後始末 ーその1-
「さて…と。あんた、覚悟はできてる?」
部屋の空気が凍る。雫のオーラが、先ほどよりも強く大きくなったからだ。それは、この場の三人の中で最も大きく、他が霞んでしまうほどだった。
雫は、深紅の剣を握って、ゆっくりとスーツの男の方に歩んでいった。
「覚悟?何を言っ…」
勝負は一瞬だった。気づけば、裕哉と雫の前から、スーツの男の姿が消えていた。そして、零コンマゼロ三秒後に、部屋中に轟音がこだました。
周囲を見回すと、裕哉から見て右の壁にスーツの男が突き刺さっていた。音が遅れて聴こえてくるほどの速さで、叩きつけられたのだ。意識はなく、完全に伸びているようだった。
「終わったの…か?」
「えぇ、これで終わりよ」
その後、裕哉は救急車と警察を呼んで、その到着を待っていた。雫には、この場をすぐに離れるように言った。
雫は、裕哉の言うとおりにフードを深々と被って、この屋敷を後にした。どうやら、やり残したことを終わらせて来るらしい。
裕哉が救急車を呼んだのは、雫にそう言われたからだ。自分の体がボロボロのことは、自分が一番わかっている。でも、始めは呼ぶつもりはなかった。今回のことはほとんど自分のせいで起きたもので、その罰をこの痛みで補おうとしたからだ。
「あんた…やっぱり、バカじゃないの?これに関しては、完全に私が悪いの。あんたが、思いつめる必要なんて、全くないわ」
雫にそう言われて、裕哉は思い直した。結局、その言葉に負けて救急車を呼んだというわけだ。
まだ日は登り切っていない。つまり、朝飛び出してから、それほど時間が経過していないというわけである。裕哉は、ボコボコにされたり超能力を使ったりで、体が悲鳴を上げていて…雫がいなくなって気を抜くとすぐに、ぶっ倒れて眠ってしまった。
裕哉のもとを去り、雫が向かったのは、今日の朝に謎の存在と会っていた場所だ。
「終わったのか」
「えぇ」
雫は、事の顛末を話した。謎の存在は、話が終わるまで声を出さなかった。
そして、雫が話終わると、ゆっくりと口を開けた。
「ならば、もう依頼は必要ないな」
「そう…ね。今まで助かったわ、ありがとう」
雫はそう言って、この場を立ち去った。
それから、謎の存在の気配は全く感じられなくなった。また、その声はもう雫の耳には入ってこなかった。
その後、雫はおばあちゃんが入院している病院に来ていた。
「よくきたねぇ、雫」
「おばあちゃん」
雫が、お見舞いに来るのはこれが初めてだった。おばあちゃんが無理をして倒れたのが、自分のせいだと思っていたからだ。ここのところは、裕哉と似ている。雫も一人で抱え込みがちなのだ。だから、裕哉が受け入れてくれたことで、少し気が楽になってここに足を運ぶことができた。
「私ね、店を閉めて息子たちと一緒に暮らすことにしたの」
「そうなの?仲直り、できたってこと?」
「えぇ、息子は未来都市で暮らすためにお金を稼ぎに家を出たそうよ。それでね、いい仕事を見つけて、いいお嫁さんをもらって、生活が安定してきたから一緒に住まないかって、言われたんだよ」
そう言うおばあちゃんの顔は、幸せに包まれているようだった。
「そっ…か。よかったね、おばあちゃん。それじゃ…これで、お別れだね」
「うん。ごめんなさいね、またあなたを一人にして」
「ううん、大丈夫。だって、私はもう一人じゃないから」
雫は病室を後にした。これでもう思い残すことはない。後は流れに身を任せて、自分のやりたいことをするだけだ。そう、雫は心に誓うのだった。




