122,人格
芙蓉は頭が痛くなって、ため息をつきたい気分だった。
「先生の中にはどれだけの『霊魂』がいるの?」
「およそ、50」
「そんなもの? だって、あんなに大きな姿に変身してるじゃない?」
「ただの魂じゃないってことね。それぞれが強力な……怨霊だったんでしょう。
「紅倉美姫」の人格が生まれるまでに彼らの間にも激しい争いがあったんでしょうね。その波動が周りの人たちに悪夢を見させたんでしょう。
50と言っても一人の人間が内蔵できる霊魂の量をはるかにオーバーしているわ。例えば岳戸由宇も何十人と家臣の霊体を従えているけれど、実際に搭載しているのは数人分でしょう。他は魔界にいて、リンクしているんでしょうね。
紅倉の場合は全部中に抱え込んでいるのよ。
それも全部スーパー霊魂と言っていい超強力な霊力を持ったね。
紅倉がちょっと変わり者なのも当然よね?」
「それは別問題って気がするけど…。
じゃあ、先生の中には50の霊魂の人格があるってわけ?」
「そうよ。ただ、圧縮されて壊れちゃってるから、全部ごちゃごちゃに入り交じっているけれどね」
「それは……、先生とは別人格なのね?」
「ええ。精神病の多重人格のようなものだけど…。
破壊された精神を修復するために、新しい人格を作って統合を計ったけれど、それには失敗して、2つの人格に分かれ、「紅倉」がもう一人を制御している、っていう状態でしょうね。
でも「紅倉」の方が後から作られた人格で、本体はもう一人の方なのよ。それを消してしまったら、「紅倉」も生きていられない。
共存共生の関係ね。
紅倉の強い霊能力の源は本体の霊魂の物よ。
霊力を使えば使うほど、そっちの存在が表に出てきてしまう。
紅倉はたちの悪い悪霊を相手にするとたまにおかしくなることがあるでしょう?
それは「紅倉」がもう一人を制御できなくなりかけていたのよ。
ねえ美貴ちゃん。
紅倉は正義感の強い人間よ、人一倍ね。でも、
強すぎる正義感は、逆の欲求の裏返し。
紅倉の本能は、
人や、この世に対する、憎悪と、破壊欲求の固まりなのよ」
「そんなの、人間なら当たり前の事よ。それでも、先生は正義の人だわ」
「そうね…………。
わたしもずっとそう考えていたんだけど、どうやら少し違ったようね。
「紅倉美姫」の誕生も、あらかじめプログラムされた事だったのかもね。
どうも「あれ」は単なる破壊欲求の固まりには見えないわ。姿も紅倉によく似ている。「あれ」自体「紅倉」の人格の影響を強く受けているようだわ。
「紅倉」による治療の成果が現れて、「紅倉」と一つに統合されようとしていたのかしら?
それでも明らかに「紅倉美姫」という人間ではないわ。
彼女を作った人たちの目的は分からないけれど、もしかして、最初から「あれ」を作るためだったのかも知れないわね?
ひょっとして本気で本物の「神」を作ろうとしていたのかも知れない。
あれが完成形には見えない。
戸惑いと苛立ちがすごく感じられるじゃない?
彼女はまだ成長の途中で、まだ外に出てくる段階じゃなかったのよ。
それでもあれは「紅倉」と共に学習して成長している。
これは一つの光明ね。
紅倉にも破滅だけじゃない、光の未来があるって事ね。」
「……殺してるじゃない、みんな……」
「あら、そうね。
仕方ないわ、「紅倉」は、「心神耗弱」の状態だもの」
芙蓉はため息をついた。
「どうしたらいいの?
結局……、
先生は元の先生に戻れるの?」