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18,ハプニング

 夜の国道を走る赤い大型ワゴン車。

 携帯電話の呼び出しが鳴り、運転手が視線を下に向けるとケイがさっさと取って出た。

「もしもし。………了解」

 電話を切って言った。

「ちょっと問題発生。適当なところで止めて」

 運転手はバスの停車レーンに入ると先の方で歩道に寄せて止めた。

「今何時?」

「2時30分を回ったところです」

「ったくねー。名古屋で宝石店強盗だってさ。警備員が2人射殺されて、駆けつけた警察官1人殺して2人重症負わせて、車2台で派手なカーチェイスやらかして逃走中だって。泥棒ならもう少し上手くやれってんだ。郷に入りては郷に従えってね、どうせ中国人の武装強盗団だろう、中国人様は自分の物は自分の物、他人の物も自分の物ってまったくガキ大将様だからねえ」

 ケイは人種差別的に悪態をつき、実際困ったように言った。

「というわけで名古屋方面はあちこち検問だらけでパトカーが走り回ってとても近づけないってさ。あんな荷物積んでるのを見られたら一発でお縄だからね。クロさんと話してどうするか決めてちょうだい」

 ケイから電話を受け取って若者は「クロさん」にかけた。

「ミズキです。名古屋、駄目なんですって? ……はい、……はい。了解しました」

 電話を切ると「ミズキ」はケイに言った。

「とりあえずこの先のコンビニで追いついて、あっちの誘導で目立たない場所に」

「了解。やってちょうだい」

 ミズキが携帯電話を置いてハンドルを握るとケイは後ろの二頭を振り返り言った。

「悪いね。家でゆっくりするのは少し延びそうだよ」


 赤いワゴンカーがコンビニを通り過ぎ、しばらく行くと黒いワンボックスカーが追い越し、ワゴンカーは後について走った。

 二台は国道を名古屋方面から逸れ、内陸の山中へ入っていった。前のワゴンカーではどういう方法でか警察の動きを探り、危険と判断してどんどん市街地を離れた山奥深くに入り込んでいった。

 途中から完全な山道に入り、建物のほとんど見当たらない細い道を登っていき、枯れ草に埋められた駐車場らしき所に止まった。

 前のワンボックスカーから男たちのうち二人が降り、バックドアを開いて犬たちを表に出してやった。ワゴンカーからはミズキが降り、ケイのためにドアを開いてやり、後ろの犬たちにもドアを開いてやった。

「状況はどうなの?」

 ケイに訊かれて男たちのリーダーらしき「クロさん」が答えた。

「よくありませんね。連中他にも仲間がいるらしく、車を乗り換えて繁華街に潜っちまったようです。その際にも1人殺して、まったく無頼を地で行ってますな、警察も血眼です。さっさと逮捕されればいいが、こりゃあ長引くかもしれませんよ?」

「まったくなんだい、他人様の家に土足で上がり込んで、遠慮も礼儀もまるでなってないね? そんな凶暴な奴ら問答無用で撃ち殺してやりゃあいいんだよ」

 ケイは犯人たちを外国人と決め付けて自分たちのことは棚に上げて悪態をついた。三十になるかならないかのクロは精悍な顔立ちに渋い苦笑を浮かべた。ケイはクロの苦笑いを気に入らないように訊いた。

「で? こっちは大丈夫なんだろうね?」

「ええ。警察は内側への囲い込みに必死ですからね。ただ、かなり範囲を広く取っていますので、下手に近づくのは危険です。時間が経てば捜査を更に外に広げてくる可能性も高いですし、こちらは更にその外側を迂回して行かなくてはならないことになるかと思います」

 男たちのリーダーはクロらしいが、クロより年下のケイがズケズケと偉そうな口をきいて、クロは丁寧に答えてお嬢様のような扱いをしている。まだ二十歳前に見えるミズキともう一人も大人しく二人のやりとりを聞いている。降りてこないもう一人は車内で警察情報の収集を続けているのだろう。

「ちっくしょう、腹が立つねえ」

 苛つくケイをクロは落ち着いた声でなだめるように言った。

「慌ててどじを踏んだら命取りです。ここは一つのんびりじっくり構えましょうや」

「冗談じゃないよまったく。こんななんにもないところでのんびりなんざ、肝にカビが生えちまうよ」

 ケイは見えてでもいるように杖をブンと山の斜面の下る真っ暗な空間に振った。この辺りには道路灯も点いていない。

「明日にも紅倉美姫が来るんだろう? こっちが遅刻してどうすんのさ?」

 クロが可笑しそうに苦笑して言った。

「どうするって、ハンターのあなたがどうする気です? 村のことは『青年団』に任せておいてください」

 ケイは不機嫌に腕を組み、アルミの杖で自分の腿を叩いた。クロがご機嫌を取って言った。

「紅倉は乗り物が苦手ですからね、途中一泊して、おそらく到着はあさってでしょう。運が良ければ先に着けますよ」

「頑張れ日本警察!てか、愛知県警!か。まったく、当てにしてるよ」

 ケイはペチペチ腿を叩きながら、ふと、ニヤリと悪い笑いを浮かべた。

「じゃあ、わたしが迎えに行ってやるよ、紅倉美姫ご一行様を」

 クロは慌てていさめた。

「ケイ。それは危険だ。あなたにとっても、村にとっても。大人しくわれわれといっしょに…」

「嫌だ! もう決めた!」

「ケイ!」

「会いたいんだよ、あの女と!」

 ケイも自分がわがままを言っているのを悪いと思っているのか、真剣な顔をクロに向けて言った。

「村の仇になるようなことはしないよ、わたしの命に懸けてね」

 クロもケイの言い出したら聞かないお嬢様の性格を知っていて、ため息をついて言った。

「命なんか懸けなくてけっこうですから、無茶はしないでください。…どうやら、会長たちには考えがあるようですから」

「了解。とりあえず、村へのエスコートにとどめておくよ」

 ケイはお目付役から許可をもらってすっかり機嫌良くなって笑った。一方のクロはお嬢様のじゃじゃ馬に困ったものだとため息をつき、下男のミズキに言った。

「ケイの見張り、頼んだぞ? 危なくなったら杖で叩かれるくらい我慢してさっさと車で紅倉から引き離せ」

 ミズキは心配そうにケイを見ていたが、クロに言われて「了解」と苦笑しながら請け負った。

「さってっとおー…」

 上機嫌のケイはイタズラな笑いをワンボックスカーに向けて言った。

「長引くとなると4人も運ぶのは邪魔だろう? ここで一人に選抜しちまおうか?」

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