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8.敬愛の花と恋慕の花

翌日、天気にも恵まれアリシアはエメリと王都の街へ繰り出した。


「本日は陛下直々にご案内していただけるそうでありがとうございます」


「いえ、実は私も王都の街を私的に巡ることはほとんどしてませんでしたのでいろいろしてみたいことがあるのです。本日の王都観光は友人として楽しみましょう。エメリ様とお呼びしてよろしいですか?私のこともアリシアとお呼びください」


エメリはアリシアの提案に驚きと喜びが入り交じり、涙を浮かべながら了承した。


まずは仕立て屋へとやってきた。


「急な対応感謝します。お忙しかったでしょう?」


「いえ、陛下のおかげでございますから。陛下が私どもの衣装をお召しになるだけでたくさんのご婦人やご令嬢からの依頼が殺到するのです。ありがたいことでございます」


美しいアリシアが身につけた物はすぐに王都での流行りとなる。その為アリシアは不平等にならぬよう良い才能を見つけたら必ずその職人に1度は仕立てさせるのだが、実はこの店が1番のお気に入りだったりする。


「今回は私の友人の衣装をお願いしたいのです」


「陛下のご紹介でしたら是非とも私どもにお任せくださいませ」


「それは良かったわ。エメリ様、こちら今最も予約がとれない職人なのですよ。仕上がりにお時間をいただくかもしれませんが採寸をされていきませんか?私から贈らせて頂きます」


「まあ!そんな滅相もございません。私も衣装は手に入れようと考えておりましたから自分で購入致しますわ」


エメリは驚いた。元々王都では流行りの物を手に入れる予定でその候補に衣装もあったからだ。


「いえ、お近づきの印です。これも何かのご縁ですから是非受け取ってください」


「アリシア様…、わかりました。ありがたく頂戴いたしますね」


こうしてエメリは採寸し、彼女に似合うような衣装を依頼した。


この後、服飾店で鞄や靴などを購入し、食器や家具などのアンティークも見て回った。


堂々と友人だと呼べる相手のいないアリシアにとって、貴族女性と買い物に興じたことが何より楽しかった。


「お次はこちらです。王都で最も流行っている菓子店だそうです。ですわね?ミア」


「はい。本日は貸し切りになっておりますから、存分に御堪能ください」


「まあ!貸し切りですか!?」


エメリは再び驚いた。


「はい。ですのでごゆっくりなさってください」


この日は定休日だったが依頼し店を開けてもらったのだった。店側としても女王の来店による混乱が避けられる為都合が良いと快く応じてくれた。2人は休憩がてら喫茶を楽しむことにした。


「甘いものはお好きですか?」


「はい!…まあ!こんなにたくさんあるのですね!迷ってしまいますわ」


「私はこちらを。エメリ様、食べきれない分や気になるお菓子は手土産にして王宮で堪能しましょう。遠慮なく選んでくださいね」




「とても美味しいですわ。甘さが控えられてるところが良いです。たくさんいただけちゃいますわね」


「ここのお菓子は紅茶と共にいただくのが合うのですよ。これがまた良いと私は思っています。主役にも脇役にもなれる。とても素晴らしいです」


エメリと話も盛り上がり打ち解けてきたところで、アリシアはスヴェンについて聞いてみることにした。


「エメリ様、先日オークランス辺境伯とオークランス卿が書庫で読書を嗜まれていたとお聞きしました。お二人とも本がお好きなのですか?」


もぐもぐと菓子を堪能していたエメリは口の中をすっきりさせると答えた。


「はい。オークランスは武闘派だと思われがちですが実は勤勉で学問も好むのです。夫は動物が好きで図鑑をよく読んでいます。領地の馬の出産も自分でとりあげる程でございます。息子は空が好きで気象や天文学の書籍を読んでいました。よく空を見上げているのですよ」


「空ですか?」


「はい。よく天気の変化を教えてくれます。明日は雨が降るよとか暑くなりそうだから気をつけてといったことでございますわ」


「それは素晴らしいですね」


「はい。詳しいことは存じ上げませんが、おそらく戦術等にも役立てられる知識なのでしょうね」


話が一区切りしたところでエメリは再びパクッと菓子を口にした。


「あら、これも美味しいですわ。そうでした!お茶屋さんはございますか?王宮の物もそうでしたがこのお店の紅茶も美味しいですわね。王都にあるお茶が美味しいのでしょうか?」


「王都には様々な産地の茶葉が集まりますから、王宮ではその年の優れた出来の物を使用しておりますわ。好みもありますでしょうから、試飲してみるとよろしいかと思います。ミア?茶屋に寄っても良いかしら?」


「承知しました」


エメリは始めこそアリシアに緊張している様子を見せていたが、無邪気で朗らかな性格であることからすっかり馴染んでいた。こんな彼女だからオークランスという特殊な環境でも上手く生活しているのだとアリシアは思った。


この日は女王が街を散策しているという情報がすぐに飛び交い、女王を一目見ようと街中に民が集まり始めていた。


茶屋で茶葉を選び終えると外には人集りが出来ていた。


「本日は長い時間街に降りていましたから仕方ありませんわね。エメリ様、騒がしくなってしまってごめんなさい。ここで本日の観光を終わりにしましょう」


「たくさん楽しませていただきました。アリシア様、ありがとうございました」


街の人々はそれぞれ様々な花を手に持っていた。アリシアが姿を見せると歓声が沸き起こり、そして低頭し花を掲げたのだ。


「こんなにたくさんお集まりいただいたのに申し訳ないのですが、本日は私的に散策しております。静観していただけると嬉しく思います。お花はありがたく頂戴いたしますね」


アリシアは子供たちから直接花を受け取ると、馬車に乗り込んだ。他の人々の花はミアをはじめとした侍女や従者らが受け取った。花を受け取ってもらった民衆は両手を振って馬車を見送った。馬車に揺られているとエメリが尋ねた。


「あの、アリシア様?このお花って何なのでしょうか?何か意味があることなのですか?」


「こちらは、簡単に言いますと『あなたをお慕いしています』という意味です。女王の私に対してのお花は『敬愛』とか『国への忠誠』といったところでしょうか」


「意味が異なるのですか?」


「そもそもの発端は、この国の王が女性であったことからだと言われています。女性に贈り物を贈るように、民が女王への愛をお花を贈ることで表現し始めたのだそうです。この習慣は王都の平民の間で根強く残っています。平民は余程のことがない限り女王に近づくことはないですから、機会があった際にこの慣わしをするのです。そしてもう1点はこの国に男女の自然な出会いが少ないということです。この滅多に出会えない女王に敬愛を表現することから派生して、突然出会った素敵な異性にお花を渡し『一目惚れ』とか『お慕いしている』といった想いを伝える手段としてこの習慣が使われるようになりました」


「なるほど、そのような訳がございましたのね」


エメリが納得したのはアリシアに対する花だけではない。王宮への道中にスヴェンが抱え込んでいた花束の理由もここで判明したのだ。


「王都のみのものですし、『恋慕の花』の習慣は20年くらい前からのようですよ。エメリ様がご存知なかった理由はそのようなところでしょうか」


(『恋慕の花』、もし私が女王でなかったら、彼にもお渡ししたのかしら?あなたに好意がありますと表現するのにわかりやすい習慣ね)


「エメリ様、今度観劇をしませんか?確かまだ『恋慕の花』を題材にした劇を上演中だったと思うのです」


「恋愛劇でございますか?よろしゅうございますわね!是非」


こうしてもう1日エメリとの時間を設ける約束をした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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