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36.【後日譚】女王の結婚~ベロニウス侯爵の歴史研究②~

「この国の国民は隣国から移民してきた異民族ということですか」


手記の内容を把握したアリシアは、その史実に驚いた。


「初代女王ラウラ様は先住しておられた方だったようです。神に精通しておられたのが本当かどうか定かではありませんが、この地は花は咲き誇り作物に富み、澄みきった川に生き物はたくさん生息している。そして、天災はほぼ無いと言って良いですし、危機が訪れるとしたら人災によるものです。隣国からの侵略を食い止めたという過去がございますからね」


「英雄イデオン・ヴァランデル……」


「ラウラ様の手記にある『その男』というのが、イデオン様なのではないでしょうか?辺境の守護に尽力されたとありますからね。そして、このイデオン様は、移民前は隣国の王子であったという手記も見つかっております」


「亡命してきたということですか!?」


「この手記はベロニウス侯爵邸にございます。先祖の手記です。そして驚くべきはここからです。イデオン様には子息が二人おりますが、次男はオークランス辺境伯家に養子にはいっております。オークランス辺境伯夫妻には子がおらず、あの地を守る為には後継が必須で、必要な措置だったようです。そして直系はその後後継が亡くなり、ヴァランデルの家門はなくなりました。英雄の名が使われた地方名だけが残ることになりました」


「オークランス辺境伯はそのようなことは仰ってませんでした」


「こちらは隠された真実です。オークランスの史実には子息が一人いる家門であるところから始まっているのではないでしょうか」


「では、オークランスは元隣国王族の血筋であるということですか?」


「そうなりましょうか」


血統の濃さを裏付けるような内容に、一同言葉を失った。


「話を戻しますが、歴史書がないのは国民が隣国由来であるからですか?」


「あまり誇れる内容ではないからでしょうか。ラウラ様の手記を読む限りでは、ラウラ様は異民族を歓迎されてないようでしたし、森を守る使命が第一のようですしね。実際、ここに住まう国民以外の人の出入りは滅多にございません。この地で生活するには困ることがない故に、輸出入もありませんからな」


「それと、女子で継がれる理由も記述がありましたね」


「はい。血統を絶やさない。途絶えた場合に本当にこの地が廃れてしまうのかこれも定かではありませんが、『天災がないこと』、『王家は女系であること』、この二点の一致はラウラ様が特別なお方だと示すことの裏付けになりましょう」


「その血を継ぐ王族は特殊であると言って良いのでしょうか?」


「そう私は考えました。この先人災が起こらないとは限らない。そこで私とアンドレアは結婚することにしたんです。血統を遺そうと秘密裏に分家化させました」


ベロニウス侯爵と先々代王妹殿下のアンドレアは恋愛結婚ではなかった。


「その結果には驚きましたね。ベロニウスの家門も女系となった。私はまだ生きているから婿を養子には迎えておりません。当主も孫娘に継がせる予定です。私とアンドレアは王族血統の維持に保険をかけることにしたんですから、当然のことです」


「そのことを先々代女王や先代女王はご存知で?」


「先々代女王にはお伝えしました。その後先代女王にお伝えになったかどうかはわかりませんが……」


身の危険が迫っていることをお二人は勘づいていたのだろう。


「恐れるべきは人災、今回は一歩違えば王族を失うところであったと思います。そして王族を失うことは国を失うことになる。これは知っておくべき史実ではないのですか?」


「しかし、この事実を知れば、陛下対全国民という構図になってしまいませんか?より陛下に危険が及びます。王家の都合の言いように作られたものだと湾曲した捉え方をするものも現れるでしょう」


「では、なぜ今になって、私に全てを明かしてくれたのですか?」


「現実にカールグレーンの謀反が起こったからです。彼の最終目的は王族の排除でした。陛下もリースベットも失えば国はなくなります。その可能性が身近になったことでやはり陛下やリースベットは知っておくべきだと思いました」


「リースベットにはまだ話されてないのですね?」


「陛下にお伝えするのが先だと考えましたので」


この後は歴史書を作るか否か議論を重ねるとし、ベロニウス侯爵はリースベットにも史実を伝えるとした。


◇◇◇


「陛下、御加減は大丈夫ですか?」


アリシアは沢山の情報量に疲弊した。クラースはその様子に気付き、アリシアを気遣った。


「ええ。ちょっと頭が疲れましたわね」


「ベロニウス侯爵様は歴史研究をされていたから知ることになったのでしょうが、先祖の手記にヴァランデル将軍のことが記されているとは驚きでした。他の家門にもそのような物は残っていたりするのでしょうか?それぞれに史実が残っているのではないでしょうか?」


「あるでしょうね。それぞれに、主観的な史実が」


「主観的史実……」


なるほどとクラースは頷いた。


「だからこそ、齟齬が生まれてしまう。全国民共通の歴史把握というものは難しいでしょうね」


「アーロン・カールグレーンがあのような行動に出たことも、カールグレーンの主観的史実があったからなのでしょうか?」


「今考えるならば、その可能性は否定できませんね。オークランスを敵対視していたことにも繋がるかもしれません」


「元王家の血筋ということですか?」


「カールグレーンもベロニウス同様侯爵家です。我が国の爵位では最も高位に位置します。同じようにヴァランデルの真実を知っていたのかもしれません。王家に成り代わりたかったアーロンからしてみれば、目を背けたい事実ですから」


「オークランスのカリスマ性は血筋ということでしょうか」


「その様に育てられたというのもありましょうが、人に慕われるのも才能でしょう。ラウラ様はわかっていたのでしょうね。『その男』は特別だと」


「特別だったならば初代女王はなぜ夫に『その男』を選ばなかったのでしょうか?」


「……、わかる気がするわ」



以降、アリシアは議論をやめてしまった。クラースの中に疑問が残ったが、アリシアの体調を慮り引き下がることにした。




『スヴェン・オークランスで間違いないと思っています』


出会ってすぐにそのような思いを抱いたのは、魂で惹かれたからなのかもしれない。


王位が揺らいでいる時に、より王位が相応しい者が現れたのならば、人々はどちらを指示するのか。それが自分と同じ由来の人物か否かでは、結果は明らかである。だからこそラウラは彼こそ最も信頼を置く人物だったにも関わらずイデオンを伴侶に迎えることは出来なかった。


スヴェンは女王に対する忠誠が厚い。その点はアリシアにとって幸いなことだった。国民に向けてもそのような姿勢を貫き通すことであろう。自分の存在意義を見失いかけていたアリシアは、存在することだけで国の存続に繋がっているのだというベロニウス侯爵の見解に救われた。そして、堂々とスヴェンを伴侶に迎え、国家を維持していこうと覚悟を決めたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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