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6.第一騎士団の視察

「明日、近衛騎士団の視察のお時間を設けることができましたのでよろしくお願いいたします」


連絡を受けたアンセルムとスヴェンは了承した。意外と騎士団の視察を楽しみにしているのはアンセルムの方であった。


「なかなか有望な者は引き抜きでもするかな」


「しかし、存在の目的が違いますから本人が希望しないのでは?」


「はっはっは。まあ、お前と手合わせした所で通用する者がいるとは思えんからな。そんなに期待はしていない」


「手合わせするのですか?」


「しないと思うが、見学していれば自然と身体を動かしたくなるものだろう?」


「それには同意します」


「まあそんなことよりも、王宮での滞在は陛下と交流しお前が婚約者となるかどうかを考える為だろう?まずはきちんと陛下と会話をするんだな。私やエメリがいないと会話が出来ないんじゃ話にならんぞ」


「しかし!…私には難易度が高すぎます!」


「お前を男ばかりの世界に置いてしまった私達にも非がある。あまりにも女性に不馴れだ。それに陛下は美しすぎる。難易度が高すぎるというのは見ていて理解できた」


そう。昨日の晩餐での女王はとにかく美しかった。露出がほとんどないにも関わらず、髪を結い上げた為に露になった白い首筋から色気を感じ、スヴェンは目のやり場に困ってしまった。ただ無心になることに意識を集中してしまったのだった。


(陛下に関わらず女性というのはどのような会話をしたら喜ぶのだろうか…)


そこへアンセルムが助言をした。


「まあ、明日は騎士団の視察だ。知った顔もいるだろうし気負うことはないさ。純粋に楽しんだら良い」


明日は女王との親睦というよりはスヴェンの王都での視察に付き合ってもらうという感覚で良いのかと、少し力を抜くことができた。



◇◇◇



アンセルムとスヴェンは、女王とルーカスに連れられ近衛騎士団の元へ赴いた。


「陛下、お待ちしておりました」


1人の騎士が女王の前に跪くと彼女の右手を取り軽く口付けた。


「…アロルド、急な視察となりますが対応に感謝します」


この騎士アロルドは近衛騎士団の団長を務めている。続いてアロルドはアンセルムに向き合った。


「私はアロルド・フリーデンと申します。まさかオークランス将軍にお会いできるとは、私は感激しております!」


「こちらこそ、他の騎士団を視察するのは初めてです。急な訪問となりましたが、日頃の皆さんの様子を窺えればと思います」


「とても良い機会となりますね、アロルド。まずは鍛練を見てもらおうと思うのです。案内してくださいますか?」


挨拶を見届けると女王は案内を促した。


しばらくは案内されるがままに鍛練を見て回った。すると1人の男が声をかけてきた。


「スヴェン!なぜ君がここに!?」


彼はエリアス・フランソン伯爵令息で、近衛騎士団に所属する。スヴェンやルーカスの同期生だ。


「やあ!エリアス!久しいな。今王都に滞在中なんだ。陛下に近衛の視察を提案していただいてね。今日はじっくり堪能させてもらうよ」


「君に見られるのか!?それは緊張するな。ルーカスも元気か?急な配属だったが慣れたか?」


「ああ、宰相になることは目標でもあったからな。このために努力してきたから、今はやりがいだらけだよ」


久しぶりの再会に話は盛り上がった。


「そういえば、エリアスは娘が生まれたんだっけ?」


「もう可愛くて仕方ないよ。いつか嫁ぐ時が来ると考えると気がおかしくなりそうさ。ルーカスは?いい加減決まったか?」


「いや、まだだ。宰相になったばかりで忙しいしこれが落ち着いてからかな」


「そういって後回しにしてると婚期逃すぞ。リースベット嬢は年下とはいえ良いお年頃だ。まあ、ルーカスなら相手に困ることはないか。スヴェンは?今どんな感じだ?」


さすがに言って良いのかわからず、スヴェンはルーカスに目配せた。


「スヴェンの王都訪問は婚約者候補に会うためだよ。これからが大事な時だから、そっとしておいてやってくれ」


「おお!そうか。スヴェンはヴァランデルから出てなかったんだろ?漸く話が出たって所か?上手く行くと良いな」


エリアスはニカッと笑うとスヴェンの肩を叩いた。


「皆さん仲がよろしいのですね」


そこに女王が入ってきた。


「陛下!」


エリアスは女王の前に跪くと右手を取り口付けた。先ほどのアロルドもそうであったが、他の騎士たちも女王への挨拶は皆同じであった。スヴェンは驚きで固まっていた。


「どのような関係なのですか?」


女王からの質問にエリアスが答えた。


「私達は士官学校時代の同期生です」


「それでは苦楽を共にした仲なのですね。仲がよろしいのも頷けます。あら?オークランス卿いかがなさいましたか?」


スヴェンは話しかけられ我に返ったが、言葉が見つからず女王を見つめるとその視線を彼女の手元に落とした。


「手?」


手をくるくると返して確認している女王にスヴェンは勇気を出して問いかけた。


「騎士らが陛下の手を取り口付けていたので気になりました」


ああ、と女王はその疑問に納得したのかにっこりと微笑むとスヴェンに理由を述べた。


「彼らの挨拶です。近衛騎士団は私の直属の管轄になります。女王への忠誠を誓う意味で近衛騎士たちはこのような挨拶が慣わしなのです」


スヴェンは王都では女性に対してこのように挨拶をしなければならないのか、それとも女王だからかと考え、更には彼女の手に触れる騎士らにやきもきしていた。最終的によく知るエリアスに嫉妬した所だったのだ。近衛の習慣だと聞き自分の勘違いが恥ずかしくなった。


「騎士の誓いはこのように行うと思うのですが、貴方はどなたかに誓ったことはございますか?」


騎士の誓いは愛する女性に跪き左手に口付けることで行われるのだが、大体は愛の告白やプロポーズで行われる。第二騎士団では戦地に赴く前に『必ず戻る』という意味で愛する女性に行う慣わしなのだが、近衛騎士は女王への忠誠のため口付ける手を右手に変え挨拶でも行うとわかった。恋人も婚約者もおらず今は治安も維持されており大きな争いはないため、スヴェンは誓ったことがない。


「いえ、私はまだ…」


その言葉に女王はふわりと微笑むとスヴェンを見つめ「そうですか」と答えた。


みんな遠慮していたのだが、エリアスが女王一行に近づいたことで他の騎士らも訪問者に興味を示し始めた。女王は知らなかったが、騎士らの間ではアンセルムとスヴェンは有名だったようだ。女王は一考すると、アンセルムに確認した。


「彼らと手合わせしていただけたりしますか?」


「してもよろしいのですか?」


アンセルムは既にうずうずしていたようで、逆に女王に確認した。


「アロルドはどう考えますか?」


「将軍に手合わせ頂けるなんて願ってもない機会です。こちらこそ是非お願いしたい」


息子そっちのけでアンセルムは騎士らと手合わせすると一人一人助言して回った。その間スヴェンは女王の横に並んで見学をすることになった。


「貴方の実力はどれくらいなのでしょう?オークランス辺境伯には勝てますか?」


「いえ、父に比べたらまだまだ未熟です。単純な足さばきや剣さばきは鍛練で補えますが、経験値だけはどうにも。ここぞという時の瞬発力は父に敵いません」


「まあ。それではこの手合わせによる指導は羨ましいのでは?」


「そうですね。今では父から直接指導頂ける機会がほとんどありませんから、正直なところ羨ましいです。第二騎士団では小隊の隊長を担っておりますので、私は指導をする立場にあります。誰かに教えを請う機会は減りました」


「貴方も中に入られますか?」


「いえ、それでは近衛騎士らの機会を奪ってしまいます。それに私はどちらかというと手解きをする側でしょう。先程から見ていましても、近衛騎士の動きには品や美しさがあります。第二騎士の動きとは異なりますから手を加えることは止めておきたいと思います」


スヴェンは目を輝かせ、アンセルムの指導を観察していた。気付かぬうちに女王とも自然と会話していた。


◇◇◇


「スヴェン、少しは親睦を深められたか?」


部屋に戻るとアンセルムに問われたスヴェンは先ほどの視察を思い出した。騎士たちに囲まれた環境は自分にとって普通のことであり、自然と振る舞うことが出来たように思う。そして女王と会話出来たことが少しの自信を与えた。


「親睦という程のものではありませんでしたが、陛下と落ち着いて会話ができました。今後はもう少しお話も出来るかと思います」


「早い段階で視察が出来たことが良かったな。それに私も楽しめた」


「誰か有望な者はいましたか?」


「うむ、センスの良いものもいたが、やはり適材適所というものがあるものだな。とても上品な剣術であった」


将軍であるアンセルムが自分の感じたものと同じ考えを持っていたことに、これもまたスヴェンの自信につながるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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