4.招待という名の縁談
「ようこそお越しくださいました、オークランス辺境伯。ご挨拶遅れ申し訳ございません。この度宰相を引き継ぎましたルーカス・カールグレーンです。以後お見知り置きを」
オークランス一行を出迎えたルーカスは挨拶した。
「君はカールグレーン侯爵令息だったな?父親はどうした?」
「辺境伯と父はお知り合いでしたね。元気にしております。この度陛下の命により世代交代したため宰相は私になりましたが、カールグレーン侯爵家当主は父が務めておりますよ」
「そうであったか。王宮への招待であったから妻も帯同させたのだが問題なかっただろうか。会談に不要であれば待機させるが…」
「いえ、その必要はございません。ぜひ夫人も同席ください」
「では、こちらへ」とルーカスは案内を始め、スヴェンの横に並ぶと声をかけた。
「やあ、スヴェン。久しいな。変わりはなかったか?」
「ああ。私は変わりない。君は後を継いだのだな」
「職務だけね。急ではあったが、だからこうして会えたのだよ」
「?」
ニコニコと愉しげなルーカスの様子にスヴェンは首をかしげた。
「私が君を指名したんだ」
「指名?何に?」
さらに告げられた言葉に、ますます首をかしげることになった。
そうこうしているうちに、応接室へとたどり着いた。
「こちらへどうぞ、陛下をお呼びいたします」
エメリは装飾や家具に興味津々だ。
「まぁ、素敵ね~。王都の職人技なのかしら?」
「こらこら、一応君は辺境伯夫人なのだよ?気持ちはわかるがおしとやかに頼むよ」
エメリも嫁いでからは領地から出ていない。王都の流行りも知らないからはしゃぐのはわからなくもない。エメリの様子にアンセルムは目を細めた。
(女性には愛想良く…。どうやって?)
道中のエメリの言葉にスヴェンは頭を悩ませた。
(これからお会いするのは女王陛下だ。一国の王だけど女性。それに爵位を継いだらお会いする機会もあるだろう。今後に影響する。第一印象は大切だ)
そこに女王の入室が知らされた。3人がソファから立ち上がると腰を低くし低頭し女王を迎えた。するとカツカツと足音が聞こえ3人の目の前で止まった。
「どうぞ、顔をおあげになって」
3人が顔を上げると、そこには透き通るような白い肌に、エメラルドのように輝く大きな瞳を持ち、ブロンドの長い髪をハーフアップにした女性が凛と立っていた。声音は鈴の音のように優しく響き、その姿は神々しくもあった。
「どうぞ、おかけになって」
ふっと優しい笑みを浮かべた女王にスヴェンは釘付けになった。
「スヴェン、早く掛けなさい」
(…はっ)
アンセルムに声をかけられたことで、女王に見とれていたと気付かされスヴェンは恥ずかしくなった。
「遠路はるばるお越しいただき感謝します。本来でしたら私の方からオークランス領にお伺いするのが望ましいかと思いましたが、オークランスが特殊な環境であったが為にこちらにお願い致しました」
「いえ、ただでさえ女性の安全が保証されにくい地です。陛下がわざわざお越しいただくことはございません。こうして陛下にお会いできたこと嬉しく思います」
また女王は優しく微笑むと、まずは謝罪から始まった。
「恥ずかしながら、今回ヴァランデル地方がお座なりになってしまったことが発覚致しました。ヴァランデルは女人禁制であるが故、代々王配が管理しておりましたが、父が2年前に逝去して以降本来であれば宰相が代理を務めるはずでしたが訪問の記録が確認できませんでした。そこで直接お詫びを申し上げたかったのです」
「わざわざお心遣い感謝します。そのことで宰相が代わったのですか?」
「いえ、宰相を代えたから発覚したのです。理由は別のことにございます。それが皆さんをお呼びした理由でもあるのです」
何事かと3人は姿勢を正した。
「私は以前からそろそろ結婚を考えるようにと言われていました。私はお相手に優秀な方を望んでおります。私の周りではルーカス・カールグレーンこそが優秀であると認知されておりましたが、そのルーカス・カールグレーンに最も優秀だと思う者を尋ねたところ、スヴェン・オークランスの名が挙がりました」
「「「えっ!?」」」
アンセルム、エメリ、スヴェンは他人事だと聞いていた女王の結婚の話にスヴェンの名が上がり愕然とした。
「そこでスヴェン・オークランスを私の婚約者候補としたいのです。辺境伯、こちらへの滞在は何日間を予定しておいでですか?」
「…10日間です」
アンセルムは暫し考えると答えた。
「そうですか。私も自身の事情を鑑みても婚約者探しに時間を割けません。もし可能でしたら、この王都滞在期間中に彼と私との時間を可能な限り設けていただけますか?それを踏まえてご相談の上、私と婚約しても良いとの決断が頂けましたら正式に婚約していただきたいのです」
「この婚約は王命という訳ではないのですか?」
「ええ、辺境伯側の事情もございましょう。彼は嫡男であるとお聞きしております。私との結婚ということは彼が婿入りとなり、この国の王配となるのですから」
「あの、しかし陛下が息子を婚約者候補から外したいとお思いになる可能性もあるのでは?」
「ええ。その可能性もございましょう。しかし現時点ではスヴェン・オークランスで間違いないと思っています」
突然の打診にエメリとスヴェンは唖然とし固まったままだった。
この後は、女王から王都での滞在場所として王宮の客室を用意してあると提案があり、侍女らに案内させた。さらにこの日の晩餐にも招待され、その準備も始めることになった。
◇◇◇
「あんなに美しい人が私の妻になるなんて…」
「プハッ!まだ決まっておらんぞ!そもそもお前の妻になるというよりはお前が彼女の夫になるんだよ」
心の声にアンセルムが反応したとスヴェンは驚いたが、心ではなく声に出てたと気付きその場で固まった。
「まあ、どうしましょ!あなたっ!こんなことってあるの!?女王陛下との婚約の打診だなんて!それにしても近くで見る陛下は美しかったわねぇ。ね?スヴェンもそう思うでしょ!?」
「はははっ!さっきそう言っていたな。それに陛下はご自身の武器もよく心得ておられる」
スヴェンはどこかで聞いた台詞だと思ったが、彼女の美しく優しい微笑みが脳内から離れない。自分は既に彼女の虜となっているのだろう。自分が誰かを虜にする前にまんまとやられてしまった。
「スヴェンにも時間がないと思っていたから、どちらからか婚約の打診があればそれに決めてしまおうと思っていたが、そのお相手がまさかの女王陛下とはな」
「あなた、どうします?」
「うむ。スヴェンを跡継ぎにとしっかり教育してきたからな。オークランスとしては非常に手痛い」
顎の下に手を置きアンセルムは暫し考えたが、横目で見たスヴェンの様子に目を細めた。
「エメリ、見てみろ」
二人の視線の先には、頬を上気させて惚けているスヴェンの姿があった。
「陛下は優秀な者を伴侶にと言っていたな。スヴェンのやつあの状態でしっかり務められるだろうか…」
「今のスヴェンは普段の姿からは想像できませんわね。優秀さが伝わると良いのですけれど…。それに女性のお相手が務められるかどうかが問題ですわ。今の状態では会話すら怪しいですもの」
視線の先の息子を案じた。
「陛下は王命ではなく、縁談を持ちかけてくださった。期限は10日間か…。正直なところオークランスにとっては悪い話ではない。スヴェンがどう思っているかだな」
「?」
エメリにはアンセルムの考えがわからなかった。
当のスヴェンはというと1人悩んでいた。
(相談というのは私の婿入りが可能かということか。それに私で間違いないと思っていると仰ってくださったが良いのだろうか?私は愛嬌もなくつまらない男なのだが…)
各々考えを巡らせ、一先ず、晩餐に向けて着々と準備が進められるのであった。
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