女王の目醒め ーその1ー
「ここか…」
裕哉は、写真の裏に書かれた場所に来ていた。そこは、市街地から外れた場所で、今は使われていない廃墟だった。
扉はボロボロで、何かに引っかかる感触があった。思いっきり引っ張れば壊れそうだったため、そっと腕を動かす。ギギギ、と音を立てて大きな扉はゆっくりと開かれた。
「暗いな…来たはいいが、どこに行けばいいんだ?」
そう言って、裕哉が周囲を見渡した瞬間。バタンッ!という音が、裕哉に耳に響き渡った。と同時に、屋敷から光が奪われて、漆黒の世界に包まれてしまった。
光を付けようと、スマホを取り出したその時、何者かに殴られて手から離してしまった。そして、腕に何かを巻き付けられる感覚があると、急に倦怠感が裕哉を襲う。
「うっ…!!」
そして、意識が遠のいていき…。
目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。裕哉は、手錠を掛けられて拘束されていた。スーツの男とその部下と思われる人物がいることだけは、なんとなくだが瞬時に分かった。
「起きたか」
「お前は…」
「単刀直入に聞く。連れてこいと言ったあの女は、どこへやった?」
女とは、雫のことだ。裕哉といたところを撮られてしまったため、今こんなことになっている。
「さぁ?知らないね」
「はぁ、お前は自分の置かれている状況を何もわかっていないようだ」
そう言うと、スーツの男は隣にいた部下の男に命じて、裕哉の拘束を解いた。
「なぜだ?」
「人ってものは、一方的な要求はのめないんだ。これで対等だろ?」
そんなことない、と裕哉は言いたかったが言い出せなかった。それを言ってしまえば、また拘束されてしまうかもしれないからだ。
スーツの男が言う対等とは、一方的な殴りではなく、裕哉にも勝つチャンスを与えたということだろう。しかし、そんなもの関係ない。そもそも、裕哉は敵のことを知らない。超能力者であるのは間違いないだろう。それも、戦闘特化の。
裕哉は、超能力者ではあるが、まだその扱いに慣れていないどころか、理解すらできていなかった。
「くっ…!!」
対人戦は、学生治安維持委員会の訓練内容にもあるし、そもそもあのとき助けられてから毎日欠かさずトレーニングはしていた。敵が超能力を、使わなければ勝機もあるだろう。使わないはずないのだが…。
「ぐはっ!!」
何とか攻撃を防いでいたが、限界が来たか渾身の一撃が裕哉の腹に、クリーンヒットしてしまった。
「はぁ、頭を使えよ。なんでわからない?俺達には向かっても、いいことは何一つないぞ」
地に伏せる裕哉の前まで、スーツの男がゆっくりと歩いてきた。
「お前に渡した写真が、何で一枚だと思った?俺達に従わなかったら、その写真がばら撒かれるかもしれないと思わなかったのか?」
裕哉の頭を踏みつけながら、冷酷に重い言葉でスーツの男が言葉を紡いでいく。事実、あの写真が世に出回れば、雫が『マッドキラー』だとバレてしまう。そして、裕哉もそれを隠していたとして、最悪の場合、学生治安維持委員会にいられなくなるだろう。
それでも、裕哉は口を割らない。スーツの男がそれをしない理由に、心当たりがあったからだ。
「それは…ないな!!それをすれば、『マッドキラー』は消える。お前たちの目的を考えれば…それは嫌だろ!」
「へ~。わかってるんだな、それは」
スーツの男は、足をどけて椅子の位置までゆっくりと戻っていく。その隙を裕哉は見過ごさなかった。重い体を持ち上げて、裕哉は立ち上がる。そして、右手に力を込めて思いっきり殴りに行った。
しかし、それは部下の男によっていともたやすく防がれてしまった。
「これは…バリア?!」
「そうだ。彼は優秀な右腕でね。だから、お前が俺に指一本でも触れることはできない」
次の瞬間、裕哉は蹴とばされ入口の扉をぶち破った。そしてそのまま、廊下の手すりにぶつかった。
ここが廃墟だということを思い出してほしい。重い物体が速い速度で手すりにぶつかったらどうなるか。誰でもわかるだろう。その衝撃に耐えられず、手すりは折れて、裕哉は下へ真っ逆さまだ。
「写真がだめなら次はお前だ。お前を使って、あの女をおびき出す」
その言葉を聞いているときには、もうすでに裕哉は宙に浮いている。下は暗闇に包まれているとはいえ、建物の外観から判断するに、ここは三階以上。つまり、落下の衝撃を防げなければ、重症は確定する。
さらに、建物の一階にはゴロツキと思われる人物が密集していた。このままいけば、地面に着く前に裕哉はやられる。どうするべきか、頭をフル回転さえたが解決策は浮かばない。
このまま、やられてしまうのかと、そう思った瞬間。下にいたゴロツキ達が、一瞬にして地面に倒れていた。そして、落下する裕哉は一人の少女に抱きかかえられた。
「大丈夫?!」
「雫…?」
裕哉を抱えた、雫はそのまま奥の部屋まで走りこむと、その場に倒れてしまった。




