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05,因果

 紅倉は

「ああ、そういえばあったわねえ」

 と答え、で?と首をかしげて話の先を求めた。

「それが呪いによる死だと噂されてるんですが、ご存じですか?」

「誰が噂してるの?」

「誰がと言うと不特定多数なんですが、まあ例によってネットの噂というものです」

「ふうーん。で、呪われてたの?その人」

 平中はスーツ同様くたびれた感じの皮カバンから大型の手帳を取り出して説明した。

「車椅子に乗っていて坂を滑落して車に撥ねられて死んだのは佐藤一夫、23歳。

 この車椅子の事故そのものも悲惨で不可解なものでしたが、佐藤は死亡するまでのおよそ1年半の間、実に12回の交通事故に遭っています。この13回目の事故で死んだ訳ですが、この時佐藤は前の事故で頸椎を損傷し全身麻痺の状態でした。

 ……佐藤が呪われている原因からお話ししましょうか。

 佐藤は大学在学中の20歳の時、死亡交通事故を起こしています。

 相手の車の親子3人が亡くなっています。

 佐藤の大学は神奈川なのですが、8月の夏期休暇中、こちらの実家に帰省して、高校時代の仲間たちと集まって食事をし、夜11時15分頃、帰宅途中で事故を起こしています。

 佐藤の実家はだいぶ離れた田舎の方で、こちら中心街であちこちに散っていた仲間たちと落ち合って食事をしたそうです。

 事故の様子は、山間部の一本道で、佐藤が無理な追い越しをかけて相手の車に接触し、斜め後ろから押された形の相手方車はトンネル入り口のコンクリートに激突し、回転、トンネル内の壁にぶつかり、エンジンが爆発炎上、母親一人だけ車の外に倒れていましたが、ひどいやけどを負っていて、救急車で病院に搬送後亡くなっています。運転していた父親は激突により出血多量のショック死、後部座席の7歳の娘は焼死、…変形した座席とドアに挟まれて抜け出せず、炎に焼かれて亡くなったと見られます。母親はギリギリまで娘を助けようとしてやけどを負い、ついに耐えられず外へ逃げ出し、結局亡くなったと見られます」

 芙蓉はケーキを食べ終わっていてよかったと思い、片眉をつり上げながらすっかりぬるくなった紅茶をすすった。

「事故はしばらくしてやってきた後続の車によって発見され、119番通報されました。ぶつけた佐藤はそのまま逃走、8時間後に検問に引っかかり逮捕されました。

 佐藤は呼気検査によって微量のアルコールを検出されましたが、本人はアルコール類は飲んでいないと主張し、食事ではノンアルコールビールを飲んでいたと供述しました。ただ他の仲間が飲んでいたビールを1杯くらい間違って飲んでしまったかも知れないが味がそっくりだったから分からないとも言っています。そこでいっしょに食事をしていた仲間たち3人に聴取したところ、たしかに佐藤はノンアルコール飲料しか飲んでいないと証言しました。

 送検に当たって警察ではかなりしつこく佐藤の飲酒危険運転を疑って調べたようですが、佐藤も仲間も供述を変えることなく、けっきょく殺人罪である危険運転致死は見送られ、事故である業務上過失致死で送検されました。

 裁判で佐藤は事故を通報せず逃走したことに関し、接触したのには気づいていたがそんな大事になっていたとは気づかず、たいして気にもとめずに先へ向かったと供述しました。検察は大爆発してすごい音と炎が上がったはずで、それに気づかなかったのは不自然だと反論したが、佐藤は大きな音で音楽をかけていたと言い、トンネルは先でカーブしているのですぐに後ろは見えなくなったと供述。

 検察は佐藤が8時間後に検問で逮捕されたことに関し、現場から検問所まで1時間もかからない距離であり、余分な7時間に関し、被告がアルコールを抜いていた可能性を言い、トンネル入り口付近で追い越しをかけるなど危険きわまりない行為であり、事故車の様子から接触時かなりのスピードを出していたことが推測され、被告のかなり危険な酒酔い状態での危険暴走運転である疑いに言及。しかしその疑いは捜査段階で証拠が得られず却下。佐藤はスピードの出しすぎによる危険運転で、業務上過失致死、懲役1年6ヶ月が言い渡された。

 遺族は刑が軽すぎると検察に控訴を求めたが、検察は収集した証拠や供述から判決を覆すことは難しいと判断し、控訴を断念。佐藤は刑が確定し、刑務所に収監され服役した」

 平中は少し休んで二人の反応を見た。紅倉は黙って紅茶をすすり、芙蓉はむっつり思い切り不機嫌な目をしている。

「1年6ヶ月の懲役でしたが、佐藤は模範囚で、改悛の状があると認められ、1年3ヶ月に刑が短縮されて出所しました。

 事故後佐藤は大学から退学処分を受けていましたが、ただの交通事故にこの処分は重すぎると、出所後処分取り消しを求めて裁判所に告訴しました。

 佐藤はその裁判準備中に、最初の事故に遭いました」

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