31.【後日譚】女王の結婚~ブルーノ・オークランス②~
~アンセルム・オークランスが一度領地に戻った頃~
「王都で剣術大会が開催されることになった。全騎士団から参加者を募り開かれる。第二騎士団からは私が選抜する」
アンセルムは強制的に参加者を決めた。
「残るものは鍛練を強化するように」
そして一同を一度解散させた。
義弟となるカール・ヘドルンド第二小隊隊長とブルーノをその場に残した。
「カール。君はこの者たちを取り調べよ」
アンセルムは参加者名簿とは違う名簿をカールに手渡した。
「取り調べ、裏切り者を炙り出し拘束を」
意図を組んだカールは頷いた。
「それから、取り調べが終わり次第オークランスの領地民をヘドルンドへ一時避難させよ。これは大々的に行うな。時間はまだあるから時間をかけて徐々に行うように。それと私の不在中は当主代理がブルーノとなる。第二騎士団団長代理にも据えることになるが、君が補助してくれ」
「かしこまりました」
カールはすぐに取りかかった。
「ブルーノ、お前は士官学校から一隊分召集しろ。信頼の置けるものは確保できてるか?」
「はい。父上に言われた通り人材を確保しております。今回は有事なのですね?」
「ああ。お前に指揮をとってもらう。どのように進めていくかはカールと相談しろ。いいか、スヴェンは王都で証明する。お前はオークランスで証明するんだ、自分こそが次期将軍に相応しいと」
「次期将軍ですか?兄上は?」
「状況が変わった。しかし、これはオークランスにとって悪い話ではない。まずは我が息子たちは優秀であると証明できればそれで良い」
「わかりました」
こうしてカールとブルーノはそれぞれが活動を開始。
カールは反逆者と思われる者を拘束、第二騎士団に潜り込んでいたカールグレーンの諜報員たちは身動きが取れなくなった。そしてヘドルンド領に領地民を徐々に避難させた。
ブルーノは士官学校に戻ると召集をかけた。入学時から少しずつ集めた仲間は小隊一隊分は編成できる。
オークランスに集めた学生と第二騎士団は連携を組んだ。第二騎士団は有事に備え、カールは第二小隊と本来はスヴェンが率いる第一小隊も合わせて指揮をとった。ブルーノは学生を第三小隊として率いることになった。
そして時が来た。隣国から兵士が攻め込んできた。国際問題に発展することを防ぐため、まずは反撃はせずオークランス領の市街地まで踏み込まれぬよう、国境付近で敵軍の侵略を食い止めるだけに留めていた。
「叔父上、敵国の規模はあまり大がかりではありませんね」
「ああ、これなら自軍のみで対応は出来るが、これで収まる問題なのか?」
「あの、拘束者からは首謀者がカールグレーン侯爵であると聞き出したのですよね?」
「そうだ。隣国からの襲撃が合図で、侯爵と繋がっているサムエルの指示に従えと言われていたと。しかし、そのサムエルは今回王都の剣術大会に連れ出されている。つまり、内通者であり指示役のサムエルがいなければ、あやつらは何の術もない」
「ただの駒の一つだったということですか。まさか尋問され拘束されるとは思わなかったでしょうね…」
カールは尋問のプロだった。裏切り者の炙り出しはさほど時間はかからなかった。
「ブルーノ!」
そこに学生隊員の一人から報告が入った。
「巡回班から報告だ。内地方面から多勢の人影あり。今は一定の距離がある状態で停止している。これは援軍か?」
「「援軍?」」
報告を受けたカールとブルーノは一考した。
「叔父上、父上からの返事は?」
「いや、まだない。しかし、こちらからは応援を頼まなかっただろう?」
「はい」
ブルーノはさらに一考した。
「……、叔父上、拘束者に面会してもよろしいでしょうか?」
「情報は引き出したと思ったが?」
「裏切りのさらに裏切りをさせます」
「裏切りの裏切りだと?」
「はい。捨てられた駒は拾って使いたいと思います」
ブルーノは、拘束者と面会した。
「ブルーノ様!自分は知らなかったんだ!国への謀反に加担させられているなんて、本当に知らなかったんだ!」
尋問を受けたにしては身綺麗な男を見て、ずいぶんと優しい尋問だったのだなとブルーノは思ったが、その向かいにある牢には血だらけでピクリとも動かず椅子に腰掛け項垂れている男がいるのを見て、自分に話しかけている男は素直に自供したのだと理解した。
「知らなかったと言うが、こうなったきっかけは何だ?」
「話を持ちかけられたんだ。でもそれは、金銭的支援だった。『第二騎士団に所属してくれないか?』と、その代わりに危険手当分を支援金として渡してくれると提案されたんだ」
「第二騎士団に所属するだけ?それではただ得をするだけではないか?」
「はい。だから、理由など深くは考えなかった。自分は平民で、それも比較的困窮していた。母の薬代も欲しかったし、妹の為に嫁入り資金は欲しかった。もともと給金の良い第二騎士団を志望するつもりだったし、頷く以外の選択肢はなかったんだ」
「なるほどな」
この男の話では、他にも平民出身者は同じような理由で繋がりを持ち、貴族出身者は身分の高い家門とのコネクションが魅力だったことで協力者となっているとのことだった。
「それで?所属した後のことは?何の指示が?」
「サムエル様の指示に従うようにと。ただそれだけで…」
この男の様子からも本当に何も深くは考えていなかったのだろうとブルーノは理解した。そこでブルーノは男に、そしてこのやり取りを聞き耳を立てて聞いているだろう他の拘束者に聞こえるように語った。
「詳しいことを知らなかったとはいえ、反逆を企てるとは愚かなことだな。同じように首謀者に取り込まれたが他の騎士団に配置されたものや王都にいるものもいるだろう。ただ、お前達は第二騎士団に送り込まれているということを改めてよく考えてくれ。今、隣国からの襲撃が始まった。この後サムエルの指示に従う予定だったのだろう?しかしそのサムエルは今オークランスにはいない。策略は失敗ではないのか?この争いで身の危険が生じているが、援護はあるのか?このままオークランスが陥落となればお前達は見殺しではないのか?つまりは首謀者に真っ先に足切りされるのはお前達だということだ。過酷な環境に送り込まれたのに足切りされる存在ということなのさ。協力するに値する人物なのか、よく考えるべきだったな」
その話に男は青ざめていた。
「フッ…」
そこに、反応を示した男がいた。
「…間抜けな、こったな。黙秘を、続けた自分が、馬鹿馬鹿しいって、こった」
先ほどまでピクリとも動かなかった男が言葉を発したのだ。
「…話す気になったか?」
発した言葉から、この男は何かを知っていると覚ったブルーノは、男の発言を待った。
「蜥蜴の、しっぽか…、この俺も、そこの男も、ここにいる、裏切り者、は、駒の一つという、ことか…」
フッと男が笑うと、さらに続けた。
「坊っちゃん、サムエルと、俺が、直接の、内通者さ。騒動に、便乗し、オークランスで、内乱をと…」
「オークランスで内乱だと?ここに拘束されているのは25人ほどだが?それで他の第二騎士団を倒せると?」
「自分たち、だけでは、力が、足りない…。しかし、隣国から、襲撃、されることで、敵に交じり、数で、上回る予定だった」
「上回る?敵国も小隊二つほどしか来ていないが?」
「隣国は、きっかけに過ぎないんだ。自国からではなく、隣国からであることが、重要で、長引かせれば、王都から応援が、ある、はずだから」
内地方面から多勢の人影があるというのはそういうことかとブルーノは理解した。
「応援とは、お前たちと同じく引き抜かれた反逆者たちということか」
「ああ」
士官学校を優秀な成績で卒業したとしても、その後の環境が重要だとブルーノは実感していた。オークランスにいる第二騎士団の実力は、士官学校首席の実力者とは比べ物にならぬ程あるからだ。
そこで、ブルーノはある案を提示した。
「お前達は捨てられた駒のまま終わるか?一矢報いる気はあるか?お前達は学校で優秀だったから引き抜かれたのだろう。しかしその後の道は様々だった。内地でどんな暮らしをしているかは知らないが、第二騎士団の鍛練を耐え抜いているお前達の方が他の反逆者より優れていると証明しないか?よく知りもしない貴族ではなく、この私、ブルーノ・オークランスの手足にならないか?」
「俺たちはここで終わるわけにはいかない。死んでしまってはそれこそ家族は路頭に迷う。お願いだ、ブルーノ様の元に置いてください!」
男は土下座して頼み込んだ。他の者も同じだった。
「しかし、敵味方が混じっていてはどのように戦うと?お前たちが仲間であると他の者は知っているのか?」
内通者のことしか知らない末端の反逆者は、他の者の存在など知らなかった。
「有事の、際には、目印をと。赤の、ハンカチを、左腕に。坊っちゃん、ここにいる、やつら以外に、あと、5人はいると思うぜ」
見れば拘束者らは赤いハンカチを身に付けていた。赤はカールグレーンの紋章の色でもあった。
「なるほど。他に情報はあるか?」
「他には、ない。今、思えば、なぜ、あの男の言う通りに、動いて、いたんだろうな…」
息も絶え絶えに話してくれた男は、疲れたのか再び動かなくなった。
「ブルーノ。指示が来た。『追加人員なし、敵を鎮圧せよ』だそうだ」
カールが戻ってきた鷹に括られていた指示を読み上げた。
「どうする?」
ブルーノは一考すると決断した。
「…、叔父上は第二騎士団を率いて敵国軍の鎮圧を!私は学生騎士団とここにいる者たちを率いて、援軍のふりをした反乱軍の制圧に向かいます!」
カールと第二騎士団は食い止めていた敵国軍をあっさりと鎮圧。敵将を拘束し尋問を開始。そして策略の詳細を知ることになる。
ブルーノは、赤いハンカチを身に付けている騎士は味方であるという計画を利用し拘束組を囮として使い、地の利を生かして反乱軍を誘き寄せると一気に制圧した。数ではオークランスの軍の方が少なかったが、剣術の技量については言うまでもない。
「見事だった、ブルーノ。まさか、自軍の裏切り者を取り込むとはな」
「いえ、全ては相手の浅はかな策略のお陰です。信頼など皆無でしたからね。まだこちらの方が繋がりが強かったことが要因でしょう」
「さあ、また報告をしようではないか」
カールは鷹に手紙をくくりつけ、王都に向けて解き放った。
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