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63,典型的パターン

「やっぱりケイお姉さまは勝てませんでしたわね。せっかく神の力を授かりながら、いくらでもとどめを刺すチャンスはありましたのに」

 麻里は冷たく吐き捨てるように言い、水路をパシャパシャ歩いてくると、ランタン型ライトを地面に置き、よいしょと1メートルの高さをよじ登り、紅倉の前に立った。

「ああ嫌だわ。あなたが水路を辿って来てくださればよかったのに。足に臭いが染みついてしまうじゃありませんの」

 麻里は足袋に草履を引っかけていて、ぐっしょり濡れていた。嫌だわと気持ち悪そうに濡れた足を動かし、ピッと振って紅倉に水を飛ばした。

「あらごめんあそばせ」

 とわざとやったくせに白々しく謝って笑った。

「さてあなたをどうしましょうか?」

 腕を組んで考える。

「わたくしあなたを殺さなくてはなりませんの。かわいいわたくしの手でも今なら簡単にその首を絞め殺せそうですわね?」

 と、うっとり楽しそうに言った。

「あのー?」

 と紅倉は首をかしげた。

「ああ。わたくし、木俣麻里と申しますの。鬼木巫女衆の助っ人を頼まれておりますの。よろしく。

 ねえ紅倉お姉さま」

 麻里はきれいに歯を見せて笑った。

「殺してよろしいですわね?」

 手を伸ばし、紅倉の首を掴むとぐうっと締め付けた。紅倉は苦しさに口を開け、舌を覗かせ、非力に麻里の腕を掴んだ。麻里は笑って、手をゆるめた。

「うえっ、げほっ、げほんっ」

 紅倉が涙を流して咳き込むと、またぎゅうっと締め付けた。紅倉の体がじたばた暴れた。

「ああいい感じ。温かいですわ。わたくしも生身の体を手に掛けるのは初めてですわ。とても心地よいものですね? とくに紅倉お姉さまのようなお綺麗な方を絞めるのは、なんとも楽しい」

 紅倉は足をじたばたし、締め付けから逃れようと体を伸び上がらせようとした。その足から力が抜け、じわりと下半身に生暖かい物が広がった。

「あらばっちい。お漏らししましたわね?」

 麻里は手を放すと、咳き込む紅倉の胸を蹴り上げた。

「ゲホッゲホッ、ゲホッ、………ゲホッ、…………………」

 紅倉は腹を抱えて丸まった。麻里は残忍な笑いを浮かべて見下ろしている。

「よろしいですわ。あなたが今完全に無力で簡単に殺せるというのは分かりました。このまま殺しても良いのですが、つまらないですわね。全然わたくしの力ではございませんものね?」

 紅倉は咳き込み続け、咳をする体力も失せて、ゼエゼエ息をつき、堪えられないように咳をして、血の混じった涎を吐き出した。ゼエゼエと喉を鳴らして息をつき、さすがに恨めしそうに麻里を見て言った。

「そう……やって……、主人公を…見逃して…………、ハアッ、ハアッ、ゲホッゲホッ、ゼーーゼーー、あ、後で……、やっつけられるときに……、あの時殺しておけ……ば……って、ゼエゼエ、典型的なパターンじゃない…………」

 やっと言い切るとゼエエゼエエと胸で嫌な音を立てて呼吸し、まぶたを痙攣させて閉じようとした。

「あら、もうちょっと楽しくお話ししましょうよ?」

 麻里は屈むと指で紅倉のまぶたを剥き、顔を寄せると舌を伸ばして「グリッ」と紅倉の目玉を舐め回した。麻里は起き上がると

「ニンニクでもかじってくればよかったですわ」

 と意地悪に言った。高校生の少女にいいように遊ばれて、紅倉はもはや人形のように為すがままだった。

「あなたのせいでお父さま、すっかり苦しまれて、わたくしと巫女衆でなんとかお鎮めいたしましたが、緊急措置で少々強いお薬を差し上げてしまいましたの。外の方にはないしょですが今村の防衛力は半分以下に落ちてしまっていますの。さあて、このおいたの罰を与えなくてはなりませんわね?」

 うふふふふふふ、と最高に残忍に笑った。

「わたくしが後で殺しておけばと後悔するとおっしゃいました? おほほほほほほ。あいにくそれはございませんわね。わたくし、別に自分の力自慢をするつもりはございませんの。あなたを自由にしてさしあげるつもりもございません。ただ……」

 麻里はニンマリ笑った。

「楽に死なせてあげるのはつまらないですから、あなたには是非泣き叫びながら死んで行っていただきたいの」

 ライトを手に取り辺りを照らし、フウーン……、と考えた。

「やっぱり何もありませんわね。わたくしも気を利かせてロープでも持って来るんでしたわ。仕方ありません、戻って下女を連れてきましょうか」

 ライトを持ってよいしょと水路に下り、紅倉を照らして言った。

「戻ってくるまで20分くらいでしょうかしらねえ? ま、その間に逃げるのならどうぞお逃げくださいませ? その様子じゃあ無理のようですけれどね。ご愁傷様」

 うふふ、と笑い、麻里は身をかがめ穴の中へ戻っていった。

 この危機から逃れることの出来る最大のチャンスであるが、徹底的に痛めつけられた紅倉にはいずる力も残っていなかった。

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