孤独の日常 ーその1ー
「あんたなんて、うちの子じゃないわ!」
それは、雫が聞いた家族の最後の言葉だった。
月詠雫は、孤独な人生を送ってきた。
雫は、元々未来都市外に住んでいたが、小学校に入学するタイミングで両親の意向で未来都市に引っ越してきた。
超能力が発見されてから、様々な事実が分かった結果、小学生であれば超能力者になっても良いという法律が新しくできた。その結果、自身の子供が小学生になったタイミングで未来都市に来る家庭が大幅に増加した。月詠家もその一つだ。
親の思惑通り、雫は小学校に入学してすぐに超能力者になった。これが、地獄の始まりだった。
『スペシャルアビリティ:ヴァンパイア』
これが雫が手にした、超能力の名前だった。ヴァンパイア、これが名前だけだったらどれほどよかったことか。この超能力のせいで、雫は日光に弱くなり、太陽の下に出られなくなった。さらに、体内の『ナスラ』が枯渇すると吸命衝動に駆られて、自我を失ってしまう。そして、人を噛むことでその人から『ナスラ』を奪って補充することができる。これこそ、ヴァンパイアのイメージそのものだろう。普通ならば、自然回復で事足りるのだが、雫は体の欠陥で、空気中から『ナスラ』を取り込むことができなくなっていた。普通の体であれば、どれほどよかったことか…。
超能力の噂は、小学生の間では風のように広がっていく。どこから漏れたのかはわからないが、雫の超能力の名前も、出回ってしまっていた。そのせいで、学校では入学早々孤立してしまった。
仲間外れにされるだけならどれほどよかったことか。ヴァンパイアの名前のせいで、目立ちたがり屋の男どもに目を付けられ、正義を理由にイジメが横行してしまった。教員も、雫のことをよく思わず、見て見ぬふりをしていた。
親に捨てられたのは、その頃だ。子供の頃にこんな経験をしていたら、心を閉ざすどころか壊しかねなかった。しかし、そうならなかったのは、雫を救ってくれた人がいたからだ。
「あなた、行き場がないのかい?」
親に捨てられた日の夜、道端で倒れた雫を助けたのは、近くに住む八百屋のおばあちゃんだった。おばあちゃんは、息子と喧嘩別れしたばかりだったため、雫と同じ一人だった。そのため、自分と重なって見えたのか、雫を家に迎え入れた。
雫も始めは他人を信じられなくなっていたが、親切にしてくださるおばあちゃんに徐々に心を開いていった。そこからは、学校には行かなくなったものの、おばあちゃんのおかげで雫は心を閉ざすことなくすくすくと育っていった。
そんな時だった。小学四年生と同等の時期に、ある者が雫に接触してきた。
「やぁ、初めまして。月詠雫」
「…」
「君に依頼を持ってきた」
「…」
店番を務めるおばあちゃんの代わりに、買い出しに来ていた雫の後ろから声が聞こえる。無視を貫いて歩いてはいるが、声の大きさは全く持って変わらない。このまま行けば、八百屋についてしまうと思った雫は、遠回りをすることにした。
「一回につき、三万円の報酬を約束しよう」
「...!!」
雫の足が、急に止まった。謎の存在の提案が、雫の求めていたものだったからだ。
おばあちゃんの八百屋でお世話になるうちに、どうにか恩返しをしたいという思いが強くなっていった。お遣いも、その一環だ。それでも、まだまだ足りないと思っていた。おばあちゃんは、八百屋のみで生計を立てていたのだが、なかなか売り上げが伸びず、数年後近場に道の駅を立てる計画もあるため、今のままではダメだと確信していた。だからこそ、その点でなんとか貢献したいと考えていたのだ。
「それは、私にもできるの?」
「もちろん。君にしかできないことだ」
雫は、謎の存在とまず話すことにした。もしこれで、嘘をつかれていたら超能力を使って懲らしめてやればいいと思っていたからだ。
「君には、ある人物を倒してほしいんだ」
「倒す?」
「あぁ、その人物はとても悪い犯罪者でね。手を焼いているんだ」
「そんな危険な人物を、私が倒せると?」
「もちろん、君が超能力を完璧に扱えたらね」
謎の存在は、やはり雫の超能力を知ったうえで接触してきていた。話を聞く限り、普通に考えればこの依頼は雫にするべきではない。それこそ、学生治安維持委員会が最適と言えるだろう。それでも雫に接触してきた理由は、超能力以外に考えられなかった。
雫は、依頼を受けるか迷わなかった。お金のこともあるが、超能力を知れるいい機会だと考えたからだ。
「わかったわ。その依頼、私に任せて頂戴」
それから、雫による超能力犯罪者狩りが始まった。最初の頃は、超能力を数度使うだけで『ナスラ』が枯渇して"吸命衝動"に駆られてしまうと考えたため、年に数度の依頼にすると契約を交わした。雫の体のことは知っていたようで、謎の存在もその点に関しては了承しているようだった。
そして、時が流れること約二年。雫は、夜の街で裕哉と出会うことになる。
『ナスラ』については『超醒の救世者』を参照ください




