第一章 少年の思いと団員の消失
俺はいつでも、1人で孤独だった。誰かの為にと思い、なにかしたこともない。なんせ、俺の周りには誰もいないから。
でも、1人のほうがいい。
大切なモノがないということは、失うものもないということ。なにもないほうが、守るべきものなどないほうが、楽だとは思わないか?
今日も俺は盗みを犯す。望む望まないは関係ない。生きる為に誰かを不幸にするだけだ。
罪悪感なんて邪魔なだけ。大嫌いな過去でとっくに捨てた。
そんな俺が生きるている意味。それは――
―――少年 路地裏―――
暗い路地裏。息を荒くして、俺はただ、ひたすらに走っている。
水溜りに足をつっこんで水しぶきがとんでも気にしない。ズボンの裾が汚れたって、顔にかかったって、ただただ走る。どうせ、前からボロ雑巾のようにくたびれていたズボンだから。
路地裏に入る前、トラックを見かけた。何人かの子供が荷台からでてきていた。荷台の中には、よく見えなかったがフラフープや綱があったと思う。サーカス団かなにかだろうか。
生きる為にしていることが俺とは全く違い、あの子供たちは誰かを幸せにすることだってできる。
俺の手には林檎が一つ。ばあさんが営業する八百屋から盗んできたものだ。これが今日の食料。
親は、俺を措いてどこかに消えてしまった。まぁあんなヤツら親とも思ってないが。あいまいな記憶の中に残るのは、お前なんて消えればいいと無表情でつぶやいた父の顔。存在自体が、とても怖かった。あの頃は、自分がなぜ嫌われたのか必死になって考えていたな…。
…また思い出してしまった。後ろを振り返って、誰も追いかけてこないことを確認すると、そのまま立ち止まって首を振る。あんな過去こそ消えてくれればいいのに。
右側の壁に寄りかかり座ると、膝に顔をうずめる。視界だけでもいいから、『現実』から離れたかった。
暗闇の中で、自分の呼吸音だけが聞こえる。
心地いい。でも何か足りない。何が足りないんだろう。考えても思いつかないから、考えない事にする。
強がりなのは自覚している。でも、正直なところを言うならば。
こんな生活、続けたくない。
しばらくそのままじっとした後、顔をあげて林檎をかじる。
泥まみれの手が握っているその林檎は、手と接する事で一緒に泥だらけになっていた。
―――エリク トラックの近辺―――
入国手続きは簡単に終わった。
門番にサーカスをしたいんですがと言うと、笑顔で入国させてくれた。なんていい国と人なんだろう。
トラックで門をくぐった僕らは、すぐ近くの広場でトラックを止めた。
ディランは夜中も運転していたため、荷台で仮眠を。僕らサーカス団員は、公演前の夜ご飯の買出しに街へ出かけることにする。
「じゃっ、ゆっくり休んでてねー」すでに寝てしまっているディランにそう言ったあと、団員が全員降りた事を確認し、起こさないように配慮して静かにトラックの扉を閉めた。
「んで、夜ご飯なににするー?」
振り返りながらみんなに質問。
「カレー! カレー!」
右手を挙げながらぴょんぴょんと跳ねるシャルロット。好物はカレーだ。
「んー…やっぱりそうなるのか…」
毎回こんな感じで意見を出すのがシャルロットしかいないため、夜ご飯は絶対にカレーになる。飽きはしない体質だから、大丈夫だけど。
「まぁいいよね。はい、カレーで」
「やたー! やたー! やったーっ!」「わぁっ」エリィの手を引いて一緒に回りだすシャルロット。
前かがみになりながらできつそうな体勢なのに、笑顔で付き合ってあげるエリィは優しいなぁなんて思ってみたり。というか、シャルロット喜びすぎだろー。毎回カレーだろー。
やった本人が目を回したので、喜びの舞はすぐ終了した。
「はいお金。カイとエリィは肉屋でお肉買ってきて」「はーい」
回り終わって若干フラフラなエリィと無愛想カイはお金を受け取り、先に市場に出かけていった。
「さて、僕らは野菜担当だよー」
双子のシャルロットとシャルムに、それぞれお金を配る。二人はまだお金を持たせないほうがいい年齢だし、買えるのはたまねぎ一つくらいの金額だが。
「さっさと行こ!」
意気揚々と僕の手をひくのはシャルム。シャルロットは大事そうにお金を握っている。いつもシャルロットは、ものすごくお金を大事にしているんだ。なぜかは知らないけど。
さすがシャルロットと双子だと思えるほど元気のありすぎるシャルムは、お金をポケットに入れてスキップで歩き出す。右手は僕の手、左手はシャルロットの手で塞がっているから。
身長差の所為でぎこちないスキップをしながら街へ着くと、混んでいた。
手を離さないようにねと言って人ごみの中に入る。
何人もの人に肩をぶつけた。いろんなにおいが鼻につく。香水やタバコくさかった。
しかめっ面になるのを抑え、なんとか八百屋に着いた。
「さてと…、さぁ買い始めようか」
隣のシャルムを見ると、不安そうな顔をしていた。どうしたんだろう…。
「ね、ねぇエリク…。シャルロットが…」
そう言われて初めて、シャルムの向こう側に目をやる。
シャルムと手をつないでいたはずのシャルロットが、いなかった。
「うそ…」急いで辺りを見渡す。目の前に現れるのは、僕よりも背の高い大人たちばかり。
…いない、いない!
こんなに不安で焦ったのはいつぶりだろう。バクバクと鼓動がはやくなる。唾がうまく飲み込めない。
人混みに目を向けたまま、シャルムの手を強く握る。離さないように、しっかりと。
「シャルロットを探すよ」
今の僕に出来る、唯一のことだった。
今回で二度目の投稿です。全体的に話が暗いので、どうしたものかと悩んでみたり。
これからも暗い話が続くと思いますが、飽きずにまた読んでくれたら幸いです!