9.剣術大会の報奨は…
「剣術大会ですか!?」
ルーカスはアンセルムとスヴェンの元を訪れ、剣術大会を提案した。
「はい。陛下がオークランス卿の実力を見てみたいと仰っていまして、どうせなら国内騎士の剣術大会を催そうかと。力試しにもなりますし、この成績を参考に配置換えを行ってもよろしいかと」
スヴェンはルーカスの言葉に「あっ」と声を漏らした。
「どうした?スヴェン」
「もしかして、あれは、私の剣術を見てみたいということだったのだろうか?」
「?」
「父と騎士の手合わせ中にお声をかけてくださったんだ、『貴方も中に入られますか?』と」
女王をよく知るルーカスはスヴェンの考えを否定した。
「いや、それは純粋にそう思っただけだと思うが。陛下はあまり含ませた物言いをしないから、あの時君の剣術を見たいと思っていたら『貴方の剣術が見たいです』とはっきり仰るだろうな。それに私からしたら君の横にいて君との会話を楽しまれているようにお見受けしたけどな」
「私もそう思ったぞ」
アンセルムもその考えに同意した。
「…そうなのか」
スヴェンはそうであったら嬉しいと顔を緩ませた。
「それで?剣術大会の詳細は?」
アンセルムの問いにルーカスは大会の大枠を伝えた。
「根本にある目的はオークランス卿の実力を見ることですが、近衛騎士団の士気を高めることも目的としています。それに伴いまして、各騎士団からも参加者を募る若しくは各団長が推薦し、場合によっては報奨も用意し、更なる高みを目指している者にとっては実力を披露する場にしてもらえたらとも思っております。適材適所の見直しも行おうかと。細かい出場条件などはオークランス辺境伯とご相談したいとのことでした」
「なるほど。私の考えも考慮してくれるのか」
「はい。将軍でいらっしゃいますから」
「だったら、参加者の選定は各騎士団団長が行おう。その基準は各団長に任せる。但し、ある程度の実力者には出場してもらいたいので、各団体の小隊長以上から2名は必須とする。参加者についてはこんなところでどうだ?」
「はい。よろしいかと思います。競技内容はいかがいたしますか?」
「内容か。トーナメント方式だろう?第二騎士団では剣が離れても武術を使って相手が降参するまで戦うのだが、近衛では過去の大会はどのように?」
「前回は剣を打ち落とし奪う若しくは相手が降参するまででした」
「なるほど、あくまで剣を使用し再び手に取れれば続けるということだな。では前回と同様が良いだろう。その他の細かい部分は近衛のやり方に合わせてくれ」
「承知しました」
「まあ、どんな条件であれスヴェンが優勝するだろう」
「え?私がですか?父上は?」
「私は出ないぞ。未来のある者たちで競った方が良いだろう」
アンセルムが出場しないとなると優勝の可能性は大いにある。そしてスヴェンがもう1人苦手とする相手がいる。
「ルーカスは出るのか?」
「私は今は騎士団に所属してないから参加条件に当てはまらないかと。でも陛下の命があったらその通りではないかな」
「陛下次第ということか…」
「何であれ優勝しろよ、スヴェン。それでこそ更に箔がつくってもんだろ。陛下の婚約者になるならな」
「それでは優勝の報奨が『陛下の婚約者になること』になるのでは?」
「そう思わせとけば良いさ。急な剣術大会は陛下の婚約者選びのためだったと」
「それはあんまりだ。心証が良くない」
「だったら、婚約については陛下の為にも早めに決断しろよ。何も滞在が終わる時まで待たなくても良いんだ。もし答えが決まっているのならその時点で告げれば良いのだから。準備期間もあるから剣術大会は2週間後を予定している。君はその日まで滞在を延長すると良い。そしてその前にはっきりさせれば良い話だ」
「こればかりはオークランスの問題になる。婚約については私が決断することではない」
「おーい、2人で盛り上がっているところ悪いが、私はスヴェンの意志を尊重するつもりだが?」
スヴェンとルーカスが女王の婚約者について揉めているとアンセルムが口を挟んだ。
「父上!?」
「このことに関してはオークランスの分岐点ではあるが、私としてはどちらを選択しても構わないと考えている。陛下との結婚か、嫡男としてオークランスに留まるか。決断は急がないが後悔しない方を選びなさい」
アンセルムは『王配になること』ではなく、『陛下との結婚』と表現した。そう、スヴェンが悩んでいるのは地位ではない。
(父上は私の意見を尊重すると言うのか!?)
貴族である以上、当主の命に従わなければないにも関わらずだ。
「私がオークランスを継がなくても問題ないのですか?」
「うーん、そう言われると厳しい部分もあるが」
アンセルムは顎に手を当て唸った。
「私はお前がどちらを選択してもオークランスに損はないと考えている。まあ、自分の将来についてじっくり考えると良い。カールグレーン卿、もう話は終わりかな?」
「あ、はい。では剣術大会について決まり次第お知らせ致します」
この先はオークランスの問題だとアンセルムが話を打ち切ったと感じ取ったルーカスは退室することにした。そこへ入れ替わるようにエメリが入室してきた。
「ここにいましたの?」
両手に花と購入品を抱えているエメリと侍女と侍従がいた。
「これはずいぶんと…!楽しめたかい?エメリ」
先程とは変わって柔らかい表情になったアンセルムがエメリを迎えた。
「とっても満喫できましたわ。お買い物三昧になってしまいましたが、次回はアリシア様と観劇するお約束をしましたのよ」
「「アリシア様!?」」
アンセルムとスヴェンは驚いて声をあげてしまった。
「あっ!私としたことが。今日の陛下は私的なお出掛けだから友人として楽しみましょうとお名前で呼ぶようお声かけくださったのよ。私は友人というより娘のように思ってしまったわ。娘がいたらこんな感じなのかしら?」
どうやら女王と順調に親睦を深めているのはエメリのようだ。そしてエメリの言葉にスヴェンの胸中は複雑だった。
(母上の娘に彼女がなることはない。彼女がオークランスに入ることはないのだから…)
オークランスに嫁に来ることはない。こんなに楽しそうなエメリを目の前にしてさらに悩みは深まるばかりだった。
「しかし買い物はわかったが、この花はなんだ?花束とも言えん状態だが?」
「あ!これでしょう?凄いですわよね!陛下が民からもらったお花なのよ?それを分けてくださったの。陛下への敬愛を示してお花をお渡しする習慣があるそうなのよ。知ってました?私知らなかったわ。それに、スヴェンが貰ったたくさんの花束の理由もわかりましたの。この『敬愛の花』から派生して王都では一目惚れした異性にお花を渡す習慣もあるんですって!『恋慕の花』というらしいんですが、これを題材にした劇が上演中だそうなので今度観に行く予定ですのよ。あ、というわけで、スヴェンは王都観光は止めておきなさいね」
普段、口数が少ないわけではないがそこまで多くもないエメリの饒舌ぶりにアンセルムもスヴェンも目を細めた。
「母上、王都観光は止めるとは?」
「もう!ここに来る道中も女性に囲まれ花を受け取ったでしょう?これが『恋慕の花』なのですよ。貴方は今陛下の婚約者候補でしょう?あまり他の女性に囲まれるというのは好ましくないわ。それとも辺境伯嫡男の婚約者探しでもしますか?」
「止めておきます」
スヴェンは即答した。
(婚約者探し?とんでもない。彼女に惹かれてるというのに他の女性なんて考えられない)
もう答えは出ているようなものなのに、決めきれずにいた。
「エメリ、次の予定があるのだな。それでは領地に戻るのは私だけにしよう」
「もう戻られるのですか?」
「剣術大会が催されることになった。陛下がスヴェンの実力を見たいそうだ。それに伴って我が騎士団からも参加者を選定する。正式な大会の知らせを受けたら私は一度領地に戻るよ。エメリはスヴェンとゆっくりしていると良い」
「そうなのですか?私はあなたとも王都を巡りたかったのですけど…」
「ハハッ。おそらくその機会はあるさ。さあ、疲れたろう?部屋へ戻ろう」
エメリの腰に手を添え、アンセルムは寄り添うようにエスコートしていった。その後ろを荷物を抱えたままだった侍女と侍従が付いていった。
(部屋に立ち寄らず真っ先に父上に会いに来たのか?相変わらず仲が良いな…。私もあのように…)
二人の愛の形を見たスヴェンは、今まで漠然としていた理想の夫婦像を改めて思い描いたのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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