34.【後日譚】女王の結婚~女系だけではないのでは~
この国では王家のみが女系で、基本的には男子が家督を継いでいく。貴族では男子が生まれなかった場合直系女子が婿を迎え、その婿は養子縁組をし家督を継ぐのが一般的だった。稀に、女子が家督を継ぐことがあったが、それは婿が重要な職に就いている場合だった。
「クラース、過去の記録を遡っても、王家に男子が誕生したことはありませんよね?」
「そうですね。歴代の手記にもそのようなことは書いてありませんでした。王家だけでなく女王の血をひくものは全て女性です」
「では、今後も男子が生まれる可能性は極めて低いのでしょうね」
王家と一般との捻れに、法としてもう一度整理するべきかと思案した。
「ところで、一般的にも女系の家門はないのかしら?辿れば女子しか生まれていないという家門は?」
「考えたことはありませんでしたね。婿を養子として迎えてしまいますから、爵位を男子が継いでしまいますし…。そうなると、男子が必要だと考える家門は第二夫人を迎える場合もあると聞きますよ」
「となると、別の血筋になってしまうのね」
アーロン・カールグレーンはこれを狙っていたのだろう。女系を断つつもりだったのだ。
「王家ではそういう訳には参りませんから、王族の血筋を残すのが絶対です。そこに性別は関係ありません」
「クラース、では、男子ばかりが生まれる家門もあるのですか?」
「どうなのでしょう?女子よりも男子が生まれることが望まれていますから、男子ばかりだと憂う家門があるとはなかなか話に聞きませんが?」
「それもそうね……」
アリシアは熟考していると、ふとある会話が頭に浮かんだ。
『私はヴァランデル地方に隣接する領地を持つヘドルンド伯爵の長女でした。下に妹があと3人おりまして4人姉妹でしたの』
「そういえば、エメリ様が四姉妹の長女だとお話されてましたわ。ヘドルンドに男子はいたのかしら?」
「詳しくは存じ上げませんが……、では、オークランス辺境伯夫人にお話をうかがってみますか?」
◇◇◇
オークランスとヘドルンドの家門の系譜についてを調べたいと手紙を出していた。オークランス辺境伯夫妻は各々出自の家門の系譜について調査し、報告のため王宮へと訪問することになった。
「ご足労いただき感謝いたします、オークランス辺境伯、辺境伯夫人」
「いえ、王都に再訪することが出来、こちらとしても嬉しい限りです」
アンセルムとエメリは互いに目配せした。再び王都を訪れた際には、今度こそ王都観光を二人で堪能するつもりだったという。
「仲がよろしいようで何よりです。では早速ですが、まずはヘドルンドからお聞きしてもよろしいでしょうか?エメリ様は四姉妹だと仰っていましたね。ヘドルンドの直系はどちらになりますか?」
「はい。ヘドルンドの直系は母です。父は婿養子でした」
「では、女系なのですね?さらに遡った時、男子はいるのでしょうか?」
「はい。三代前の当主は直系の男子でした」
直系男子がいたということは、代々女子しか生まれないということは否定された。
「では、その方が奥方に迎えたのはどちらの家門の方なのです?」
「それが、記載がないのです。どうも、平民の方が嫁いでこられたようで、その方の出自ははっきりしておりません。そしてこのお二人がヘドルンドを継いで以降は女子しか誕生しておりません」
「三代前以降は女子しか生まれていないということですね…。ちなみに、その後の傍系はどのような系譜なのですか?」
「基本的には長女が婿を迎えています。先々代は三姉妹、先代は姉妹です。そして現当主である私の妹は四姉妹です。これまで当主の妹たちはみなさん嫁がれてますが、その先のことまではヘドルンドの記録にはございませんので、詳細はわかりません。ちなみに、現在ヘドルンド女伯爵には娘が二人おります。私の二番目と三番目の妹は女子を一人ずつ生んでおります」
「ということは、現在は傍系でも女子しか生まれていないのですか?」
「そうなのですが、私は息子を二人産んでますわ」
エメリはオークランスに嫁ぎ、スヴェンとブルーノを産んでいる。
「女系しか生まれない、産まないというのはたまたまなのでしょうか……」
女子しか生まれない家門が王家以外にもいるのではという予測は外れたようにも思えた。
「しかしながら陛下、オークランスは逆に男子しか生まれておりません」
こう述べたのはアンセルムだった。
「私には息子が二人おります。私は一人っ子でしたが、父は弟がおりました。先々代は三兄弟です。それ以前の記録を読んでも、娘がいたことは一切記載がございませんでした」
「それは、傍系もですか?」
「叔父上は結婚せず独身でした。先々代の兄弟は結婚前に戦死したとありました。他にも病死だったりと未婚のまま亡くなることも多いようで、直系しか後継はおりません」
直系しか残らずしかも男子しか生まれていない。王家と同じように血の濃さを感じる話だった。
「だとすると、エメリ様はオークランスに嫁いだからこそ男子を産んだということも言えそうですね。ヘドルンドよりもオークランスの血が濃いということでしょうか?」
「どうなのでしょうか?男と女から一人の子が生まれる。生まれる性別は二種類なのですから、確率は五分です。しかし同一の性別しか生まれないというのは特殊と言えるでしょう。その特徴を引き継ぐと言うのであれば血統に強弱があると考えられそうですね」
「……、もし、オークランスの血が濃いのだとしたら、王家にも男子が生まれるかもしれませんね」
しかし、ここで一つの可能性に行き着くことになる。
「それは、果たして喜ばしいことなのでしょうか?」
アンセルムは疑問を呈した。
「女子しか生まれぬために女系で継いでいく王家、他の家門とは異なり特殊故に女王であることに異議はなく、ある意味神格化されています。その王家の血統よりも強い血統があって良いのでしょうか?」
アリシアもその言葉にハッとした。ここまでくると、男子が生まれることは例外的なことなのだ。
「しかし、先ほど貴方が述べたように本来生まれる確率は五分です。一人男子が生まれただけでは強いとは言いきれないのでは?」
「そうですね。ですから統計を取るためにも三人、もしくは四人ほどお産みになられてはいかがでしょうか?」
「?」
アンセルムに倣ってエメリも賛同する。
「そうですわね。子沢山もよろしいですわね」
「え?」
側に控えていたクラースもさらに加えた。
「そうですね、お二人で励まれたらよろしいかと」
「あっ!?」
女王の出産は他人事ではなく自分事だったのだと気付かされたアリシアは、なかなかの難題に直面したと頭を抱えるのであった。
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