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61,血闘、紅倉VSケイ

 赤い門番を倒した紅倉は、暗闇の中、穴を更に50メートルほど進んだ。

 つーんと鼻の痛くなるカビの臭いがした。

 紅倉は四角い空間に行き着いた。

 通路から出るとここにも黒い鳥居が立ち、2メートルくらいの高さのほこらが建っていた。かなり古い物らしく木材がすっかりもろくなり、特に背面はぼろぼろに腐っていた。

 部屋は丸太の柱に横に板が渡され、天井は社殿の内部のように梁が渡され、三角の屋根の形に板が張られていた。

 ほこらの後ろに幅4メートルほどの堀が切られていた。横は15メートルくらい、堀は左右とも壁の手前で2メートルくらいの幅になって奥へ続いている。護岸は石を積まれている。

 その2メートルに狭まった堀は左右とも途中に木の板が下ろされているが、両方とも下が腐ってぼろぼろに崩れて、臭いのする水が、5センチくらいの深さで溜まっている。元々水の流れがあったようだが、今はもっと手前で別の水路に流れ、ここへは溢れたか染み出したかした水がちょろちょろと溜まっていった感じだ。

「ああ、なるほどね、門って、水門のことだったの」

 貯水用の幅広の堀の出入り口に下ろされた板は水流を調節、または遮るための弁で、それを開閉するための原始的な装置……縄を天井から吊した滑車に通してつり上げる物……があったようだが、縄も滑車も今はとっくに消滅している。

「察するに、ここが元々『神様』のおうちだったのかしら?」

 急に空気に水気が増し、風が感じられた。と、


 バアンッ!、と右手の板が吹っ飛び、ザアーーッと水が流れ出てきた。

 ゴオッ、と、生暖かい嫌な風を巻いて宙にケイが現れた。

「来たか、紅倉」

 ニヤリと嬉しそうに笑うケイはもちろん生身の姿ではなく、生き霊……とこの場合は言うのだろうか?、ともかく生身の肉体ではなく霊体として現れている。

 霊的視力に特化した紅倉の目には元よりはっきり見えているが、普通人の目にもこの一切外界の光のない暗闇の中でもケイのぼうっと白い光を滲ませた姿はよく見えるだろう。幽霊など頭の中で見る物で、見えない者には見えない物だが、この場所でケイの姿は誰にでもはっきり見えるだろう。紅倉の言う「霊媒物質」が異様に濃く充満しているからだ。それもケイの出現と共に一気に濃く膨れ上がった。

 ケイは薄物の襦袢をまとっただけのエロチックな姿をしている。濡れた体の線も生々しい。

 目がきれいに開いている。

 多少目つきがきつ過ぎる嫌いがあるが、なかなかの美人だ。

「嬉しいね、あんたの顔を拝めたよ。でも、せっかくの美貌が、台無しじゃないか?」

 紅倉は、

 赤い門番の毒素と血をこれでもかこれでもかと浴びまくって、

 白い肌がべろべろに剥けたようになっていた。

 それが血を塗り重ねただけの汚れならいいのだが………。

 ケイは紅倉を見ている内じっと怒ったような顔になった。

「紅倉。あんた、ここで死ぬ気かい?」

「まさか」

 紅倉は肩をすくめた。

「わたしは美貴ちゃんの腕に抱かれながら死ぬって決めてるの」

「ふふ、妬けるねえ。ま、それを聞いて安心した。あんたはわたしの物にしたいから、ここで殺させてもらうよ」

 ゴッと強い圧力が全身にぶつかってきて紅倉は後ろの板の壁に背中を激しく打ち、げほっと咳をして膝をつき、手を付いた。苦しそうに咳をして、血を吐いた。ケイが言った。

「こういう攻撃は受けたことがないかい? 霊能力って言ってもこっちは神の力だからね、霊力って言うより、

 超能力ってとこさ!」

 ケイの霊体が「ハッ!」と右の張り手を突き出すと、重い圧力の固まりがドン!と紅倉にぶつかり、紅倉は体を跳ね上がらせて後頭部を『ガンッ!』と強打した。

 紅倉は激痛に顔をしかめ、どおっと前に倒れた。

 ケイの霊体がスーッと宙を滑って紅倉の前に来た。

「おやおや歯ごたえのない。てんで駄目じゃないの? これが現代最強の霊能力者と歌われた紅倉美姫さんかい?

 ……やっぱり、門番に相当やられているようだね?……」

 ケイは冷たい目で肩で息をする紅倉を見下ろした。

「生身でここまで来られたのはさすがだよ。でも、わたしみたいに霊体を飛ばした方が良くなかったかい? ま、剥き身の霊体じゃあ神に一飲みで食われちまうかねえ? いずれにしろそれで精一杯じゃあ、神の相手にはならないね。その程度なら、本当に、殺しちゃおうか?」

 ケイは紅倉の頭を鷲掴みにするように右手を動かした。その手がサクッと縦に五つに裂けて、ケイは

「ぎゃああっ」

 と悲鳴を上げた。一気に反対の壁まで後退し、右手を押さえてぎりぎりと恐ろしい顔で睨んだ。紅倉ははあはあ肩で息をして上半身を起こすと、頭をもたげ、疲れた目でニヤッと笑った。

「こういう攻撃を受けたのは初めて? わたし、霊体を直接いたぶるのは得意なのよ?」

「やるじゃないか、さすが紅倉美姫さんだ」

 ケイは裂けた右手を激痛を堪えてぐっと握り、ぶるぶる震わせてぎゅうううっと握りしめた。白い光がぶくぶく泡立つように膨れ上がり、裂けた傷が修復された。

 紅倉は壁にすがりながらなんとか立ち上がった。はあはあとケイを見て、余裕を見せようと無理やり笑った。

「あなたの手は分かってるわよ。

 あなたの霊体はしっとり吸い付くみたいなもち肌で……、べとべとくっつきそうだわ。

 異様に粘り気があって、浸透力が強くて……、内部は熱く活性エネルギーに満ちている。

 あなたの必殺技は相手に霊体を融合させて噴き飛ばす、爆弾攻撃よ。

 自分の霊体を爆発させるんだから当然自分も傷つく。やりすぎれば相打ちで自分も死ぬことになる。

 ……わたしはあなたと心中してやる気なんてさらさらないから、そんな攻撃はしないでね?」

 ケイは驚いて真顔になったが、すぐにニヤニヤした笑いで誤魔化した。

「さすがだねえ、お見通しかい。でも、どうやらこっちもそこまでしてやる必要はなさそう……だよ!」

 再び「ドンッ!」と右手を突きだした。

 紅倉はまっすぐケイを向くと修行僧のように合掌し、「えい!」と気合いを込めた。

 ドッと攻めてきたケイの霊波の大砲が紅倉の合掌した手に切られ、根元まで大きく裂けていき、ケイは再び襲った手のひらの「ビリッ」とした痛みに慌てて手を引き握った。これも生身の肉体だったらドクドクと熱い血が流れ出してくる大けがだ。ケイは怒りに顔を歪めて紅倉を睨み付けた。紅倉は静かな目で解説してやった。

「普通の空間ならわたしはその攻撃に対処できないわ。でもここは全体がほぼ霊空間になっているから、物理的な攻撃も霊的エネルギーに変換されちゃうのよ。それがあなたの巨大なパワーの源なんでしょうけれど、痛しかゆしってところかしら?」

 ケイは悔し紛れの笑いを漏らした。

「戦い慣れてるねえ……。こっちも死ぬ気でかからなくちゃあねえ……」

「痛いでしょ?」

 紅倉は首をかしげて訊いた。

「わたし、あなたに何か悪いことしたかしら? あなたがそうまでしてわたしを殺さなくてはならない積極的な意味はないと思うんだけど?」

「女王様のあんたと違ってこっちはいろいろ人間的しがらみがあってねえ。あんたの命か、身内の命か、どっちか選ばなくちゃならないのさ」

「わたしと手を組んだ方が得だと思うんだけど?」

「それを見極めさせてもらうよ!」

 ケイが両手を縦横に振るって激しい気流が紅倉を襲い、

「弾けろっ!」

 ドッドンッ!と至近距離で連続して爆発が起こり、

「きゃあっ」

 紅倉は悲鳴を上げて体を揺さぶられ、再び膝をついた。

「フフッ、どうだい? 内部から吹っ飛ばすことにこだわらなきゃ別に我が身を犠牲にしなくたって爆弾攻撃は出来るんだよ。なにせ材料はたっぷり充満してるからねえ」

 紅倉はげほっげほっと苦しそうに咳き込み、だらあーっと粘つく血を吐いた。

 見つめるケイの目が細く冷たくなり、不愉快そうにぶ然とした。

「紅倉。本気になりな。わたしを殺す気で来なけりゃ、わたしがあんたを殺すよ? わたしはね、弱いあんたなんか必要ないんだ」

 ケイの目がカッと怒りに光り、バババババンッ、と紅倉を包んで閃光が炸裂し、全身からもうもうと赤い煙を噴いて紅倉は倒れた。土の地面に頬をべったり付け、虫の息である。

「弱い」

 ケイはムカムカと怒りを燃やした。

「しょせん人は神に勝てないか。見込み違いだったよ」

 紅倉が弱々しい瞳を動かしてケイを見た。

「油断大敵…よ……」

「たいした敵にはなりそうもないね」

 ケイが手を突きだし、ドンッ!。と紅倉の腹部で大きな爆発が起き、めらめらリンの青い炎が散ると、紅倉は腹をかばって背を丸め、動かなかった。それを眺めケイは、

「残念だよ」

 と心底がっかりしたようにつぶやいた。


 紅倉は、死んだようだった。

 ざわざわとケイの背後が騒いだ。

「綺麗なあんたが汚らしくむさぼり食われる様なんて見たくないねえ」

 そう言いながらケイは両手で胸を抱き、自分の体を守るようにした。

 ケイの背後からざわざわと生臭い霊気が溢れ出した。堀は30センチくらいの深さでゆるやかに水が流れているが、そのケイの現れた右の穴の奥から、何か大きな物がひたひたと近づいてきた。

 その間に生臭い霊気の固まりが倒れた紅倉に迫り、覆い被さろうとした。胸を抱いたケイは痛ましく目を細めた。と。

『ギィヤアアアアアアアアアアッ』

 生臭い霊気が下から爆発的に燃え上がり、天井まで噴き上げられて黒いかすになって散った。

 カアッと熱に照らされてケイは思わず顔をかばった。

「なんだ?」

 ゴオゴオと炎が燃え立ち、その炎をまとって恐ろしい形相の鬼女が立っていた。紅倉と同じ顔をしているが、人間の紅倉のふにゃっと腑抜けたところは微塵もなく、鬼神のごとき憤怒相をしている。

 チリチリと身を焼く熱さに顔をしかめながら、ケイは嬉しそうに笑った。

「それが最強霊能力者紅倉美姫の本当の姿か。いいわ。これよ、この恐ろしいまでの強さを、わたしは求めていた…………」

 ケイの笑いは大きくなり、炎に照らされてこちらも鬼女の顔になった。

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