは恋愛は、御法度なんで、なっ。……ケイは俺たち野郎どものアイドルなの・・さっ」

 木場田は力をキープしながら呆れたように笑った。

「ずいぶん愛想のないおっかないアイドルだがな? 今外じゃああいうのが流行ってんのかい?」

「今回の一件は、常に恐れていることではあった。俺たちは証拠の残る、明らかな犯罪者だ。悪人とはいえ、この手で直接何人も殺してきている。子供を作って家庭を持つわけには、いかん、さっ!」

「死者への贖罪か?」

「殺したクズどもにはなんの罪の意識もない。俺は…………

 無精子症だ。

 末木もそうだ。斎木は玉がない。あいつ、あんな面して子どもの頃は女の子のかっこうしていただろう?」

「そう……だったな。……そういうことだったのか。知らなかった。ひょっとして、君らがこの仕事に選ばれたのは、そのせいか?」

「俺たちが特別武術に優れていて選抜されたとでも思っていたか? そうだ、俺たちが外に出る危険な仕事に選ばれたのは、捨てゴマとしてだ、子供の作れない俺たちは、村の将来には必要ない人間なん、だっ!」

「知らなかったよ」

「自慢して吹聴することじゃないからな。狭い村で世代を重ねた哀れな出来損ないの犠牲者が、俺たちだっ!!」

 バキイッ!、と尖端がようやく向こうへ突き抜けた。黒木は湯気を噴きながらハアハアと肩で息をし、つるはしを引き抜くと、仕上げだとばかり思い切り振り下ろした。

「本当は神の依り代なんて誰だっていいんだ。浮浪者でも何でも、もっと安全に足がつかないようにスカウトする方法なんていくらでもあるんだ。俺たちに悪人狩りをさせているのは、役立たずのカスの俺たちへのお情けさ。おまえたちもちゃんと世間様のお役に立っているんだぞ、誇りを持て、と、弱者救済の福祉事業さ。俺たちは、やっかいな、お荷物なんだよっ!!!!」

 バキッ、バキッ、ミシッ、バキッ、と縦の穴は広がっていき、

「ちっくしょおめえっ!!!!」

 渾身の一撃で分厚い板はビシイッ!と上下を結んで亀裂が走り、ガタンッ、と左右がずれた。ガンッ、ガンッ、と蹴りを入れると横に裂け目がミシミシ広がり、なんとか通り抜けられる隙間が出来た。

 ハアハアと息をつきながら黒木は振り返った。

「あんたは村の若者のために未来を作ってやればいいさ。俺たちは仲間……ケイを、救い出す」

 木場田は重くうなずき、

「行こう」

 と促した。

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