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106,肉断

 紅倉に肉体を破壊された神は、魂は紅倉の炎から逃れ、地上向かって生き延びた。魂も大部分焼かれてしまって神の力はほんの小さなものになってしまったが、幸い事前に男どもに分け与えていたものがあった。

 改めて男たちに宿り、男たちの魂をありったけ吸い取って女の胎内に注がせ、女を新しい肉体にしよう、女の体に宿るなど屈辱的ではあるが一時のことだ、胎内に新しい男の肉体を作り出し、そこにまた移り、男子として千数百年ぶりに現世に「生き神」として転生しよう、

 というのが神の計画…あくまで生に執着する浅ましき本能の命ずるところのものだった。


 今十人の男の肉体に宿った神は、男たちの肉の本能に任せ、魂の種をありったけケイに注がせようとしていた。果てた後に男たちがどうなるかなど、絶対の君主たる神の知ったことではない。

 我先にとケイに襲いかかった男たちは、勢い余ってどうっと雪崩を打って倒れ込んだ。

 いや、

 違う。


「ガウウウ、ガウッ・・」


 大型の犬が男の裸の背に襲いかかって爪を立て、首筋にかぶりついた。

 ジョンだった。

「ぎゃあっ、くそっ」

 襲われた男は他の男たちに体をぶつけながら暴れ、ジョンを振りほどこうとした。がううと唸り声を上げて襲いかかるジョンだったが、いつものような力強さはなかった。

「なんだ犬か」

 外側で格闘する男を後目に内側の男たちはこの隙に俺が初物をとケイの肉体にむしゃぶりつこうとした。

「ええい、放しやがれ!」

 絡みつかれる男は神の力を放ってジョンを振りほどいた。ジョンは大きな体を地面に転がされ、果敢に起き上がったが、脚がしっかり立たず斜めによろめいて走った。

「ちっ」

 獲物を他の男に先取りされそうな男は一気に仕留めようとジョンに開いた右手を向けた。よろめきながら目を剥き歯を剥き襲いかかろうとするジョンを、内蔵から爆発させてやろうと残虐に考えた。

「死・・」

 何者かが走ってきて、体ごと男の懐にぶつかってきた。

「うげえっ!」

 寝台の上にケイにむしゃぶりつこうとしていた男たちを弾き飛ばして背中から勢いよく倒れ込んだ男の胸に、深々と肉厚の大型ナイフが突き刺さっていた。

 その男の腹をまたいで寝台に降り立った何者かは、ナイフを引き抜くと、男を横へ蹴り落とした。

 寝台から突き飛ばされた男たちはせっかくの楽しみを邪魔する奴を「誰だっ!?」

 と睨み上げた。




 鬼の形相をしたミズキがケイの体をまたいで仁王立ちしていた。




「ミズキ?」

 山中でミズキに肩を刺されながらケイの体を運んできた男が怒り狂ってわめいた。

「てめえっ、生きてやがったのか!?」

 日本太郎にめちゃくちゃにやられて、顔をどす黒くして苦しがっていたミズキが、どうしてこれほどの力強さで立っていられるのか? 胸からナイフを抜き取られた男は既に事切れ、抜け出した神の魂が青い人魂となって漂っている。

 まさか、ケイを救えるチャンスを狙ってやられたふりをしていたのか?……

 いずれにしろ男たちはこの邪魔者をかつての仲間とも思わず、両手を突き出し、神の力で息の根を止めてやろうとした。

 ミズキは飛び上がると、向けられる神の力の上を踊るように回転し、腕を伸ばして、手近な男の首を撫でた。スパッと頸動脈が切り裂かれ、

「あぐうっ、ううううーーーーーー…………」

 ビシャアッと勢い良く太い血流を迸らせ、男はもんどり打って倒れ、ヒクヒク痙攣し、事切れた。

 という間にも、

 ミズキは愛用のアーミーナイフで男たちの無防備な裸を襲っていき、シャープに肌が裂け、肉が断たれ、派手に血の噴水が上がった。

 神の力を持った男たちも素早く動き回り刃物で襲いかかる手練れに為す術なく斬られていき、阿鼻叫喚の地獄を演じて逃げまどった。篝火が掻き回される空気に揺れ、行き交う黒い影をおどろに揺らめかせた。

 最愛の人を汚されようとしたミズキは身も心も鬼となっていた。男たちの血を浴びて真っ赤になりながら痛みに悲鳴を上げて逃げまどう背中を追いかけ、切り裂き、致命傷を与える間も惜しんで他を逃がすまいと追いかけ、斬りつけた。

「ジョン! 逃がすな!」

「ガウウウウウッ」

 深手を負っているジョンも助っ人に勢いを得て、走り、血塗れの男の腕に、脚に、噛みついて、頬の肉を膨らませて歯を食い込ませ、男の肉を引き千切った。血塗れの涎を垂れ流しながら丸出しの尻に噛みつき、必死に逃げる男に巨体でぶら下がりながら放さず、ついにバリバリバリと柔らかな肉がまとまって剥がれ落ちた。べろんと剥けた肉のかたまりをぶら下げて男は泣きながら逃げ回った。ジョンは逃がさず、回り込み、今度は前から噛み付いた。男の物凄い悲鳴が上がる。

 殺人鬼と凶犬に追いかけられ逃げ惑う男は自分たちの流した血に滑って転げ、襲いかかってきた鬼のミズキに降参の両手を上げて助けを求めたが、ミズキはその両手をなぎ払い、次の殺戮に向かった。斬りつけたが、これだけ生肉を切りまくって脂に刃が滑った。ミズキは男の頭を捕まえると力任せに延髄に切っ先を叩き込んだ。引き抜き、次の者には仮面の目玉に突き刺した。凄まじい悲鳴が上がるが、かまわず、次の、まだ動いて逃げようとする者に襲いかかる。刃が脂と汗と血に滑って押し返される。見れば、仮面の外れた顔はケイを担いできた男だ。ミズキは深い憎しみに冷たくなり、ようやく周りを眺め回した。ジョンが喉笛に噛みついている者はピクピク痙攣しているが、徐々に動きが鈍くなっている。他にまだ動いている者もあるが、立って逃げようとする者は既に無い。ミズキは冷たい憎悪の目を下に転げてあわあわ逃げようとする男に向けた。

「た、たすけて……、こ、殺さないで…………」

 ミズキは這いずる無様な尻を踏みつけた。ひいっと女みたいな悲鳴を上げる。

「こ、こここ、殺さないで…………」

 男の体も傷だらけで泥まみれの血液が汚く塗りたくられている。ミズキは冷たく見下ろす。尻からはみ出して引きずられる男のシンボルは既に神に見放されて萎んでいる。ミズキは男の尻を踏んづけたまま股を割ってしゃがむと、男の根元にグサッとナイフを突き刺し、力を込めて、掻き切った。

「ぎゃあっ・・・・・・・」

 静かになった。ミズキは歩いていき、まだ辛うじて動いている者にとどめを刺していった。

 もう、動く者は無い。


 宙に男たちの肉体を抜け出した神の十の青い人魂たちが恨めしそうに舞い、一つの意志を持つと、一斉にミズキに襲いかかってきた。

 人魂たちはミズキに取り憑き、ミズキの種袋に集まった。ぐつぐつと男の本能が煮えたぎり、元々少年のように可愛らしい顔をしたミズキもケイの横たわる肉体への男の欲望をたぎらせた。神は殺された男たちの代わりにミズキの肉体を操りケイに入り新しい肉体を得ようとした。

 ジョンがミズキの異変に警戒して唸り声を上げた。

 ミズキは目を剥き、頬をヒクヒクさせてケイに向かう自分の欲望と闘った。神が、やってしまえ、おまえはずうっとこれをしたかったのだろう?、と淫靡に誘いかける。神の誘いに屈してしまえばミズキも男として最高の快楽を味わえただろう。だが。

「何が神だ。薄汚いバケモノめ。よくもケイを」

 ミズキはコートの下のシャツで刃の血脂汚れをきれいに拭うと、股を広げ、逆手に持ったナイフを突き刺した。

『・・・・・・・・・・・・・・』

 声にならない悲鳴がぐるぐるぶるぶるとミズキの肉体を駆けめぐり、そこから逃れられないように苦しげに暴れ回り、ミズキのズボンの股間は真っ赤な血が広がって足下に伝い落ちていき、神は、沈黙した。


「うっ、くっ・・」

 ミズキは途端に激痛に襲われ、ダダッ、ダダッ、と大きくよろめきながらケイの寝台に歩み寄り、ダダッと倒れ込んだ。端にすがりついてケイの顔を見つめた。ミズキの顔は、さっきまでの怒りに赤くなりながら力のみなぎる様子から一変して青黒く病的に肌色をくすませていったが、苦しいながらも、表情は穏やかだった。

「ケイ……………。最期にあなたの顔を見られて良かった………………」

 ミズキは愛しそうに微笑み、すがりついているのが辛くて向きを変え、背中を寝台の脚に寄り掛けた。

 ジョンも脚を引きずりながらミズキの隣に来て、これだけの騒ぎの中少しも動こうとしないケイを見て、地面に座り込んだ。

「どうしたジョン? おまえは、撃たれたのか? かわいそうに。だが、よくケイを守った」

 ミズキはジョンの背中を撫でて褒めてやった。

 しかしミズキ自身苦しそうな呼吸をして、力無く黒い血の混じった咳をした。

 どうやってこれだけの活躍が出来たのか分からないが、ミズキは自分の体がもう駄目なことを最初から知っているようだ。

「紅倉、早く来てくれないかなあ………。ケイの叱る声を聞きながらみんなの所に逝きたいよ……………」




 紅倉が、来た。


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