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20,後始末

 リーダーはハアハア息をしながら凶暴にケイを睨んだ。

「……本当に、……オレはあ、……殺さないんだな?………」

 ケイは大きくうなずいて言った。

「ええ。殺しは、しないわよ。さ、じゃあその危ない物を渡してもらおうかしら?」

 ケイは右手に杖を持ち、左手を開いて差し出した。ハアハア息をつきながら睨んでいた不良は、背後で見張っているミズキを気にし、ケイの後ろで大人しくお座りしている犬たちを見て、ゆっくりケイに近づいてくると、足を速め、ナイフを握った手を引き、叫んだ。

「てめえも道連れだ!」

 どうせ生かしておくわけはないと踏み、せめてもの復讐にむかつく女をぶっ殺してやろうと、最後の男気を見せようとしたのだ。距離を測ってナイフの腕を後ろから思い切り突き出そうとし、ケイの振り上げた杖の先がドンと肩の付け根を突いた。

「馬鹿」

 こんな物どうでもねえ、と不良は笑おうとし、そのまま肩で跳ね上げようとし、

 ケイの口が白い歯を見せてニヤッと笑い、ケイの親指が手元のスイッチを押し、

 不良の顔が痛みと驚愕に歪んだ。

 ケイは素早く杖を引くと、間髪入れず反対の肩の付け根、両腿、に杖の先を突き入れていった。

 ケイがフェンシングの突きの姿勢からさっと後ろに下がると、不良は両脚をくねっと曲げて、体の重みに押しつぶされるように座りこみ、両腕をだらんと地面に付けた。

「くくくくくくくくく」

 ケイは意地悪な笑い声を漏らして、杖の先に仕込まれた細い両刃のナイフを引っ込めた。不良は痛みに歪む顔に驚きと憎しみの表情を滲ませてケイを睨み上げた。

「て、て、て、てめえ、な、何しやがった?」

 ケイは残忍に笑って教えてやった。

「筋を切ったのさ。あんたの手足はもう二度と動かないよ?」

 試してみろ?と言われているようで不良は体を揺らして必死に手足を動かそうと頑張ったが、まるで力が伝わらず、その事実に絶望すると、歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、呪詛を込めて言った。

「…殺せよ。どうせそのつもりなんだろう? さっさと…、ぶっ殺しやがれ!!!!」

「あらそう?」

 ケイは動けない不良の額にピタッと杖の先を当てた。不良の額に汗が噴き出し、血走った目が見開かれた。

「グサッ!。なあーんちゃって。せっかく殺さないって言ってるんだからさ、命大切にしなよ?うん?」

 コツ、とつついて杖を下ろすと、不良を見下し、絶対に助けてなんかやりそうにない残忍な悪魔の笑いを浮かべて言った。

「生きろよ? 死んだ方がましな苦痛を味わっても、死ぬのは許さないよ? せいぜい……、50人分くらいは保ってくれよ?」

 ケイは顔を上げてミズキに言った。

「舌を噛まないようにして」

 そしてニヤニヤ不良を見た。不良は脂汗をびっしょり浮かべてあごをわななかせた。その内ミズキが死んだ仲間のTシャツを切り取った布を丸めて不良の口に詰め、上から細布を噛ませてぎゅっと縛り上げた。

 クロともう一人がススキの原の中でスコップを使って黙々と穴を掘り、ミズキも手伝いに向かった。シャリンシャリンとスコップが土を噛み、ザッザッと土が投げられる音を不良は恐怖の顔で聞いた。不良はべったり地べたに座りこんだまま動かず、ケイは犬たちの所へ歩いていき、

「おまえたち、朝食前に散歩に行くよ」

 犬たちに指示すると犬たちはさっと元気に立ち上がった。

「ああ」

 ケイが思いだしたように振り返って言った。

「本当におまえを殺す気はないから。今掘ってる穴は3つの死体を埋めるためさ。

 ねえ? 死体の処理をどうするか、聞きたい?」

 ケイは言いたくてウズウズしながら言った。

「あのでかい車には冷蔵庫があってね、硫酸のボトルが入ってんのよ。死体を穴に転がしたら、全身まんべんなく硫酸をふりかけて、顔も指紋も、歯も、みーんな溶かしちまうのさ。うふふふ、ま、あんたらみたいなちんぴらのクズ、そこまでしてやる必要もないんだけどさ。ま、一応礼儀としてね。うふふふふふ。

 嫌あ〜な臭いがするからね、犬たちに嗅がせるのはかわいそうだ。あんたは、たっぷり人間の溶ける臭いを堪能するんだね? これからさんざんそういう……地獄を見ることになるだろうからさ。あははははは」

 ケイは杖を振り振り、車の上ってきた舗装のされていない坂道を犬たちを引き連れ降りていった。実際の所ケイに視力があるのかないのか分からない。日はようやく山の頭を越えてさっとまっすぐ白い光線を発し、不良の影を長く地面に描いた。穴を掘り終えた男たちは3つの死体を乱暴に引きずっていき、穴の横に並べた。クロがワンボックスカーのバックドアに入っていき、不良は思わず血走った目を向けた。クロはガラスのリットル瓶を持って出てきた。手にはざらざらした黒いゴム手袋をはめている。ミズキともう一人を下がらせ、口金を外してふたを開くと、仰向けの死体たちに中身をふりかけていった。もうもうと煙が上がり、ビニールと、肉と、何か薬品ぽい物が焼ける臭いが発散された。不良はたまらず猿ぐつわの中で悲鳴を上げ、地面に倒れ込んであごをしたたかに打ち、その痛みもろくに感じる余裕もなく必死にあごと腰だけで体を動かそうともがいた。自分が世の中という物を舐めきっていたことを思い知らされた。好きなように生きて、どうにもならなくなったらさっさとこんなクソ世の中なんかおさらばしちまえばいいと高をくくっていた。だがこいつらは、用意周到で、当たり前に死を扱っているプロフェッショナルたちだ。こいつらは、虫けらの命なんて、本当に、何とも思ってないのだ。ミズキがやってきて不良の腹を蹴り上げた。不良は背を丸めてブルブル震えた。

「とりあえず痛い目に遭いたくなかったら大人しくしていろ」

 クロは死体の個人情報が消えたのを確認し、

「よし。いいだろう」

 1体を足で穴に蹴り落とし、ミズキともう一人もそれぞれ溶けただれた死体を蹴り落とした。クロは残りの硫酸を穴にぶちまけ、ゴッと上がる煙をよけて厳重に瓶のふたを閉め、バックドアに戻っていった。しばらくして煙が収まると、三人はまたスコップで穴を埋め始めた。

 地面に転がってビクビク震える不良は、既に地獄にいる気分だった。だが、

 不幸な彼の地獄は、まだ始まってもいないのだった。

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