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15,補償金

 ここまで話を聞いて、芙蓉は易木の考えを紅倉先生そっくりだと思った。紅倉の様子を気にする。

 紅倉が訊いた。

「それで、被害者は救われましたか?」

 易木は穏やかな微笑を浮かべてうなずいた。

「被害者の心の傷が消えることはありませんが、少なくとも、それ以上の進行はくい止めることができます。後は時間がゆっくりと治療するでしょう」

 紅倉はうーーん…と考え、言った。

「憎い悪者を呪い殺して、

 殺人者としての後悔は生まれないの?」

 易木は自信溢れる笑顔で言った。

「それは、事前に十分時間をかけて理解してもらっています。相手に正当な裁きを下すことはそもそも社会が為さねばならなかったことなのです。社会が誤った判断を下してしまった場合には、それを正すのが正しい行いです。そのジャッジも、わたくしども『手のぬくもり会』が責任を持って請け負っています」

「つまり、えん罪はない、と?」

「ええ。100%、間違いはありません」

 芙蓉は喫茶店での紅倉のカップに映り込んだ目玉を思い出した。平中が問題視していた、「彼らも紅倉先生のように確かに有罪が見えているのか?」との疑念はクリアされているようだ。

 つまり彼ら「手のぬくもり会」にはそれだけの高い霊視能力も備わっているということだ。

 易木が安心したような笑顔で言った。

「ねえ紅倉先生。わたくしどもの活動をご理解いただけたなら、わたくしどもをお調べになるのは中止していただけませんか? わたくしたちは存在を世間に知られては困るのです。わたくしたちは、唯一、理不尽な不正義に苦しむ犯罪被害者たちのためにあるのですから。そして、わたくしどもは、これからも、そうであり続けなければならないのです」

 紅倉は、うーーーーん……、と考え、

「分かりました」

 と言った。

「ただし条件があります」

「なんでしょう?」

「安藤哲郎さんを帰してください」

「安藤…てつお…さん?」

 易木は誰なのだろう?と知らないように困って首をかしげた。

「あなた方の本部に捕らわれたはずのフリージャーナリストです。彼をこちらに帰すことがわたしが手を引く条件です」

「まあ……、本部に……」

 易木は気の毒そうに顔をしかめ、

「承知いたしました。その方を帰すよう至急本部に掛け合います」

 と表情を引き締めて請け負った。

「よろしくお願いしますね? でないと、お互い不幸なことになりそうですから」

 易木は眉をひそめて苦笑した。

「それは是非、願い下げいたしたいですね」

 易木は生姜湯の残りを飲み上げ、紅倉もようやく飲むことを許された。易木は額に汗を浮かべながら、一仕事終えて表情は満足そうに穏やかだった。


「それでは、夜分に失礼いたしました。約束は必ず」

 易木はふと目を留め、

「それじゃあね、ワンちゃん、バイバーイ」

 と手をふったが、小屋の中に寝そべったロデムはちらと目を開けたきり声も上げなかった。

 丁寧にお辞儀して去っていく易木を見送って芙蓉は部屋に戻ってきた。

「安藤さんは帰ってくるでしょうか?」

「うーん…、分かんない。あの人はそのつもりのようだけど……」

「悪い人ではないんですよね?」

「そうねえ。使命感に燃えているって感じ。やだなあ」

「先生も本心では彼らの味方ですか?」

「まあねえー。わざわざ出かけていってお節介するつもりはないけれど、目の前にそういう人がいて苦しんでいれば、やっぱりなんとかしてあげたいって思うわよねえ?」

「人数もそれなりにいるようですし、霊能力の実力もかなり高いようですね? 平中さんには悪いですが、わたしも気後れしてしまいました」

「名刺」

 紅倉は易木に渡された名刺を芙蓉に渡した。

「彼女の電話番号があるでしょう?」

「ありますねえ」

「あちらとの連絡窓口ってことね。本部の意向としてもわたしとはあまりやり合いたくないってことなんでしょうね。ちゃんと条件をのんでくれるといいんだけどなあ………」



 平中江梨子は1階喫茶店を利用したビジネスホテルに泊まり、本業である裁判員裁判の取材を続けている。そちらはどうせフリーの仕事なので途中で切り上げてもかまわないのだが、紅倉からあちらの出方を待つよう言われて取材の仕事を続行していた。

 2日後の夜、平中から電話があった。

『岐阜の『手のぬくもり会』からホテルに小包みが送られてきました。安藤のカバンとジャケット、それと……、封筒に250万円が入っていました。………………………』

 受話器を耳に当てて紅倉はため息をついた。

「明日、出られますか? それとも、やはりあなたはこちらに残りますか? こちらでわたしたちの帰りを待ってくれた方がいいんですけど……」

『いえ、行きます。連れていってください』

「そう。じゃあ時間とか場所とか、美貴ちゃんと決めてください」

 紅倉は受話器を芙蓉に渡し、こたつに背を丸めた。

「ああ、嫌だなあ……」

 とつぶやいて。

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