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38.【後日譚】女王の結婚

「アリシア姉様!」


リースベットは着飾ったアリシアを前に興奮気味に駆け寄った。


「リー、子供ではないのだから落ち着きなさい」


「わかっております!ですが、本日はお許しくださいませ。とてもとてもお美しいです、姉様!」


この日は女王の結婚式だ。純白のドレスには白い生花があしらわれた。生花で飾るよう指示したのはアリシアだった。森の守護者である一族だと知ってからはより自然の恩恵に感謝するようになり、恋慕の花の風習などもあることから、宝石で飾るよりも自分に相応しいと判断したものだった。リースベット・ベロニウス侯爵令嬢は女王唯一の血縁ということもあり、前室に特別に案内されこのハレの日を祝った。


「リースベット」


先程までとは違い名前を呼ばれたリースベットは、姿勢を正すとアリシアに向き直った。


「ベロニウス侯爵から話はお聞きになりましたか?」


「はい。私たちは血を繋がなければなりません。存在こそが意味のあるものだと」


「ええ。そしてそれは繁栄することではありません。存続させることが重要なのです。だからこそ代々少子だったのでしょう。そのことを心に置いておいてください」


「はい」


王族からは女子しか生まれない。繁栄してしまっては男子がいなくなってしまう可能性があるからだ。


話終えた所で、扉がノックされた。


「準備は出来ましたか?」


スヴェンが入室した。


スヴェンは真っ白な正装で、普段おろしている前髪はひっつめており、凛々しさが増していた。


「素敵です、スヴェン」


すかさずアリシアは声をかけた。


「私よりも先に言われてしまいました。アリシア様、今日の貴女は目映いばかりの美しさです」


本当に輝きを受け眩しいかのように、スヴェンは目を細めて優しく微笑んだ。


「今日のこの日もまた、国民に語り継がれるのでしょうね」


リースベットもまた、優しく微笑んだ。


◇◇◇


ガーデンウエディングとなっている結婚式に相応しく晴天に恵まれた。青々と茂る芝生は柔らかく、緑の絨毯のようだった。


国内貴族の当主が招待され、各々パートナーを携えて参列していた。彼らがこの婚姻の証人となる。


式は滞りなく進み、正式に女王は伴侶を迎えた。



場所を王宮の大広間に移し、お色直しをした二人は招待客を迎えた。一通り挨拶が済むと軽食を嗜みながらダンスを踊った。それはそれは優雅なひとときであった。


「女王陛下、王配殿下、この度はご結婚おめでとうございます」


ルーカスとリースベットが並んで挨拶をした。


「ベロニウス侯爵令嬢、そしてルーカス。次はあなたたちの番でしょうか?」


「新しい宰相が決まりましたら正式にベロニウス侯爵家に入る予定です」


婚姻を結び婿として養子縁組みをする予定だという。そして家門による世襲制の廃止により、カールグレーンが継いでいた宰相は人事を入れ替える予定でいる。


「カールグレーンはなくなりましたから一度退任となりますが、相応しいと判断されれば貴方が宰相になることもあり得るのですよ?採用試験は受けられますか?」


「…よろしいのでしょうか?」


「貴方は王都で最も優秀な男子なのですよね?試験ですから、挑戦は誰でも可能です」


「ありがとうございます。彼女と相談の上、考えてみます」


ルーカスはそう言うと、横にいるリースベットに目配せた。


「ルーカス、いろいろあったが母君や妹君は元気か?」


「殿下。はい。貴族から除籍となりましたが、二人とも健やかです。元々読書が趣味だった母は司書になるべく勉強中です。妹は家庭教師として職についております。今回の法改正で職業を選べるようになりましたから、女性の社会進出が進みやすくなりました」


「『殿下』なんて、何だかくすぐったいな。いつものように呼んでくれても…」


「そうは参りません!私は今貴族ですらありませんし、友人ではありますが今この場でお名前でお呼びすることは出来ませんよ」


ルーカスはスヴェンの呟きに被せるように訂正した。今の二人の関係性はかつてのものとはかけ離れている。


「では、私たちは失礼いたします」


近付く人物に気がついたリースベットはルーカスと共に下がっていった。



「陛下、殿下。この度はご結婚おめでとうございます」


そこにやってきたのはオークランス辺境伯夫妻であった。


「オークランス辺境伯、そして夫人。これまでのご支援ありがとうございます。おかげである程度基盤を整えることができました」


「お役に立てて光栄です」


「殿下、ここからが始まりですね。我々はいつでも貴方のお力となれるよう尽力いたします」


「父…ンンッ。オークランス辺境伯、貴方の忠誠ありがたく頂戴いたします」


「フフフ」


まだ慣れない様子にアリシアは微笑ましく見守った。


「辺境伯、ブルーノ様は卒業を迎えられたそうですね」


「はい。殿下がこちらを離れる前に領地に戻り、第二騎士団第一小隊の引き継ぎを行いました。今年の卒業生は騎士志望者が大変多く、中でも第二騎士団に人気が集中しております。殿下が統括されるかと思いますが、いろいろご相談させていただきたく思います」


「ええ。国のための配慮がなされる人員配置となることでしょう。そして出来る限り個人の希望も反映させたいところですね」


アンセルムと話終えると今度はエメリと向き合った。


「陛下、殿下、とても素敵なお式でした」


いつも陽気なエメリだが、この日は少し感慨深い様子だ。


「辺境伯夫人、あなた方の優秀な御子息を私の元に迎えられたこと、たいへん幸運なことだと思っております。そしてオークランスとの繋がりを持つことができたこともありがたいことです」


「そう仰っていただけるなんて、光栄なことでございます。なにぶん不器用なところもございますから、母親としては心配なところでもあるのです」


「いえ、彼はたいへん優秀です。これまでずっと、次期将軍として上に立ち軍を率いるようにと教育されてきたことでしょう。しかし彼は偉ぶらず、国の維持の為に臣下として私を支持してくれています。己を律することの出来る強さは素晴らしいと思います。不器用だと仰いましたが、真っ直ぐで愛らしいと思っておりますよ。彼に出会えたことに感謝ですし、このように迎えられたことにも感謝いたします」


永遠の別れではないが、王家に入るスヴェンに憂うエメリを安心させようとアリシアは感謝の気持ちを伝えた。


◇◇◇


すべての催しが終わり、アリシアとスヴェンは初めての夫婦の時間を共にすることになった。


「婚約期間をきちんと設けることが出来ましたから、基盤を整えることができました。これからよろしくお願いします」


「こちらこそ、私への様々な配慮ありがとうございます。新しい王配という形が出来そうですね」


王配の誕生により、新しい王家に期待がかかる。特に跡継ぎについては急務だ。


「スヴェン、ここからは夫婦の時間です。私のことを妻として接してくださいますか?」


「もちろんです、アリシア。貴女を愛して良いですか?」


家門を背負うものとして生きてきた二人にとって跡継ぎについては務めだった。しかし、今では務めではなく愛し合う二人として子を授かりたいとも考えるようになった。


果たして、愛する二人の元にやってきた天使はいったいどちらだったのだろうか……


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


次回完結となります。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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