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100,神いじめ

 紅倉はざぶんと貯水池に下りた。途端に、

 バリバリバリッ、

 と凄まじい雷が襲ってきた。紅倉の体を丸ごと吹き飛ばしてしまいそうな巨大な青白い電気の大砲は、しかし、

「むん」

 紅倉が飛び降りると同時に突き出した右手を避けるように幾筋にも分かれて後方へ走っていき、「バリバリバリッ」と凄まじい音を立てて壁板、天井を破壊していった。

「バリバリバリッ」

 第2波が襲ってきた。

「むん!」

 今度も紅倉の右手に弾かれ後方へ幾本も渦を巻いて走っていき、凄まじい音と震動を上げて構造体を破壊した。

「こらこら、麻里ちゃんまで焼けこげちゃうでしょうが?」

 バリバリバリッ、

「うるさい」

 紅倉が両手を開いて突き出すと、水路の入り口に栓がされたように、雷が真っ白に光り、

「ドッオオーーーーーン」

 と爆発を起こし、

「ガラガラガラン」

 と物凄い轟きを発した。天井から木片と岩が落ちてきて紅倉の周囲にもバシャバシャ落ちた。

 ゴオオオオオオオオ…………、と雷鳴が長く轟き、ビリビリビリッ、と空気と部屋が震えた。

 その轟音の中で、

「・・・・・・・・・・・・」

 水路の奥から何とも言えない悲惨で不気味な悲鳴が上がっていたように思う。

 紅倉は水を蹴りながら水路へ進んでいった。天井の低い通路に入ろうと屈み、

「まだやる気?」

 右手を突き出すと、

「グオオオーーーーッ」

 と、まるでサイボーグのように火炎放射を発した。真っ黒な通路を赤々と照らし出し、奥から今度ははっきり、

「キイヤアアアアアアアアアアア」

 と、木が軋むような、生き物ともなんともつかない悲鳴が響いた。

「フン、懲りたか」

 紅倉が火炎放射を納めても、奥の方でチロチロと赤い火が燃え、更に奥へ、もぞもぞと逃げていく。

「ふふふー、だ。わたしの方がまだ足が速いわね」

 紅倉は屈んでバシャバシャ水路を進んでいった。しばらく行くと少し広い、天井のなんとか立って歩ける高さの通路に出て、左右に分かれる水路を、

「こっち」

 迷わず進んでいく。焦げ臭い臭いが漂ってきて、

「ほーらほら、隠れたって駄目だよーん」

 水路が枝分かれした水槽に入っていき、ゴオオッと炎を走らせた。柱に火がつき、室内を照らし出した。柱が並び立ち天井を支えるプールの奥に、背中の焼けこげた「神」がとぐろを巻くようにしてじっと潜んでいた。それはまるで小動物か知能の低い水生生物が、なんでボクを虐めるの?、と怯えて問いかけているようだった。

 紅倉は向き合って言う。

「ま、あんたがそのまま悪って訳じゃないんだろうけれど、あんたは悪の元なのよ。あんたの存在そのものが人間と相容れず、あんたに関わる人間を、不幸にしているのよ」

 紅倉が右手を突き出すと、「神」ははっきり怯えて震えた。ふるふると、泡の固まりのような白い、醜い体を揺すり上げて。

 紅倉はさすがに哀れに思ってか炎を発射しなかった。

「わたしがこんな芸当の出来るのもあんたの『神』の力を利用しているから。あんたはねえ、人間にこういうことをさせちゃうのよ」

 紅倉は駄目なペットを躾るように、無慈悲に、炎を放った。

「ぶぎゅあああああ、ぶぎゅるるるううううう」

 声帯を持たない白いぶよぶよの固まりは、水しぶきを上げ、腐った息を吐き出して、汚らしい悲鳴を上げてのたくった。オレンジ色の炎の中でビカリビカリと青白い放電をして、なんとか火を消そうと霊力を放っている。それは空気と地を揺るがし、水槽に激しい三角波をいくつも突き上げた。。

「おまえは、なんだ?」

 炎を放ち、燃え上がらせ、悲鳴を上げさせる。

「答えてみろ、おまえは、なんだ?」

 炎が放たれ耳を塞ぎたくなる悲惨な悲鳴が響き渡る。

「答えろっ!」

 激しい炎がゴオッとなぶり、白い体が沸騰してブチブチ破裂した。紅倉は火炎放射を納めた。冷たい顔で言う。

「分からないんだろう? 哀れな奴め」

 ぶすぶす黒い煙を噴いてくすぶっていた「神」は、静かに、じいっと考え込むようにし、ぐつぐつぐつと内部をうごめかせると、バリッと青く眩しく輝くと、部屋中にその青い光の網を広げ、紅倉を覆った。紅倉は首をかしげ、

「今度は糸を吐いた」

 その光の網が紅倉を捕らえるべくぐっと縮まってくると、

「触ってみろ!」

 紅倉は全身から真っ赤に灼熱したオーラを発した。紅倉を捕まえようと迫っていた光の網はもろに赤いオーラを噴き上げられ、


「ぷぎゃあああああああぷうううううううう」


 「神」は神経をまともにあぶられたように絶叫して暴れ回った。ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響く。

「おまえは誰だ!」

 紅倉が噴きだしたオーラを「神」に浴びせた。「神」は赤いガスに包まれ窒息するように暴れ回った。

「おまえはもう、誰でもないっ!!」

 「神」の体が真っ赤に発光し、ぼこぼこと大きなこぶを作ってうごめかせた。

「おまえにはもう、『自分』なんて高尚なものは、とっくに無くなっている!!」

 「神」は真っ赤に沸騰した。

「おまえは、とっくの昔に、死んでいるんだっ!!!!」

 「神」は、

「自分が死んだことさえ、覚えてもいないかっ!!??」

 ボコンと膨れ上がって、爆発した。


「ぶぎゅうあああああああああああっっっっ」


 黄色い汁をまき散らして、「神」の「肉体」がバラバラに吹き飛んだ。

 天井や柱にぶつかり、汚く潰れて張り付き、ボドボドとプールに落下した。


「ブシューーーー、ブシュシュシュシュシュウーーーー…………」


 水の中に残った壊れた体が水蒸気を吐きながら必死に「生きよう」ともがいた。



「いい加減その体を死者に返せ。その肉のほとんどは巫女や、生け贄の女たちを食った物だろう?

 男の本能だけは嫌らしく持ち続けているか?

 生き続けるのがそんなに大事だったのか?

 子を作るのがおまえの使命か?

 とっくに終わっているのよ、そんなもの、おまえが死んだ時に。

 周りの者の期待か? 執着か? おまえはそれに応えたかったのか?

 いまだに応えようとしているのか?

 男の体には取り付き、いまだに『男子』として自分の子孫を残そうとしているのか?

 そんな物はもういらないのよ。

 おまえはもう、あらゆる意味で誰でもない、ただのバケモノだ。この村の連中も、みんな、おまえがバケモノにしてしまった。


 おまえはもう、生きていてはいけないモノなのよ。


 おまえに罪の無いのは分かる。おまえは今も、村の人間、おまえの力を必要とする人々の思いに応えようとしているだけなのだろう。だから、


 わたしは、


   鬼


 になる!」


 紅倉の体が白く輝き、紅倉自身からももうもうと白い湯気が上がった。


「うわああああああああああああああああっっ」


 部屋全体が赤く染まり、水の中にポコポコ泡が浮きだした。


「・・ぶぎゅうー、ぶしゅ、ぶしゅぶしゅぶしゅーー……」

 湯気の立つプールの中で神の残骸が力無くのたくった。

 ボコッ、ボコッ、ボコッ、と大きな泡が次々弾け、赤い部屋いっぱいに赤い湯気がもうもうと立った。


「うわああああああああああああっ」


 固く湯で上がった「神」がゴロンと丸く浮き上がり、パリッ、と皮が弾け、中身がめくれ上がった。


「わあああああ・・あ・・・・あ…………、」


 紅倉の体が突然ぐらりと傾き、自分の熱したお湯の中に倒れ込んだ。


「バチンッ」


 「神」がすっかり中心までさらけ出し、わずかに残った柔らかさの中からいくつかの青い光の玉が飛び出し、倒れた紅倉を避けて通路へ逃げていった。

 紅倉は腕を突っ張ってザバッと顔を上げた。ゲホッゲホッと咳き込み、ハアハアよだれを垂らして息をついた。疲れた目で振り返り、

「くそう……、まだ魂を取り逃がした………」

 くっ、と頑張って体を起こし、立ち上がった。ふらふらよろめきながらなんとか体勢を保つ。

「ああくそ……、体が重くて、だるい……。ちっっっくしょう……………」

 辛そうに顔を歪めながら足を動かそうとした。麻里に勝利した紅倉だったが、やはり相当ひどくダメージを受けているのだった。それに、いかに神の溢れ出すオーラを利用しているにしても、

「霊力の使いすぎね。保たないわ…………」

 どうにもならずその場にしばし立ち尽くした。

 少し休んでなんとか持ち直した紅倉は、疲れた暗い目で神の残骸を眺め、暗く笑った。

「食ってやろうかしら、これ」

 ザバッ、……ザバッ。重い足を引きずりながら歩き出した。

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