後始末 ーその2ー
裕哉が目を覚ますと、知らない天井が目に入ってきた。少し体を起こそうとして、自分の体から痛みが引いていることを感じ取った。
「ここは…」
どうやら屋敷でぶっ倒れた後、駆けつけた救急隊員に発見されて、そのまま病院に運び込まれたらしい。日付は変わっていないようで、あれから数時間しかたっていないようだった。
少しして、裕哉の病室の担当の看護師が来て、どういう状況なのかを軽く聞くことにした。看護師の話によると、裕哉は打撲などのけがはしていたものの、骨折はしていなかったため今日中に退院できるそうだ。そのため、裕哉は退院の準備を始めた。
準備が一通り終わったころ、病室の扉がゆっくりと開く音がした。
「大丈夫?」
「雫、見舞いに来てくれたのか?」
そこにいたのは、雫だった。顔つきを見るに、やり残したことは全て、やり終えてきたのだろう。
「そ、そうよ。悪い?」
「ううん、嬉しい」
目線を合わせない雫に、裕哉は優しくそう言った。本心で嘘一つない言葉だったために、雫の心に突き刺さった。数秒その場に動かなくなったが、とりあえず何か話題に出そうとしゃべろうとした瞬間だった。病室中に、裕哉のスマホの通知音が鳴り響いた。
「!…なぁ、雫。ちょっと、付き合ってくれるか?」
「へっ?!」
「会ってほしい人がいるんだ」
そう言って、裕哉と雫は病室を後にしてとある場所へと歩き出した。と言ってもそこも、病室なのだが…。
扉の前に着くと、裕哉はノックをして中の状態を確かめる。「どうぞ」と言う返事が返ってきたので、裕哉は扉を開けた。
「失礼します」
「よく来たね、裕哉」
そこは、蓮介の病室だった。裕哉が雫に合わせたい人とは、蓮介だったらしい。
雫は始め、裕哉の後ろに隠れていたが、裕哉に後押されて姿を現した。
「君が、裕哉を助けてくれた子だね。ありがとう」
「別に…」
雫にいつもの威勢がない。初対面の人と話すのが苦手なタイプではないと思うが、どうしてなのだろうかと、裕哉は不思議に思っていた。おそらく、蓮介の雰囲気にあてられたのだろう。どこか大人びている雰囲気に、調子が崩される雫だった。
そんな雫はお構いなしに、蓮介は話を続ける。
「君に頼みがあるんだ。月詠雫、学生治安維持委員会第十三区画支部に来てくれないかい?」
「?!」
思いがけない提案に、裕哉の方が驚いてしまった。
もちろん何もなしに蓮介がこんなことを言っているわけではない。提案をするからには、それ相応の理由を蓮介は持っていた。
「あの写真についてだが、どうやら念写能力によって取られたものだそうだよ。だから、複製はできてはいないと思うけど、完全にそうとも言い切れない」
あの写真とは、雫と裕哉が映っているものだ。あれのせいで、奴らに『マッドキラー』の正体がバレてしまった。
「あれと共に『マッドキラー』の正体が君だと広められては対処のしようがなくてね。君が学生治安維持委員会に入っていてさえくれば、言い訳はどうとでも出来る。どうだい?」
つまり、蓮介は雫を学生治安維持委員会に入れて、その身を守るつもりなのだ。それは、雫にとっても良いことで…。
「そうね…確かに、変な噂を広められては面倒だし…」
すぐにハイと言い切れることではないが、すぐにノーとも断れない。雫は、真剣に考えて、一つの答えを出した。
「わかったわ。ただし、一つ条件があるわ」
「条件?」
蓮介にとって、雫を守るために学生治安維持委員会に入れたいのもあったが、それ以上に戦力としてとても期待していた。そのため、無茶難題だったとしても、できる限り要望に応えるつもりだ。
「えぇ、裕哉と同居させてくれたら、入ってあげる」
「同居?!」
やっぱり驚くのは、裕哉の方だった。蓮介はと言うと、じっと裕哉を見つめていた。
「いいかい?裕哉」
蓮介は優しく言ったが、その圧はすさまじく、裕哉は抵抗することができなかった。
「わ…分かりました」
二人は病院を後にして、バス停まで歩いていた。
裕哉が了承したことで、雫の学生治安維持委員会入りは決定した。試験とかどうするのかと言われれば、実技は問題ないだろう。筆記についても…多分大丈夫なはず…。と、不安を募らせる裕哉の横には、ルンルン気分でステップをする、雫がいる。
「いい?裕哉。あなたが言ったのよ?逃げるなって。責任、取って頂戴ね?」
そういう雫の顔は、フードと日傘に隠れていてよく見えなかったが、頬が赤くなっているのは確かだった。
これが後に『吸血姫』と呼ばれる少女の、誕生物語である。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。是非、『私の箱庭』シリーズの他の作品もよろしくお願いします




