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‐夏が来れば思い出す
はるかな尾瀬
遠い空
霧の中に浮かびくる
優しい影 野の小径
水芭蕉の花が
さいている
夢見てさいている
水のほとり
石楠花色に黄昏れる
はるかな尾瀬
遠い空 ‐
娘がふと口ずさんだ歌。
それは何かとても懐かしいものを思わせてくれるメロディだった。私がぼーっと壁を見つめていると、娘が私に「どうしたの?」と首をかしげて問い掛けた。
ううん、なんでもないよ、と答えようとして言葉を止めた。
その歌もう一回歌ってよ、と純粋に思ったのでそのまま口にした。「お母さんこの歌知ってるの?「知ってるわよ。すっごく有名だもん。「夏の日の思い出」でしょ?でもさ、気にならない?なんで尾瀬なのか。尾瀬の他にも同じような景色の所はありそうなんだけどな。」
娘はそのことに関してあまり興味を示さなかった。うーん…と曖昧な答が返ってきたのでそんな娘が可愛くて私は微笑した。
そして、二番を歌わずに、また一番から「夏の日の思い出」を歌い始めた。
時は夕暮れ。まだ暑さが残っていて何だかムシムシする8月の終わり。蝉は暑さを三倍にしているらしいよ、と昨日夕奈が驚いた顔をして私に伝えてきた。案外嘘じゃないかもしれないな。夕暮れの暑さは、ひぐらしと蝉とオレンジの夕日、人の黒い影、子供の半袖、むしとり網、たくましく生える草、木、水面がキラキラと輝く海、そしてそこに写る真っ赤に燃える太陽。私から見たらこれらは立派な夏の風物詩で、それこそ夏の猛烈な暑さに上乗せして心もを暑くしているのかもしれない。
‐北海道浦河町‐
家の周りには何もない。車を15分ほど走らせれば生活には困らないほどの店や病院や学校などがあるが、社宅の周りには、壮大な山ばかりだ。
数年前に社宅の近くに大きなホテルがぽつんとできた。できた当時はすごく話題になってたくさんの人が訪れていた。温泉にだけ入りにいくことも可能で、この辺に住んでいる人ならば一回は行ったことがあるだろう、という位有名である。私も夕奈と千波ちゃんとよく入りに行く。夕奈は水風呂が大好きで、体を洗った後は水風呂に直行し、入ったり出たりして「冷たいっ」と目をきゅっとつむって私を呼ぶ。そんな姿がやっぱり可愛くて自然と微笑んでしまう。
お母さんお母さん と小さな声が聞こえてふと我に帰る。
ん?どうしたの?




