35.【後日譚】女王の結婚~ベロニウス侯爵の歴史研究①~
「女王の神格化か……」
「いかがなさいましたか?陛下」
アリシアの呟きにクラースは反応した。
「ええ、先ほどのオークランス辺境伯の発言です。『女王の神格化』という言葉がひっかかりました。この国の成り立ちについて私はきちんと把握できてないことに気付きました。手記で遡れたのは二代目までで、初代女王の手記は古語で書かれているため読むことができませんでした。女系で繋ぐことになる以前に、女王から始まっている訳ですからその事が重要なのではと思ったのです」
「それが神格化と何か関係が?」
「女王であるからには何か特別でなければならないと思っています。正直なところ私自身秀でる何かを持っていると思っていません。そこでその特殊性が女子しか生まれぬ女系であるという血統ということです。出産は女性がするものですから誤魔化しようがありませんから、血統は確実なものです」
「逆であれば、后が出産したところで父親が違う可能性が否定できないということですね」
「ええ。だからこそ女系で継がれていることに意味があります。そしてこれが特殊性なのです。もし男子が生まれたならば、血統の強さが証明されてしまう気がして……、オークランスが優れていると……、となるとオークランスこそ王に相応しいとなりませんか?」
「一概には言えませんが、そのような動きが出ないとも言い切れませんね」
「今回の騒動は王家を批判することのほんの一部に過ぎないと思います。私の地位が揺るがないようにとスヴェンが配慮してくれているのは、世情をよく知る故かもしれませんね」
「それだけオークランスは力を持つのかもしれませんね。では陛下、成り立ちについてお調べになりますか?確か、ベロニウス侯爵が過去に歴史研究をされていたかと思います。もしかしたら初代の手記も解読されているかもしれません」
「ベロニウス侯爵が?では、侯爵からお話を聞くとしましょうか」
◇◇◇
「陛下、御目にかかれて光栄です」
「ベロニウス侯爵、此度は侯爵家の援助に感謝申し上げます。騎士の活躍により、早い収束となりました」
「いやはや、今回のことはリースベットに任せておりましたので、私は関与しておりません。陛下のお力になったのならば、我が家門の存在意義もあったものです」
ベロニウス侯爵はリースベットの祖父だ。だいぶ歳も重ねられているがまだまだ当主として現役である。
「貴方にお聞きしたいことがございます。貴方は歴史研究をされていたとか……。この国には歴史書がございません。歴史を知るには歴代女王の手記が手懸かりとなるのですが、この国の成り立ちには触れておりませんでした。しかし私がまだ内容を知らない手記がございます。古語で書かれた初代の手記です。そこで、初代の手記について、何が書かれているのか教えていただきたいのです」
ベロニウス侯爵は難しい顔をしていたが、ゆっくりと口を開いた。
「陛下、なぜ、国の成り立ちを記す歴史書がないかわかりますか?国民が知っていても良いはずのものです。それがないというのは、誰かにとって不都合があるからだと考えます。そして、その不都合があるのは、貴族を中心とした国民なのです」
「どういうことなのでしょうか?」
「私はこの国の歴史について研究しておりました。その為に歴代女王の手記はだいぶ読み込みました。それはそれは王宮に通わせていただいたものですよ」
「もしかして、そこで先々代の王妹殿下と出会われたのですか?」
「はい。彼女も研究に協力してくれました。古い文献も惜しみ無く貸し出してくれましたよ」
職場恋愛のようなものだったのだろうか?当時の二人の姿が思い浮かぶような話だった。
「二代目以降の手記には、いつどのように政策を進めていったか、どのような法律が作られたか、どのような出来事があったのかと記されておりました。日記というよりは事務的な記録であったり報告に近いものでしょうか。そして唯一古語で書かれた初代の手記は、解読に時間を要しました。そしてこれは、他の手記とは系統の違うものだったのです。初代女王となったラウラ様の日記でございました。そこで私は真実を知ることになりました」
「真実?」
「はい。それでは、初代の手記に書かれていることを述べるとしましょう」
~手記から読み取ったこと~
我が森に異民族が入り込んだ。この森を囲っている山の向こうにあるという国から来たという。その国ではクーデターが起こって混乱が生じており、国から亡命を図ったという。しばらく滞在させて欲しいとのことだったが、いつまで経っても去らない。それどころかどんどん人は増えていった。なんでも隣国では反乱軍が王家を追放、新しい国が建国されてしまい、ここに逃げ込んだ人々は旧王家派の貴族が多く戻れないという。だから、定住させてくれと言う。しかし、ここは神が宿りし我が守護する森であり、荒らされたくはない。ところが気がつくと、その人々は木々を切り倒し森を開拓し始め、それにより神が怒り始めている。それ故我は拒否し続けたが、一人の男が頭を下げある提案をしてきた。先住民である我を長とした国をここに建国したいと。その男は他の誰よりも気品があり、話の通じるものであった。その男と話し合いの末、以下の条件を取り纏めた。
居住区域は制限し、自然の多くをそのまま残すこと。
これ以上の移民は受け入れないこと。
我の血統を必ず残すこと。
そして、森の中心部を都として開拓、国境のある山奥にはその男が住まい、侵略や移民の無いように守護することになった。我は神との契約者であり、この森が天災もなく豊かに保っているのはそのためであった。我がなくなればその恩恵はなくなるであろう。
~中略~
彼らは保守派で亡命前の文化をそのままに引き継いでいる。故に身分に差があり、格差もあるようだ。男子が格上で女子はそれに従っている。我に頭を下げることを嫌う男たちもいる。我を国の象徴として長に置き、政をかつての王国同様に進めていった。また、争いから逃げてきたにもかかわらず争いは勃発する。人の欲とはなんとも醜い。このまま暮らしていけばいつかこの地を彼らに奪われてしまうのではと危惧し始めた。そして、王という地位を狙い我が命を狙おうとする者が現れた。子孫を遺そう。それ故に、我は再び神と契約した。我の血統を確実に遺すために女子を授けるようにと。子孫を遺すために彼らの中でも我に忠誠のあったものを伴侶に選んだ。我が娘たちが幸多からんことを祈る。
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