親切心の行く末に ーその2ー
「で?なんであんたがここにいるわけ?」
夜、裕哉はなぜか雫と共にいた。時刻はすでに、二十三時を回っており学生は外出してはいけない時間帯だ。裕哉は、外出の申請をして許可されているため問題はないが、目の前の雫はそうではない。もちろん、裕哉はそんなことを伝えに来たわけではない。
「今日は伝えたいことがあって」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何でここにいるわけ?それに、どうして私の居場所が分かったのよ」
「どうしてって、そうだな…まず周期かな。君が活動する周期。最近は三日間隔で行ってるみたいだし、次は今日かなって。それに、君が活動している場所も第十三区画のこのあたりだ。それらから、今日の夜この周辺にいるんじゃないかって予測してたわけだよ」
「は?きもっ」
裕哉のやっていることは、もうストーカーと同じだろう。それでも、裕哉には雫に伝えなければいけないことがある。
「はぁ、で?何の用よ。今回はあんたの方から来たんだから、何かしらあるんでしょ?」
「あ、あぁ。えっと、単刀直入に言って、君を狙う人がいる」
「ん?知ってるわよ。そんなこと」
「それでも、伝えておかないといけないと思ったんだ。君に何かあったら、僕は悲しいからね。それに、そうならないために僕にできることをやり遂げたいしね」
「…あんた、ほんとにお人好しね」
依頼内容は、『マッドキラー』を見つけること。そして、裕哉はその正体を知っている。しかし、それは言わないと決めたため、支部長にそのことは言っていない。それでも、裕哉がぼろを出して支部長ないしは他の人に正体がバレる危険はある。だからこそ、狙われていることは伝えておかないといけないと思ったのだ。
それで、言いたいことを言い切ったのだが…。
「で?言いたいことは、これだけ?」
「そうだけど」
「そう。じゃ、これで」
「ちょ、ちょっと待って!もう一つ、もう一つあった!」
そう言うと、裕哉は学生治安維持委員会も雫の正体を探っていることを教えた。裕哉もその一人だろ、と言われれば何も言えないのだが、それを伝えてくる裕哉を見て雫はその点を特に問題視してはいなかった。
「はぁ、それならあんたも一緒に来なさい」
「え?」
「あんたが担当する場所に私がいればいい話でしょ?」
「それは…そうだね」
「…さ、行きましょ。今かなり時間をオーバーしてるの」
雫はそう言って、裕哉の前を走り出した。裕哉もその後に続く。時間をオーバーしているとは、つまり今日のターゲットとのコンタクトする時間なのだろうか。それを聞いてもいいが、機嫌が悪くなるか、だんまりで押し切られそうなので、裕哉は特にその点に触れないことにした。
数分後、雫が急に止まるとフードを深々と被った。おそらくターゲットが近くにいるので、顔を見られないようにするためだろう。裕哉は、特に顔を隠す装備を持っていないし、なんなら外出のために学生治安維持委員会のバッジを胸につけている。見られれば、その正体は一目瞭然だろう。そのため、歩き出した雫の迷惑にならないように、距離を開けて少し遅い速度でついていく。
「あれが…」
少し大きめの歩道の真ん中に、一つの人影があった。学生治安維持委員会に入りたての裕哉でもわかる。超能力者の中でも、上位に入るくらいだと。それでも、雫は苦戦しない。その考えは変わらなかった。
裕哉の考えの通り、気づけば終わっていたようで、雫の横には人影が倒れていた。周囲に誰もいないことを確認してから、裕哉もその場所に走っていく。
「お疲れ様」
「お疲れ様って、あんたねぇ…ま、いいわ。それよりも、気になることがあるし」
「気になること?」
「えぇ、足りないの。今日のターゲットは、四人組だったはずなのに…」
雫の言っていることが本当であれば、あと三人こいつの仲間がいることになる。しかし、周囲のその気配は感じられない。それは、雫がその三人がいないことに疑問を感じていることからも、確実だろう。
原因として考えられるのは、雫が言っていた時間をオーバーしているということのみ。しかし、それならなぜ一人だけここにいたのか、という疑問も浮かんでくる。
「はぁ、仕方ないか。今日はここまでにするわ。深追いしても仕方ないし」
「やけにあっさりと引くんだね?」
「私は力をあまり使いたくないの。だから、バラバラになられてたんじゃ、お手上げね。それはむこうも知ってるから、問題ないと思うわ」
気になるワードがいくつも出てきたが、裕哉はそれについて特に言及はしなかった。名前を聞いたのは、それだけは知っておきたかったからであって、それ以上踏み込むつもりはない。それに、あのときは状況が状況だったから教えてもらえただけで、今は無理だろう。
「それじゃ、私は帰るわ」
雫はそう言うと、裕哉の前から姿を消した。どこに帰るのか、気になりはしたが、踏み込まないと決めたため何も言わなかった。それに、伝えたいことはもう伝えきったため、おそらくもう会うこともないだろう。
裕哉は、言葉にできない寂しさを感じていることに気が付きつつも、それを表に出すことはなかった。
「よし、支部長と合流するか」
その旨を伝えるために、裕哉は蓮介宛てにメッセージを一通送信した。しかし、数分経っても返信が返ってこない。
嫌な予感がする。と、裕哉の直感が伝えてきた。急いでこの場を去ると、蓮介が担当している場所を目指して一心不乱で走り出した。




