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09,裏募金サークル

「佐藤一夫の事件ですが。

 被害者家族の家が妻の母親の名義で売りに出されています。佐藤が出所し、最初の事件に遭う前頃からです。どうも母親はその前に大きな借金をして、その埋め合わせのためのようですが。確かに住む者のいなくなった家ですから売りに出しても不都合はなく、事故から1年半が過ぎ、遺品の整理もついたでしょうからいいんですけれど……。なんのための借金なんでしょうね? 家の処分を嫁側の母親が行うことに、夫側の両親もなんら異議を持っていないようです。

 女性暴行事件の方ですが。

 性的被害にあった女性たちを支援する団体のホームページがあるんですが、そこにかつて厳格に管理された会員だけが入れる部屋が存在し、そこに被害者たちを援助する募金を募るページがありました。そこでは目標金額を掲げ、募金をした支援者にはお礼と、『目標金額まであといくら。頑張りましょう!』と明確な目標を持って励まし合うコメントが書き込まれていました。そして、『ありがとうございました。これでわたしたちにようやく平安が訪れます』との管理者からのコメントを最後にそのページも、会員の部屋も、きれいに削除されました。その翌日、容疑者の男は謎の病を発症し、悶え苦しみながら死にました。

 交通事故被害者の母親が借金し、その後始まった佐藤一夫の交通事故のシリーズ。

 性犯罪被害者たちが募った募金が満額に達し、その翌日から加害者の男を襲った奇病。ああちなみに、男の肉体が腐り落ちたのはなんらかのばい菌による毒が原因と見られますが、詳細は不明のまま焼却処分されたそうです。

 この二つのタイミングは、偶然なんでしょうか?」

 平中は二人の関心の高さを測るように紅倉と芙蓉を見比べた。芙蓉は判断が付かず紅倉を気にし、紅倉は「天罰でいいんじゃないの〜?」とあまり深い詮索はしたくない顔つきだ。平中は紅倉に逃げを許さないように冷静な固い声で続けた。

「偶然とは思えませんよね?

 こんなおかしな死に方ですからネットで『呪い殺されたんじゃないか?』という噂が立ち、『呪い請け負います』なんていうホームページも存在します。いかにも秘密めいてたどり着きづらい作りになっているので調べてみましたが、ただのオカルトマニアの素人のようです。とても本当にあんな風に人を呪い殺せるとは思えません。それに、若い女性たちはともかく、高齢の女性がそんな怪しげなカモフラージュされたサイトを見つけだせるとは思えません。そこで、そうした事件の被害者に直接接触する仲介者がいるのではないかと考えました」

「誰が?」

 紅倉の問いに平中ははっと表情を凍り付かせた。紅倉はのんびりしながら意地悪なほど本質を突く鋭さで訊いた。

「今あなたが話している一連のことは、誰が調べていたことなんです?」

 平中は表情をなくした顔に暗い痛ましさを立ち上らせて答えた。

「安藤哲郎(てつお)、34歳。

 わたしと同じフリーライターです。

 わたしの、恋人です」

 芙蓉は暇な店だな、経営は大丈夫なのかしらと思った。こうしてもうけっこう話し込んでいるのに、自分たちの他にぜんぜんお客がない。窓から表の通りを眺めて、ああそうかと思った。ガラス窓はアンティーク調に少し色が付いているが、表の景色がやけに白々しく見える。お客のないのは自分たちのせい……先生のせいだろう。先生の放つオーラがこの空間をすっかり異次元の物にしてしまって、表を通る人に何となく警戒心を抱かせ、近づくのをためらわせるのだ。お店には気の毒に、とんだ営業妨害だ。

 芙蓉は何となく嫌な予感を持ちながら平中を見た。

「安藤はそういう、理不尽な不正義に苦しむ人に、いくら憎んでも飽き足らない極悪人を、呪い殺すことを薦め、代行を請け負う者が存在するのではないかと考え、その依頼者になりそうな事件に目を付け、関係者を張り込みました」

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